大阪・泉南アスベスト国賠(第1陣訴訟)大阪高裁不当判決に抗議する決議

2011/11/12

 2011年8月25日、大阪高等裁判所第14民事部(三浦潤裁判長、大西忠重裁判官、井上博善裁判官)は、大阪・泉南アスベスト国賠第1陣訴訟において、国の責任を認めた大阪地裁判決を取り消し、原告の請求をすべて棄却するという不当極まりない判決を言い渡した。
大阪泉南地域は戦前から100年にわたり石綿紡織業が発達し、小規模零細の石綿工場が集中立地し、早くから深刻な被害が発生していた。国は、70年も前に、自ら泉南地域を中心とした石綿紡織工場の労働実態調査(内務省保険院調査)を行い、戦後も昭和20年代後半から繰り返し被害実態調査を行って、石綿肺や肺がんなどの重篤な呼吸器疾患が深刻に発生していることを詳細に把握していた。したがって、国には、早くから石綿被害の発生を防止する規制や対策が強く求められていた。にもかかわらず、国は、戦前は軍需、戦後は高度経済成長を最優先させて石綿産業を保護、育成、利用する一方で、泉南地域の小規模事業主や労働者、その家族、近隣住民に対してアスベストの危険性を積極的に知らせず、局所排気装置の設置の義務付けなどの必要な規制や対策も怠った。その結果、泉南地域において、長期にかつ大量に、石綿肺や肺がんなどの石綿被害を発生、拡大させた。
昨年5月19日、大阪地裁は、このような泉南地域における被害発生に対して、国の規制権限不行使の責任を認め、国に対して全損害の賠償を命じる判決を下した。しかし、大阪高裁判決は、かかる一審判決を取り消し、原告らの請求を全て棄却する信じがたい不当判決を下した。
高裁判決は、生命や健康、生活環境への弊害が懸念されるからといって、工業製品の製造、加工等を直ちに禁止したり、あるいは、厳格な許可制の下でなければ操業を認めないというのでは、工業技術の発達及び産業社会の発展を著しく阻害する、国が規制を実施するにあたっては、対立する利害調整の関係を図ったり、他の産業分野に対する影響を考慮することも現実問題として避けられない、労働者に健康被害が発生した場合であっても工業製品の社会的必要性及び工業的有用性も踏まえるべきであるなどとして、産業発展等を理由にして、国の規制権限不行使の違法を極めて限定的にしか認めないと判示した。これは、労働者や住民のいのちや健康よりも産業発展、経済発展を優先することを露骨に示したものであり、いのちや健康こそが最も尊重されるべきとしている憲法の価値基準への重大な挑戦である。同時に、私たちの先達が、多くの犠牲を払いながら、公害訴訟やじん肺訴訟等で獲得してきた被害者救済を重視して経済性を度外視しても公害対策を行うべきとする司法判断や、国の規制権限を厳格に捉え、国は医学的知見や科学技術の発展に則して「できるだけ速やかに」「適時、適切に」規制権限を行使すべきとした筑豊じん肺最高裁判決、水俣病関西訴訟最高裁判決の流れにも真っ向から逆行するものである。
  また、高裁判決は、泉南地域の小規模零細の石綿工場や泉南アスベスト被害者の労働実態を全く見ようとせず、じん肺対策では補完的な位置づけでしかない「防じんマスク」着用の有無に泉南アスベスト問題を矮小化し、国の法的責任をすべて免責した。まさに、労働実態無視、被害者軽視の行政擁護の不当判決である。
  高裁判決は、アスベスト被害の原点である泉南アスベスト被害の救済に背を向けたばかりか、多くの公害訴訟、じん肺訴訟、薬害訴訟などで勝ち取ってきた、いのちや健康を重視する被害者救済の裁判や運動の到達点を根底から覆すものである。このような判決がまかり通るならば、全国で闘われている建設アスベスト訴訟や公害訴訟、さらには原発被害等に対する国の責任追及にも大きな否定的な影響を及ぼしかねない。
  日本労働弁護団は、このような不当判決に断固抗議し、最高裁判所に対して高裁判決の速やかな破棄を求めるとともに、アスベスト被害者の全面的な救済に向けた闘いを総力で支援することをここに決議する。
                                                                                 2011年11月12日
                                                                                         日本労働弁護団第55回総会