大阪・関西万博の建設現場で労働時間規制を遵守すべきことを求める緊急声明

2023/7/31

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大阪・関西万博の建設現場で労働時間規制を遵守すべきことを求める緊急声明

2023年7月31日
日本労働弁護団 幹事長 佐々木亮

 2025年4月13日から開催が予定されている2025日本国際博覧会(大阪・関西万博)をめぐって、同博覧会を主催・運営する公益社団法人2025年日本国際博覧会協会(以下、「博覧会協会」という。)側が、2024年4月1日から建設業において適用される時間外労働に関する罰則付きの上限規制(労基法36条6項2号及び同項3号、附則139条2項)を、大阪・関西万博に関連する施設の建設については適用しないよう要望したことが、2023年7月27日夕刻以降、報道各社により相次いで報じられた。

博覧会協会側の要望は、時間外労働に対する罰則付きの上限規制が導入されることによって、現場労働者の長時間労働を抑制せざるをえず、そのために現場労働者の稼働時間が減少してしまい、大阪・関西万博会場等の関連施設の建設が遅れてしまうことを懸念したことによるものと思われる。

しかし、このような博覧会協会側の要望は、現場労働者のいのちと健康を軽視するばかりでなく、博覧会協会が掲げた開催意義等に真っ向から反するものである。

博覧会協会は、開催意義として「SDGs達成・SDGs+beyondへの飛躍の機会」を掲げており、その観点から「持続可能性に配慮した調達コード」を定めている。そして、この調達コードでは、「博覧会協会は、サプライヤー、ライセンシー及びパビリオン運営主体等に対し、調達物品等の製造・流通等に関して、調達コードを遵守することを求める。また、博覧会協会は、サプライヤー、ライセンシー及びパビリオン運営主体等に対し、それらのサプライチェーンも調達コードを遵守するように、事業者との契約等において適切な措置を講じることを含め、働きかけることを求める。」(2.適用範囲)としていて、「長時間労働の禁止」(4.7)では、「サプライヤー等〔注:サプライヤー、ライセンシー及びパビリオン運営主体等並びにそれらのサプライチェーン〕は、調達物品等の製造・流通等において、違法な長時間労働(労働時間等に関する規定の適用除外となっている労働者については健康・福祉を害する長時間労働)をさせてはならない。」とする。仮に博覧会協会側の要望通り、2024年4月1日から適用される上限規制が適用されなければ、過度の長時間労働が横行し、建設現場で働く労働者に対して調達コードの禁止する「健康・福祉を害する長時間労働」を強いる危険性があることは、火を見るよりも明らかである。博覧会協会側がした、建設現場で働く労働者が長時間労働を強いられる可能性があることを認容するような今回の要望は、博覧会協会自らが設定したこの調達コードに、真正面から反することになる。

ところで、この調達コードにおける「サプライヤー等」には「パビリオン運営主体等」として日本国政府も含まれている。政府は、「ビジネスと人権」の観点から、2022年9月に「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」を公表しており、その後、2023年4月には、ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議が「公共調達における人権配慮について」を発表し、その中で、「公共調達の入札説明書や契約書等において、「入札希望者/契約者は『責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン』(中略)を踏まえて人権尊重に取り組むよう努める。」旨の記載の導入を進める。」としている。同ガイドラインでは、サプライヤーの従業員が極度の長時間労働を強いられる場合を「負の影響」の具体例として掲げているところ、博覧会協会側の上記要望は、同ガイドラインの要請にも反するものである。日本政府は、このようなガイドラインを公表している以上、また、政府が推進してきた働き方改革の観点からも、博覧会協会側の要望を断固として拒絶するべきである。

なお、博覧会協会は、大阪・関西万博のテーマとして「いのち輝く未来社会のデザイン」を掲げ、具体的には、「自らにとって『幸福な生き方とは何か』を正面から問う」ものとしている。他方で、今回の博覧会協会側の要望は、大阪・関西万博関連施設を開催予定日までに竣工するためには長時間労働をやむなしとするものである。そのような要望は、長時間労働が原因で亡くなった労働者、精神障害を発症した労働者が存在することをあまりにも軽視するものであって、「幸福な生き方」に沿うものではない。博覧会協会が世の中に「『幸福な生き方とは何か』を問う」以前の問題であり、労働者のあるべき幸福な生き方に照らせば、欺瞞的であるとすら言える。最近では、東京オリンピック関連施設の建設作業に携わった労働者が、長時間労働が原因で自死し、労災認定がされたとの報道が記憶に新しい。このような痛ましい事例をこれ以上増やすわけにはいかない。世界的なイベントの開催を理由として、働く者のいのちと健康を軽んじては、決してならない。

日本労働弁護団は、博覧会協会側が政府に対してした今回の要望を強く非難し、大阪・関西万博関連施設の建設業界で働く者のいのちと健康が守られる労働時間規制がなされることを訴えるものである。

以上

清水建設株式会社において就労していた労働者が過重労働になり、2021年8月19日、自死されました。本件について、日本労働弁護団会員がご遺族の代理人となり労災申請し、本年7月18日に各社で報道されたとおり、本年5月、亀戸労働基準監督署から労災認定を受けました。ご遺族から、以下のコメントを頂戴しましたので、合わせて公表いたします。

〔以下、ご遺族のコメント〕

東京都江東区の公共工事に従事していた私共の長男は、2021年8月19日、過労死いたしました。

東京オリンピックに伴う交通規制やコロナ、大雨などよる工事の遅れ等、個人の努力ではどうにもならない要素があっても 公共事業の期日は原則厳守です。税金の入る事業に無駄は許されないかもしれませんが、建設業の人間も税金を払っているのです。納期の為に若者が死ぬなんて馬鹿げている。

 ましてや、大阪万博のパビリオンは、死ぬほど頑張ってつくっても、壊してしまう建物が殆どなのではないですか?残業規制外して、国立競技場建設の時の様に過労死が出たら、万博協会の誰が責任取ってくれるのでしょう?

 1996年に、青島知事が、公約守って世界都市博中止しましたよね。

建材はウクライナ復興に回す事にして、大阪万博中止もしくは縮小すれば、と個人的には思っております。

故人の父母