いわゆる経産省事件(トランスジェンダーのトイレ利用の制限が問題となった事件)最高裁判決を踏まえ、より良い職場環境の実現を求める声明

2023/7/31

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いわゆる経産省事件(トランスジェンダーのトイレ利用の制限が問題となった事件)最高裁判決を踏まえ、より良い職場環境の実現を求める声明

2023年7月31日
日本労働弁護団 幹事長 佐々木亮

 
 最高裁判所は、2023年7月11日、経済産業省に勤めるトランスジェンダー女性(一審原告)が、就業する庁舎のうち執務する階とその上下の階の女性トイレの使用を認められないという処遇(本件処遇)を受けており、職場の女性トイレを自由に使用させることを含む行政措置の要求をしたことに対し、人事院が平成27年5月29日付でした、当該要求を認めない旨の判定(「本件判定」。特にトイレ使用に係る要求に関する部分を「本件判定部分」という。)をしたことについて、本件判定部分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法であると判断した。

 日本労働弁護団は、同判決の結論に賛同し、次の通り法廷意見及び各裁判官による補足意見を評価する。

 まず、各補足意見において、自己の性自認に基づいて社会生活を送る利益を重要な利益と位置づけたことは、適正である。法廷意見において、一審原告が自認する性別と異なる男性用のトイレを使用するか、執務階から2階以上離れた階の女性トイレ等を使用せざるを得ない本件処遇によって「日常的に相応の不利益を受けている」と評価しているのもかかる見解に基づくものと考えられる。

 また、当該利益との調整対象となる他の女性職員らの利益に関して、抽象的な「違和感・羞恥心」を過度に重視すべきではなく、また、研修等のプロセスや時間の経過によってこうした違和感等についても解消される可能性を指摘していることも評価できる。

 そして、法廷意見は、本件の当事者及び職場の具体的な状況並びに具体的な経過(一審原告が性衝動に基づく性暴力の可能性は低い旨の診断を受けていたこと、平成22年7月に一審原告の性同一性障害について説明する会(本件説明会)が開かれた後、一審原告は女性の服装等で勤務し、執務階から2階以上離れた階の女性トイレを使用するようになったがトラブルが生じたことはないこと、本件説明会から本件判定に至るまでの約4年10か月の間に、本件処遇の見直しが検討されたこともうかがわれないこと等)を丁寧に評価し、適切な結論を導いたといえる。

 本判決は、あくまで当該事案における個別的な判断であり、今後もトランスジェンダーを含む性的マイノリティの就業環境をめぐっては、個別具体的な調整が必要とならざるを得ない。もっとも、本判決(補足意見を含む)が示した、調整に当たっての考慮要素やその評価方法については他の事案でも十分参照に値するものである。今後、特にトランスジェンダー労働者の就業環境に関しては、他の利益との調整が求められる場面があると思われるが、その際は、トランスジェンダー当事者がその性自認に基づいて社会生活を送る利益を尊重することを前提として、具体的な事情を酌んだうえで、調整がなされるべきものである。また、事業主は、本判決を踏まえ、性的マイノリティを想定した設備や制度の整備及び研修の実施等の施策を積極的に進めるべきである。

 他方、特にSNSにおいて、本判決を「女性と称すれば女性トイレに入れることを認めた」判決であるなどとして批判する意見が散見されるが、これらは本判決を正解しない暴論である。こうした暴論の下にトランスジェンダー当事者を攻撃する言説は、いわゆるトランスヘイト(トランスジェンダーに対する差別と偏見を助長する言動等)であり、職場においてはハラスメント行為として、職場外においては単なる誹謗中傷として、決して許されるものではない。

 当弁護団はこれからも、性的マイノリティを含む全ての人々が働きやすい職場になるよう、労働者・労働組合と連携して、適切な就業環境の実現に力を尽くす所存である。

以上