パワハラ指針案及びセクハラ指針改正案に対する意見書

2019/12/10

        パワハラ指針案及びセクハラ指針改正案に対する意見書

 

2019年12月10日

日本労働弁護団 幹事長 水野 英樹

 

はじめに~このように不十分な指針でよいのか

今回、労働施策総合推進法の改正によって、日本で初めてパワハラの防止対策が事業主に義務づけられることになった。増え続ける深刻なパワハラ被害に鑑みれば、遅きに失した感は否めないものの、初めて対策が法的に義務づけられたことは評価できる。

ところが、本年11月20日に開催された第22回労働政策審議会雇用環境・均等分科会にて労使が大筋合意に至ったとしてパブリックコメントに付された「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(案)」(以下「パワハラ指針案」という)は、パワハラの定義を著しく狭く限定的に解釈し、まるで「加害者・使用者の弁解カタログ」とも言えるような「パワハラに該当しない例」を掲載するなど、パワハラ防止に資するどころか、むしろパワハラを許容し、助長しかねない危険性を有する内容である。

また、法改正についての国会審議を踏まえ、衆参両院で多数の項目を有する附帯決議が与野党全会一致で決議されたが、例えば、①パワハラの判断に際しては「労働者の主観」にも配慮することとされた附帯決議が十分に反映されていない、②自社の労働者が取引先、顧客等の第三者から受けたハラスメント及び自社の労働者が取引先、就職活動中の学生等の第三者に対して行ったハラスメントも雇用管理上の配慮が求められることとされた附帯決議の趣旨が十分に反映されていない、③性的指向・性自認に関するハラスメント及びアウティングが雇用管理上の措置の対象になり得ることとされた附帯決議の趣旨が十分に反映されていない、といった問題がある。

さらに、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針等の一部を改正する件(案)」(以下「セクハラ指針改正案」という)も、極めて限定的な改正に留まっている。セクハラに対する事業主の措置義務が法的に義務化されて10年以上が経過するにもかかわらず、#Me Too運動の盛り上がりにも表れているように社会的にはセクハラが深刻な問題となり続けていることに鑑みれば、より踏み込んだ措置義務やセクハラが生じる原因である性差別解消への取組を行うべきであり、消極的な指針改正には大いに疑問がある。

職場のハラスメントは、被害者の健康を害し、時には自殺といった深刻な結果をもたらす重大な問題である。それは、経営者にとっても大きな損失であり、ハラスメントのない職場の実現はマネジメントの健全化として経営者が前向きに取り組んでいかなければならない問題のはずである。その視点を見失い、業務指導が委縮するとの理由でハラスメントを「何をやってはいけないか」という限定的な視点のみでとらえ、消極的な姿勢に終始するパワハラ指針案・セクハラ指針改正案に対して、日本労働弁護団は強い危惧を表明する。

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