日本版DBSに関し、児童対象性暴力等が行われるおそれが客観的・適切に認定されるよう求めるとともに、より根本的な性被害防止策を充実させることを求める声明

2024/4/17

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日本版DBSに関し、児童対象性暴力等が行われるおそれが客観的・適切に認定されるよう求めるとともに、より根本的な性被害防止策を充実させることを求める声明

2024年4月17日
日本労働弁護団
幹事長 佐々木亮

 2024年3月19日、「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」案が閣議決定され、国会において審議されることとなった。

この法律案は、いわゆる日本版DBS(以下「本制度」ともいう)を創設するもので、学校設置者等及び、認定を受けた学習塾などを含む、民間教育保育等事業者に対して、次の点を義務付けるものである。

⑴ 教員等の業務に従事させるにあたり、一定期間内(自由刑の実刑を受けた者については刑の終了から20年、執行猶予判決または罰金刑を受けた者については10年)に性犯罪歴があるか否かの確認を国を通じて行うこと(学校設置者等につき4条1項、民間教育保育等事業者につき26条1項)

⑵ 児童等との面談その他の教員等による児童対象性暴力等が行われるおそれがないかどうかを早期に把握するための措置(5条1項、20条1項2号)

⑶ 教員等による児童対象性暴力等に関して児童等が容易に相談を行うことができるようにするための措置(5条2項、20条1項3号)

⑷ ⑴の犯罪事実確認の結果、⑵の措置により把握した状況、⑶の児童等からの相談の内容その他の事情を踏まえ、その者による児童対象性暴力等が行われるおそれが認められる場合、教員等として本来の業務に従事させないこと等の措置をとらなければならない(6条、20条1項4号イ)

なお、既に教員等として従事している者についても、一定期間内に犯罪事実確認を行わなければならず(4条4項、26条3項等)、その結果によっては上記⑷の措置を講じなければならないとされている。

教育現場・保育現場等に限らず、児童への性暴力等が行われることは断じて許されるものではなく、これを防止するための措置を講じなければならないことは言うまでもない。本制度は、教育・保育等の場に関する限りにおいて、児童への性暴力を防止することに一定の役割を果たしうるものである。

 ただし、上記⑷の人事上の措置の前提となる、児童対象性暴力等が行われる「おそれ」は、客観的事実に基づき、適切に判断されなければならない。特に上記⑵や⑶など学校設置者等及び民間教育保育等事業者が自ら情報を収集し、客観的事実の有無を判断しなければならないものについては、誠実な学校設置者等及び民間教育保育等事業者であっても、調査能力に限界があり、事実認定の経験も乏しいことから、客観的事実に反した判断がなされることが懸念される。誤って「おそれ」がないと判断されれば、さらなる児童への性暴力等がなされる危険があるし、誤って「おそれ」があると判断されれば、無辜の教員等に性犯罪者・性暴力者の烙印を押すこととなる。客観的事実に基づかないまま、誤って「おそれ」があるとしてなされた解雇や配置転換、内定取消しは無効であるが、これを争う労働者の負担は重いし、十分な名誉回復を図ることは困難である。

また、児童対象性暴力等が行われる「おそれ」がある場合であっても、それに対する人事上の措置が過重なものであってはならない。例えば、解雇には客観的合理的理由及び社会的相当性が必要とされるが(労契法16条)、これは本法律案が制定されても何ら変化するものではない。「こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議」報告書も「性犯罪歴があるという一事をもって配置転換等を考慮することなく直ちに解雇することについて、客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められるとは考えにくく、他の事情をも考慮して、解雇の有効性が判断されることとなる。」(15頁)としているが、妥当な指摘である。

以上の点を踏まえ、児童対象性暴力等が行われる「おそれ」の認定にあたっては、その「おそれ」が客観的に認定されることを必要とするなど、使用者の恣意によらないことが担保され、また、検証可能となるようにされなければならないことを法律に明記し、又は本法律に基づく内閣府令に具体的に定めるべきである。また、事業者が「おそれ」の判断を適切に行えるよう、行政等が支援する仕組みも設けられるべきである。なお、使用者の恣意によらないことを担保し、検証可能とすることは、学校設置者等及び民間教育保育等事業者が「おそれ」がないと判断した結果、さらなる児童への性暴力等が発生してしまったような場合に、当時の対応を検証し、再発防止を図る上でも有用である。

 次に、犯罪事実確認がなされたという情報は、極めて機微な個人の前科に係る情報であるから、法所定の漏洩防止措置のみならず、事実上これが推知されたり、探索されたりすることを防ぐ措置がなされなければならない。11条に基づく内閣府令でこれを的確に定めることを求めるとともに、制度運用に当たっては使用者に慎重な考慮を求める。

 繰り返しになるが、児童への性暴力は断じて許されるものではなく、本制度はその防止に一定の役割を果たすものと思われる。しかし、本制度の運用によって、教育現場・保育現場等における児童に対する性暴力等を根本的に防止するためには、使用者による十分な人員体制の確保、新たな設備や技術の導入など、児童の安全を守るための組織的な体制整備及びこれらに対する国や自治体によるハード・ソフト両面の支援が不可欠である。このような組織的な対策を疎かにし、教育現場・保育現場等に過度な負担を強いることはあってはならない。当弁護団は、国や自治体に対し、教育現場・保育現場等における児童の安全を守るための体制整備を広く支援するとともに、全ての者が安心して就労・生活できる社会にするための取り組みをするよう求める。

以上