「ライドシェア」の実施及び法制化に反対する声明

2024/4/18

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「ライドシェア」の実施及び法制化に反対する声明

2024年4月18日
日本労働弁護団 幹事長 佐々木亮

 はじめに
 2024年4月8日から、東京23区、武蔵野市及び三鷹市において「日本型ライドシェア」が開始され、今後、同様の方式による事業が各地で開始されることが報道されている。「日本型ライドシェア」では、タクシーとは異なり、タクシー車両ではなく自家用車が使用され、普通第二種運転免許(いわゆる「二種免許」)を有していない運転者により運行が行われている。これは、いわゆる「白タク」の合法化に他ならない。
 日本労働弁護団は、「日本型ライドシェア」を含めたあらゆる「ライドシェア」が、タクシー労働者の労働条件悪化を招きかねず、また、公共交通としての安全性を脅かしかねないことから、その実施に反対をしてきた(2024年2月26日付け「『ライドシェア』解禁に反対する緊急声明」)。この「日本型ライドシェア」の実施は、今後、あらゆる「ライドシェア」の実施に途を開くものとなりかねず、タクシー労働者の労働条件をさらに悪化させ、また、公共交通であるタクシーの安全性をも脅かすものである。当弁護団は、改めて、あらゆる「ライドシェア」の実施に反対する。

 「ライドシェア」の問題点
 そもそも、諸外国における「ライドシェア」は、①事業免許を有さず、また②有償旅客運送のための運転免許(日本では二種免許)を所持しない運転者が、③個人事業主として利用者(消費者)から運送を請け負い、④運転者が所有する自家用自動車を走行させることで運送を行い、その際の運賃は⑤事前に定められ、また、⑥需給バランスによって変動することを、主たる内容とするものである。

 現在、いわゆる「日本型ライドシェア」として実施されているものには、上記②、④、⑤の要素が含まれている。他方、①及び③については既存のタクシー会社が運転者との間で雇用契約を締結することとしており、⑥は実施しないこととなっている。この「日本型ライドシェア」では、タクシー事業者が主体となり運転者と雇用契約を締結することを特徴として強調されているが(ただし、後述のとおり、これら特徴は今後も維持される法的裏付けはない)、最大の問題は、二種免許を有しない運転者(素人ドライバー)に自家用自動車を用いて有償旅客運送事業を担わせてしまう点である。

 あたかも、新たな法制度が創設されたかのような印象を与える報道がなされているが、実際には法改正をせず、道路運送法78条3号が定める「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき」に該当するとして開始されている。

 しかし、同号は、きわめて例外的な場面に限定し自家用自動車による有償旅客運送を許容しているのであって、安易に適用されるものではない。「公共の福祉」の確保に必要であるとの実証的な裏付けも不十分なまま、タクシー不足を理由に方便として開始するこの「日本型ライドシェア」は、「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合」との要件を充足しておらず、違法である。

 しかも、このような「日本型ライドシェア」は、日本のタクシー事業政策が、運転者を二種免許保有者に限定し、タクシー労働者に一般運転者とは異なる地位を与えてきたことに反するものである。また、自家用自動車の参入を許すことは、特に2014年以降はタクシー車両の供給過剰に対する規制をすることによって一台当たりの売上減少によるタクシー労働者の労働条件悪化に対応してきた規制強化の政策決定にも反するものであって、断じて容認できない。そして、「日本型ライドシェア」の要素に加え、上記①、③、⑥の要素を含むものがいわゆる「ライドシェア」である。特に、③については、諸外国において「ライドシェア」運転者の「労働者」性が裁判手続において争われていているところである。当弁護団は、③の特徴を有するいわゆる「ライドシェア」の実施について、本来「労働者」として扱われるべき運転者を形式的に労働関係法制の埒外に置くもので、これにより運転者の法的地位を弱めるものであるから、強く反対する。

 通達の問題点
 いわゆる「日本型ライドシェア」の実施にあたって、国土交通省は、「法人タクシー事業者による交通サービスを補完するための地域の自家用車・一般ドライバーを活用した有償運送の許可に関する取扱いについて」(令和6年3月29日 国自安第181号、国自旅第431号、国自整第282号。以下、「本通達」という。)を定めている。
 かかる通達は、道路運送法78条3号に反するものであるが、以下、本通達の問題点を指摘する。

⑴ デジタル行財政改革会議が中間とりまとめを2023年12月20日に公表した後、東京ハイヤー・タクシー協会は、事業者と自家用自動車の運転者との間で雇用契約を締結することを前提にした「東京版ライドシェア」の実施を表明した。本通達でも、一般乗用旅客自動車運送事業の許可を受けていることが資格要件とされ、旅客自動車運送事業者を規制する旅客自動車運送事業運輸規則(運輸規則)36条2項が、事業者が運転者を「雇い入れた」場合の運転者に対する指導監督等の義務を定めているため、本通達による「日本型ライドシェア」の実施については、現行の道路運送法上は事業者が運転者との間で雇用契約を締結することを前提にしているものと解釈できるだろう。
 もっとも、本通達は、「日本型ライドシェア」で自家用車と一般ドライバ-を活用するにあたり、法人タクシー事業者が自家用自動車の運転者との間で雇用契約を締結することを直接求めていないので、上記運輸規則の改正により対象から自家用自動車と一般ドライバーを活用する場合を除外してしまえば、雇用契約締結を前提とする運用は容易に潜脱できてしまう。
 そもそも、「日本型ライドシェア」が実施される契機となったデジタル行政改革会議の中間とりまとめでは、「ドライバー〔注:自家用自動車の運転者〕の働き方について、安全の確保を前提に、雇用契約に限らずに検討を進める」とされていることからすると、今後、本通達を雇用契約によらず運用することができるよう、国会による法改正を要しない運輸規則の改正により、運転者を個人事業主として扱う、いわゆる「ライドシェア」の実施が可能となる危険性があり、その途を開くものであるといえる。

⑵ また、「日本型ライドシェア」は、道路運送法78条3号に定める「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合」に国土交通大臣の許可を受けて実施される。本通達は「安全・安心を前提に、地域交通の『担い手』『移動の足』不足を解消することを目的」とするとしながらも、許可基準として、「タクシーが不足する地域、時期及び時間帯並びにそれぞれの不足車両数を、国土交通省が指定していること。」という、極めて抽象的な基準を掲げ、行政のフリーハンドとしていることにも、法治主義の観点から問題がある。
 たとえば、東京特別区・武三交通圏において「日本型ライドシェア」の対象となる時期・時間帯は、平日午前7時から午前10時の間、金曜日及び土曜日午後4時から午後7時の間、土曜日午前0時から午前4時の間、日曜日午前10時から午後1時の間となっており、これは、国土交通省が配車アプリ事業者大手4社から提供を受けたデータに基づいて算出した、マッチング率(アプリを利用した配車依頼件数とこれに対するタクシー運転者の承諾件数から算出した割合)が90%を切る時間帯を前提に設定されている。もっとも、90%を切る時間帯を「タクシーが不足する」とし、これが「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合」と言えるかは疑問である。
 しかも、このデータはアプリを利用した配車依頼とこれに対するタクシー運転者の承諾件数の割合によるものであるから、利用者が流し営業をしているタクシー車両に乗車できた場合や、駅や飲食店付近で客待ちをしているタクシー車両に乗車できた場合は含まれていない。そのため、実際に都市部においてタクシー車両が不足していることを実証的に示しているものとはいえない。
 ちなみに、上記時間帯には、マッチング率が70%を切る時間帯が、交通量の多い朝の通勤時間帯である月曜日と金曜日の午前8時台、労働の負荷が大きい深夜時間帯(労働基準法37条4項参照)である土曜日午前1時から午前4時までの間である。このデータが実態を表しているとしても、このような極めて限定的で、交通事故を起こしやすい時間帯に、自動車運転を生業としない、2種免許を有せず、しかも場合によっては運転者が従事する本業の労働時間以外の時間帯で副業的に、運転者有償旅客運送を行わせることは、むしろ利用者の安全性を脅かし「公共の福祉」に反する事態を生じさせる危険性があるものといえる。
 さらに、2024年3月29日に国土交通省が物流・自動車局旅客課が公表した、報道発表資料の別添1によると、「自家用車活用事業の進め方」として、札幌交通圏、仙台市、県南中央交通圏(埼玉)、千葉交通圏、大阪市域交通圏、神戸市域交通圏、広島交通圏及び福岡交通圏以外の地域においては、「金曜日・土曜日の 16 時台から翌5時台をタクシーが不足する曜日及び時間帯とし、当該営業区域内のタクシー車両数の5%を不足車両数とみなす」こととしたり、さらにこの場合に限らず、「営業区域内の自治体が、特定の曜日及び時間帯における不足車両数を運輸支局へ申し出た場合は、その内容を不足車両数とみな」した上で、タクシー事業者に実施意向がある場合に順次実施するとしている。このような手法は、実態調査に基づくものでは全くなく、「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合」に該当するとは到底言えない。

⑶ また、本通達では、事業者ごとに使用可能な自家用自動車の車両数を地方運輸局長等が通知する範囲内としている。
 自家用自動車の車両数は、マッチング率に応じて定められるものと思われるが、先に述べたとおり、マッチング率は、利用者が流し営業をしているタクシー車両に乗車できた場合や、駅や飲食店付近で客待ちをしているタクシー車両に乗車できた場合を反映していない。そのため、車両が供給過多となり、既存のタクシー事業者において就労するタクシー運転者の就労機会を奪ってしまい、これによって歩合給制を中心とするタクシー運転者の賃金が減少する可能性がある。

⑷ さらに、本通達は、消費者(利用者)保護の観点からも問題がある。本通達は、運送形態・態様として、事業者に対して「運送の引受けに当たって、自家用車活用事業による運送サービスが提供されることについて、利用者の事前の承諾を得ていること。」を求めている。
 しかし、事業者が「事前の承諾」さえとれば、それが包括的なサービス規約の同意であっても許され得る定めになっており(配車依頼時、利用者の承諾を逐一とるようにとの規制はない)たとえば、利用者による配車依頼時に個別に同意を得るのではなく、アプリをインストールする時点や利用規約の変更により、包括的に、アプリを利用する場合には自家用自動車による運送についても承諾を得てしまうことも許されるものとなっている。
 利用者からすれば、2種免許を取得した運転手・タクシー会社の管理する車両であるのか、自家用車と一般ドライバ-であるのかは、安心してタクシーを利用するため大きな関心事であるが、その選択が適切に情報提供されない可能性もある。
 そもそも、このように利用者の選択にかかわる重大な点は、本来は国会での審議を経た法改正を踏まえて行うべきところ、民主的な手続きを経ずに本通達でこのような重大な運用の変更をすることは、利用者(消費者)の視点・行政運営の健全さという観点からも重大な問題がある。

⑸ 本通達では、自家用車活用事業の許可を取り消す手続きが定められていないことも問題である。
 仮に今後タクシー事業者において就労する労働者が増加し、タクシー運転者と利用者のマッチング率が改善した場合には、先に指摘した本通達の目的に照らせば、当該地域において「日本型ライドシェア」を実施する必要性はなくなるはずである。
 しかしながら、許可を取り消す手続が定められていない以上、目的不適合の状態が継続してしまうことになる。
 そうすると、自家用自動車とタクシー車両の合計が供給過多となってしまい、タクシー運転者の労働条件が悪化し、既存のタクシー事業者の経営を悪化させ、ひいては、利用者の利益の安全(道路運送法1条)や公共交通の安全性も脅かされる危険性がある。

⑹ このように、本通達は、いわゆる「ライドシェア」の実施への途を開くものとなる可能性があるだけでなく、2014年以降行われてきた、タクシー車両数を制限することによるタクシー労働者の労働条件悪化に対応する政策に真っ向から反するものであって、本通達による「日本型ライドシェア」の実施は到底容認できない。
 本来、このような重大な政策の変更は、タクシーの車両数制限が国会での審議を経て法改正で行われたのと同様、国会での審議を経た法改正を経て行われるべきであるのに、本通達によって道路運送法78条3号を脱法して自家用車と一般ドライバ-を活用する途を大きく開くことは重大な問題である。

 あらゆる「ライドシェア」の実施に反対する
 報道によれば、本年6月を目処に、いわゆる「ライドシェア」を実施することが可能となる新法の方針が示される可能性がある。
 しかしながら、本通達をもとに実施される「日本型ライドシェア」についてだけでも上記のように多数の問題点を指摘することができる。
 あらゆる「ライドシェア」は、タクシー運転者の労働条件を悪化させ、公共交通であるタクシーの安全性を脅かし、何よりも、プロフェッショナルとして日本の公共交通を日夜支えるタクシー運転者の労働者としての誇りを踏みにじるものであって到底容認できない。
 日本労働弁護団は、改めて、タクシー事業者を運営主体にする「日本型ライドシェア」を含め、あらゆる「ライドシェア」解禁の動き、その法制化に断固反対する。

以上