「ライドシェア」解禁に反対する緊急声明
2024/2/26
「ライドシェア」解禁に反対する緊急声明
2024年2月26日
日本労働弁護団 幹事長 佐々木 亮
1 はじめに
政府の内閣官房において、2023年10月6日に設置されたデジタル行財政改革会議は、同年12月20日、中間とりまとめを公表した(以下、「中間とりまとめ」という。)。その中では、ライドシェアに関して、タクシーが不足する地域や時間帯において「タクシー事業者が運送主体となり、地域の自家用車・ドライバーを活用し、アプリによる配車とタクシー運賃の収受が可能な運送サービスを2024年4月から提供する(道路運送法第78条第3号に基づく制度の創設)」としている。
このような動きを受けて、一般社団法人東京ハイヤー・タクシー協会は、2024年1月10日、東京23区・武蔵野市・三鷹市において、2024年4月から「ライドシェア」を実施すると発表した。報道によれば、普通第二種運転免許(いわゆる「二種免許」)を持たなくても、普通第一種運転免許を取得して1年以上の運転者であれば、タクシー事業者との間で雇用契約を締結することで、自家用車を用いて行うことができるとされ(以下、「東京版ライドシェア」という。)すでにタクシー事業者により運転者募集も始まっている。
このような現在急速に進んでいる「ライドシェア」解禁の動きは、既存のタクシー運転者の労働条件を悪化させるだけでなく、公共交通であるタクシーの安全性をも脅かすものである。
2 タクシー運転手の労働条件の悪化を招くこと
もともと、タクシー事業は、2002年に道路運送法が改正され規制緩和政策に舵を切って以降、タクシー車両の供給過剰とこれによる運転者の賃金減少が問題となっていた。そのため、2009年には「特定地域及び準特定地域における一般乗用旅客自動車運送事業の適正化及び活性化に関する特別措置法」(タクシー特措法)が成立し、さらに2014年には同法が改正されてタクシー事業の適正化が指向され、タクシーの供給過剰により生じてきた一台あたりの売上減少によるタクシー労働者の労働条件悪化を改善する政策が採られてきた。
しかし、「東京版ライドシェア」含め、あらゆる「ライドシェア」解禁は、これまでのタクシー事業の適正化に対する政策に対して逆行し、「白タク」によりタクシーの供給過剰を招いてタクシー労働者の労働条件を悪化させるものであり、断じて容認できない。
3 公共交通としての安全性を脅かすこと
また、「東京版ライドシェア」では、二種免許を持たぬ運転者も認める。しかし、二種運転免許は、道路運送法において旅客自動車運送事業を実施する際に求められるものであり、よりによって交通量の多い都内で、二種免許を持たぬ一般の運転者に有償旅客運送を許すことは、利用者の利益の安全(道路運送法1条)を減殺させ、これによって確保されてきた公共交通の安全性を脅かすものである。
4 「東京版ライドシェア」も道路運送法の要件を充足しないこと
さらに、中間とりまとめは、自家用車による有償旅客運送(白タク)を可能とするため「道路運送法78条3号に基づく制度の創設」を目指すとされ、「東京版ライドシェア」も同号によって実施するとされている。
しかし、同号は、「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合において、国土交通大臣の許可を受けて地域又は期間を限定して運送の用に供するとき」という例外的な場面に限定し自家用自動車による有償旅客運送を許容しているのであり、安易に適用されるものではない。「公共の福祉」の確保に必要であるとの実証的な裏付けもないまま、東京都内のタクシー不足を理由に開始されようとする「東京版ライドシェア」は、「公共の福祉を確保するためやむを得ない場合」との要件を充足し得ないのである。
5 タクシー事業者との雇用契約締結では弊害防止できないこと
「東京版ライドシェア」は、運転者とタクシー事業者との間で雇用契約を締結することを要件とするようだが、これは、タクシー事業者の利益確保にはなり得ても、労働者の労働条件悪化と公共交通の安全を脅かすことの歯止めとはならない。
事業者の看板で「白タク」の算入を許してしまえば、同じタクシー事業者の下で働く既存のタクシー労働者においては競争が激化して一台あたりの売上減少を招き、タクシー労働者の労働条件を悪化させるのは必定である。
また、とりわけ交通量の多い都内で、二種免許を持たない一般の運転者に有償旅客運送を許すことは、公共交通の安全性を大きく脅かすものといえる。
6 将来的にも雇用契約締結が確保され運用される保障はないこと
中間とりまとめは、「ドライバーの働き方について、安全の確保を前提に、雇用契約に限らずに検討を進める」としているのであり、雇用契約締結の要件が将来的にも維持されるのか大いに疑問がある。世界各国で、「ライドシェア」に関して、本来は「労働者」として扱われるべきドライバーを「労働者」と扱わず労働法の保護を及ぼさないとしていることが問題となり、訴訟にまで発展している。日本でも、当初から「東京版ライドシェア」を足掛かりにして、遠くない将来、雇用契約ではない法形式による「ライドシェア」を拡大しようと意図されているのである。
7 まとめ
以上の通り、あらゆる「ライドシェア」は、タクシー運転者の労働条件を悪化させ、公共交通であるタクシーの安全性を脅かし、何よりも、プロフェッショナルとして日本の公共交通を日夜支えるタクシードライバーの労働者としての誇りを踏みにじるものであって到底容認できない。日本労働弁護団は、タクシー事業者を運営主体にするものも含め、あらゆる「ライドシェア」解禁の動きに断固反対し、労働運動・市民運動と連帯してこれを阻止するために取り組みを進める。
以上