「中東への自衛隊派遣に反対する声明」を出しました
2020/2/12
日本労働弁護団では、自衛隊の中東派遣に関する声明を出しました。下記に掲載しましたので、どうぞご覧下さい。
【自衛隊の中東派遣に反対する声明】(PDF)
自衛官の生命・身体を危険にさらす中東への自衛隊派遣に反対する声明
2020年2月12日
日本労働弁護団 幹事長 水野英樹
2019年12月27日、イランと米国の緊張関係を受け、内閣は、防衛省設置法4条1項18号を根拠として、「日本関係船舶の安全確保に必要な情報収集体制を強化すること」を目的に、固定翼哨戒機P3-Cと護衛艦1隻を中東地域に派遣することを決定し(以下「本件閣議決定」という。)、2020年1月11日、派遣が行われた。本件閣議決定は、日弁連など、法律家諸団体が指摘するように、本来、自衛隊の任務、行動及び権限等は「自衛隊法の定めるところによる」(防衛省設置法5条)とされているにも関わらず、自衛隊法によらず行うものであること等から、違法である可能性が高い(日弁連2019年12月27日付「中東海域への自衛隊派遣に反対する会長声明」参照)。
しかも、2020年1月2日、米国は、イランのソレイマニ司令官を空爆によって殺害したことを公表すると、イランは報復を宣言し、2020年1月8日、イラク国内の米軍施設に十数発以上の弾道ミサイルを発射し、イランと米国の関係は極めて高い緊張状態にある。にもかかわらず、
菅官房長官は、同日、中東への自衛隊派遣の方針に変更はないと述べ、前述の通り、同月11日、派遣が実行された。
しかし、自衛隊を中東地域に派遣することは、以下の通り、自衛官に対する安全配慮義務の観点から許されないというべきである。
1 まず、上記の通り、本件閣議決定による自衛隊の派遣は、自衛隊法ではなく、防衛省設置法4条1項18号を根拠にしたものであり、法令の根拠に基づかない、自衛隊の任務外の業務である。
2 そして、派遣の実質をみても、日本は、米国と密接な軍事同盟関係にあることから、日本の護衛艦(destroyer=駆逐艦)及び哨戒機(潜水中の潜水艦を発見、攻撃する軍用機)が、「情報収集」のために紛争の他方当事国の沿岸において、米国と「必要な意思疎通や連携を行」なって活動することは、米軍等の軍事活動と一体化し、国際人道法上の交戦者として攻撃対象とされる可能性がある。
3 また、本件閣議決定による活動目的は、「日本関係船舶の安全確保に必要な」情報収集にあるとされ、かかる自衛隊の活動に伴い、海上警備行動(自衛隊法82条)が行われることも想定されている。しかし、海上警備行動の要件は「人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合」であり、自衛官自身の危険が想定される他、これにより武器の使用が行われた場合、戦闘行為に発展する可能性がある。
4 さらに、もし米軍が戦闘行為=武力の行使に発展した場合には、2015年9月に成立した安保関連法の存立危機事態、すなわち「日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険」があるとされ、政府がこの事態に認定したうえで、集団的自衛権行使に踏み出すことも想定できなくもない。このことは、立法時の政府が、存立危機事態の発動例として、中東の石油の供給確保を挙げていたことからも十分に考えられるところである。
このように、上記のような現下の情勢のもとで、あえて紛争当事国の沿岸に、政府解釈によっても本来専守防衛であるはずの、「我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務」とする(自衛隊法3条1項)自衛隊員を派遣することは、法的に根拠を欠く可能性が高い積極的に武力衝突の危険へと接近する行為であって、自衛隊法上許容されない行為である。
また、上記2乃至4に述べたように、事態の進展如何によっては、武力衝突の危険性も想定されるにもかかわらず、自衛官にその具体的危険性の説明を尽くしていない可能性が高く、そのような説明を尽くさずに派遣することは、自衛官の真意に基づく同意を得た危険業務への従事とはいえない。
したがって、本件閣議決定に基づく自衛隊の中東地域への派遣は、自衛隊の任務の性質に鑑みても、国の自衛官に対する安全配慮義務にもとる行為として許されない。
自衛官の生命・身体を守るため、当弁護団は、中東地域への自衛隊の派遣に断固として反対する。
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