今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書に関する声明

2023/7/21

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今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書に関する声明

 2023年7月21日
日本労働弁護団 幹事長 佐々木亮

厚生労働省の「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会」において、報告書がとりまとめられ、2023年6月19日に公表された(以下「報告書」という。)。

男女ともに仕事と育児・介護を両立したいという希望がかない、安心して働き続けることができる環境を整備するという目的のもとで研究会が開催された自体、非常に大きな意義がある。そして、報告書では、あるべき方向性として、「ライフステージにかかわらず全ての労働者が『残業のない働き方』」を目指すことが表明されており(9頁)、評価できる。もっとも、真の意味での仕事と育児・介護の両立を実現するためには、抜本的な対応が必要であるところ、残念ながら報告書はそこまでは踏み込んでおらず、具体的な対応方針も示されていない。

報告書のいう「全ての労働者の『残業のない働き方』」を実現するための第一歩としては、労働時間のさらなる量的上限規制が不可欠である。具体的には、日本労働弁護団が「あるべき労働時間法制の骨格[第一次試案]」(2014年11月28日)で提言したように、総実労働時間の上限について、1日の上限10時間(労働協約により1日12時間まで延長可能)、1週の上限48時間(労働協約により1週55時間まで延長可能)とし、各週の実労働時間のうち法定労働時間(週40時間)を超過する部分の時間の合計の上限を年間220時間とすべきである。他にも、勤務間インターバルの付与、使用者の厳格な労働時間把握義務の制定等も必要である。

他方、報告書では、子の年齢に応じた両立支援の拡充に関して複数の提案がなされている。しかしながら、周囲の労働者が長時間労働を行っている中では、いくら両立支援が拡充したとしても、制度を利用しづらいというのが実態である。加えて、労働参加を一時的に減らす両立支援を拡充しても、現状の社会状況においては、結局のところは女性労働者に育児・介護の負担がさらに集中し、いわゆる「マミートラック」が加速する懸念すらある。仕事と育児・介護の両立の道を拓いていくためには、男女関係なく育児・介護に参加できる社会的土壌がなければならず、これを実現するためには全ての労働者の長時間労働の是正が必須である。

また、報告書は、勤務地に関して事業主は個人の意向の聴取し、その意向を尊重することが適当であると提案している(報告書26頁)。このような報告書の提案は重要であり、評価できる。しかしながら、報告書が例示する障害児の育児を行う労働者や、ひとり親で育児を行う労働者等といった事情を有する労働者のみに限定すべきではない。育児の負担は基本的に大きいものであり、また、仕事と育児・介護の両立の前提として夫婦で育児・家事を分担することが求められるものである。そうである以上、広く、育児・介護を担っているあらゆる労働者の転勤について個人の意向の聴取及び尊重が不可欠である。

ILO165号「男女労働者特に家族的責任を有する労働者の機会均等及び均等待遇に関する勧告」においても、「労働者を一つの地方から他の地方へ移転させる場合には、家族的責任及び配偶者の就業の場所、子を教育する可能性等の事項を考慮すべきである。」(20条)と定められている。

当弁護団は、育児・介護を行う者がそれゆえに職場、そして社会で不利益を被ることなく、男女ともに仕事と育児・介護を両立することのできる自由・平等な社会の実現に向けて、今後も、より具体的な対応や施策を求めていく。

以上