日本航空整理解雇事件について公正な判決を求める決議

2011/11/12

1 株式会社日本航空インターナショナル(現商号「日本航空株式会社」、以下、「JAL」とする)は昨年12月31日、運航乗務員(機長、副操縦士)81名、客室乗務員84名の合計165名の整理解雇を実施した。解雇された乗務員はベテランの経験豊かな乗務員であり、JALの安全運航を現場で長年にわたって支えてきた。
  解雇されたこれら乗務員の内、運航乗務員74名(その後、追加して2名が提訴)、客室乗務員72名の合計146名は、今年1月19日、東京地方裁判所に対して、解雇の撤回・職場復帰と未払い賃金の支払いを求めて、運航乗務員、客室乗務員に分かれて訴訟を提起した(前者は民事第36部、後者は民事第11部に係属)。訴訟は、今年9月に、両事件それぞれ2期日ずつの集中的な証拠調べが行われ、この内、客室乗務員の訴訟では、稲盛和夫会長の代表者本人尋問も行われた。各訴訟は、2011年12月下旬にいずれも最終口頭弁論期日が指定され、来春にも判決が言い渡される情勢となっている。
  本件事件では、いわゆる「整理解雇の4要件」のそれぞれについて、原告らとJALが全面的に争ってきた。各要件ごとに争点は多岐に渡っており、それらに対する裁判所の判断は、今後、各地で闘われる整理解雇事件に対し、先例として大きな影響を及ぼすものと予想される。しかしながら、本件において最大の争点は、整理解雇実施時点での解雇の必要性が果たして認められるか否かである。
2 日本航空は、会社更生手続下にあって、更生計画に定められた不採算(赤字)路線からの撤退、機材の小型化等のリストラ策を進めると共に、賃金を初めとする労働条件の大幅な切り下げを実施してきた。また、JALグループの人員削減目標数(2009年度末の48,714人から2010年度末には約32,600人とする)を必達とし、特別早期退職措置や希望退職募集措置を繰り返してきた。
  その結果、JALグループは、2010年度(2010年4月1日から翌年3月末日)には、連結営業利益で過去最高益の1884億円を計上した。これは、2010年11月30日に認可された更生計画の同年度目標額641億円の実に2.9倍の実績である。また、更生計画の同年度の想定人件費2755億円に対して、実績は2549億円となり、計画値より206億円も人件費を削減させている。解雇された運航乗務員や客室乗務員の1年間の人件費が14.7億円と試算されていることに照らせば、今回の整理解雇が過剰な施策であったことが明らかとなる。さらに、2010年度は6431億円の当期純利益を計画していたが、実績は8161億円にも達している。これらの経営指標の改善は、更生計画案が提出された2010年8月30日以降、JALが発表した各月の収支状況とその累計においても明らかであった。
  また、更生計画では、純資産について、2010年度末248億円、2011年度末822億円、2012年度末1807億円を計画していたが、2010年度末には早くも約2200億円の純資産を達成した。連結自己資本比率も、すでに2012年度の目標を上回っている。
  JALは、更生計画において、更生債権・更生担保権について、7年の分割弁済を予定していたが、上記の経営状況を受けて、2011年3月には、金融機関の融資と手持ち資金1400億円を使って、未弁済額3951億円を繰り上げ一括弁済し、これにより更生手続きの終結を見るに至った。 
  JALの稲盛和夫会長は、2011年2月8日の記者会見においても、また2011年9月30日の被告代表者本人尋問においても、繰り返し、165名を雇用し続けることは経営上不可能ではなかったことを明らかにしている。
3 これに対して、本件解雇を実施したJALの当時の管財人は、事業規模の縮小に伴い、縮小された事業規模に見合った人員体制にするために、運航乗務員、客室乗務員それぞれの削減目標数を達成しなければならず、スポンサー(企業再生支援機構)や主要債権者が予めそうしたリストラを行うことを前提として再建の方向性について協議をした上、事業毀損を最小限に抑える段取りを整えて更生手続の申立を行う、いわゆる事前調整型会社更生にあっては、業績の一時的回復を理由に必要なリストラを実施することが否定されれば、我が国においては、今後二度と事前調整型の法的再建手続きが行われなくなり、結果として、将来、窮境にある数々の企業のより多くの雇用を守ることが阻害されると主張している。また、会社更生手続にあっては、二度と破綻しない会社にするために、イベントリスクにも耐えうるだけの人件費コスト削減を実施しなければならないというスタンスに立ち、「余剰人員」を削減する整理解雇の正当性を主張している。
4 しかし、前記の見た経営指標の改善は、業績の一次的回復ではなく、徹底的なリストラによる人件費コストなど固定費の削減が原因であることが訴訟上明らかになっている。また、人員削減の実績を見ても、更生計画に定められたJALグループの人員削減目標数(2009年度末の48,714人から2010年度末には約32,600人とする)を1300人も超過達成していることに争いはない。
  労働契約関係における信義則は、更生手続中の企業の使用者においてもその遵守が求められるのであり、整理解雇という甚大な不利益を従業員に強いることができる場合があるとしても、それは少なくとも更生計画による企業の再生に必要不可欠な範囲に限られる。このことは事前調整型会社更生手続きにあっても何ら変わることはない。人件費コスト削減を理由に、会社が一方的に算定する「余剰人員」を当然に整理解雇できるとするならば、「整理解雇を選択する必要性」などの「整理解雇の4要件」は事実上撤回されたに等しい。
  JALにおいて、2010年12月末の時点で、165名の乗務員を整理解雇しなければならなかった必要性はおよそ認められない。
5 日本労働弁護団は、整理解雇法理の形骸化を許さず、また、解雇された乗務員が、一刻も早く職場に復帰し、安全運航と国民の移動する権利を保障する公共交通事業であるJALの再建に貢献することができるよう、裁判所に対し、本件整理解雇の無効を認め、原告ら全面勝訴の公正判決を求めるものである。          

                                              2011年11月12日 日本労働弁護団第55回全国総会