労働政策審議会労働条件分科会「有期労働契約に関する議論の中間的な整理について」に対する意見書
2011/12/5
労働政策審議会労働条件分科会「有期労働契約に関する議論の中間的な整理について」に対する意見書
2011年12月5日
日本労働弁護団
幹事長 水口 洋介
第1 はじめに
1 中間的整理の公表
2010年9月10日に厚生労働省の「有期労働契約研究会」(座長:鎌田耕一東洋大学教授)が「有期労働契約研究会報告書」(以下、「有期研報告書」)を発表したのを受け、同省労働政策審議会労働条件分科会は、2010年10月26日から有期労働契約法制の在り方についての検討を開始した。同分科会は、2011年7月21日までの間、計9回の議論を行い、一通りの検討を終えたとして、これまでの議論を整理した「有期労働契約に関する議論の中間的な整理について」(以下、「中間的整理」)をまとめて、本年8月3日に公表した。
2 中間的整理の特徴
「有期研報告書」では、様々な評価はあるものの、少なくとも有期労働契約の「不合理・不適正な利用」が存在することを正面から認め、その弊害防止・除去の必要性を指摘していた。
本来、この有期研報告書を受けて、労政審での議論は、有期労働契約の問題点を更に深め、これに対する規制の具体的な在り方について諸外国の例なども参考により充実したものとなることが期待されていた。
ところが、「中間的整理」は、各論点について、労使の意見を対比して紹介しているものの、特に規制の必要性や方向性を示すことなく、対立点を確認するだけのものにとどまっている。その要因の一つとしては、使用者側委員が常に有期労働契約の弊害を認めようとしない立場から規制不要論の論陣を張り、議論が前に進まないという点が挙げられる。
しかし、有期労働契約法制が現状のままであっては、非正規雇用労働者の不安定・低賃金雇用の解消がなされず、非正規雇用問題の抜本的解決は図れない。
したがって、労政審においては、年内にも予定される「建議」に向けて、充実した審議がなされ、安定した雇用の確保に向けた有期労働契約規制の在り方を示すべきである。
日本労働弁護団は、かかる観点から、中間的整理、特に使用者側委員の見解に対し、下記のとおりの意見を述べるものである。
第2 意見
1 有期労働契約の機能や実態
(1) 「ア 検討の背景、問題の所在等」について
有期労働契約の現状をどのように捉えるかという点については、労使の対立が最も激しいところである。元々事務局が用意した「中間的整理」の当初案では、有期労働契約の機能について、「一部に不合理・不適正な利用が見られることや、過去の著しい経済後退局面において、弊害の顕在化がみられたことについては、認識の共有が可能と考えられる」としていた。ところが、この事務局案は、審議会の議論を踏まえたものであったが、これが「中間的整理」に公式に盛り込まれると、使用者側委員が猛反発をし、その結果、最終的には「有期労働契約の不合理・不適正な利用の実態についての認識も一致をみていない」との記述となった。しかし、有期労働契約に不合理・不適正な利用が見られることは、客観的事実であって、使用者側委員がこの点について「認識を共有しない」というのは極めて遺憾な対応というほかはない。
厚生労働省の調査においても、契約更新回数が11回以上とする事業所や勤続年数が10年超とする事業所が1割程度あり、有期労働契約が長期間にわたって反復継続して恒常的な業務に利用されている実態が確認されており、また、同調査では、企業が有期契約労働者を利用する理由として、「『業務量の中長期的な変動に対応するため』『人件費を低く抑える』がそれぞれ約4割」にも上る現実を踏まえれば、このように後退する理由は何ら認められない。
この点、中間的整理においても、「結果として、一時的・臨時的ではない仕事について有期労働契約の反復更新で対応している例も見られる」として、事実を認めざるを得なかった。
他に、「リーマン・ショック等の大規模な経済変動の際における労働市場全体の雇用量の調整に利用され、また、通常時においても、個々の企業の生産変動等の際の雇用量の調整に利用されている面がある」との指摘や有期契約で働く労働者の間に、「解雇・雇止めに関する不安」、「賃金水準の低さ」、「教育訓練機会の不足」、「ステップアップが見込めないこと」等の不満があることの指摘は、労働者側の実態として、自らが雇用調整弁とされていることへの不満・不安や、不安定かつ低条件な労働条件等に対する不満が確認されたものと言え、かかる指摘をしている点は評価できる。
いずれにしても、厳然として存在する有期労働契約の不合理・不適正な利用の実態に対して目を向けない使用者側委員の姿勢は、労政審における建設的な議論を妨げるものであると指摘せざるを得ない。
(2) 使用者側委員の見解について
使用者側委員は、有期労働の「積極」面を全面展開する。しかし、そこで述べられている「積極面」はいずれも一方的な見解に過ぎない。
① 「労働市場において有期労働契約の果たす雇用維持、創出等の役割を重視すべきであり(中略)労働契約の規制ではなく、労働市場の機能強化のアプローチにより対応すべき」、との見解が示されている。しかし、ここには現実に横行している不合理・不適正な形で運用されている有期労働契約に対する改善の視点は全くない。むしろ、何の前提もなく、有期労働契約には雇用維持、創出という役割があることが当然としていること自体、極めて疑問である。この見解は、このような「雇用維持、創出」という言葉を押し出すことによって、結局は、使用者にとって都合のよい低労働条件を労働者に押し付けようとしているものに過ぎない。
② 次に、「(前略)有期労働契約による雇用の確保は重要であり、その多様な実態の中で不合理・不適正な運用がどのような部分に存在するのか具体的に明らかにして議論すべき」との見解も記載されているが、これは既に明らかである。本来、期間設定が不必要な業務に対しても期間を設定し、徒に労働者にとって不安定な契約状況を作出し、それに乗じて低労働条件で労働させている点が不合理かつ不適正と指摘されているのである。この点は有期研報告書も指摘し、また、先に言及した箇所で中間的整理も指摘している。要するに、厚生労働省の調査でさえ1割の事業所が長期間有期雇用形態で労働者を使用する実態を見れば、これは明らかであろう。労働者側から多くの不満が出ている点も看過すべきではない。これらの実態さえ見ないで、有期研報告書の見解をより後退させようとする使用者側委員の見解は実態に即していない。
③ また、「有期労働契約は、定年後の再雇用、職場復帰等、働く側のニーズ・価値観が多様化する中で多様な雇用の場を確保する機能を有している(後略)」との見解も述べられている。しかし、有期でなければ雇用の場を確保できない必然性はない。また、定年後の再雇用の場面などが例に挙げられているが、かかる特別な場面については、別途例外を設ければよく、有期労働契約に対する規制が不要との結論にすぐに結びつける使用者側委員の見解は、早計と言わざるを得ない。
④ さらに、「実態調査を見ても、事業主の7割は雇止めの経験が無く、労働者側の都合により、契約終了となることがほとんどである。結果として多くの有期契約労働者の雇用は安定的に運用されている。」との見解も述べられている。しかし、これは詭弁である。雇止めの経験がないからといって、期間の定めが有る労働者と期間の定めのない労働者とを比べれば、前者の雇用が不安定であることは論理上明白である。不安定さが表れるのは、雇止めや解雇の場面であるから、経験の多寡でそれが変わるものではない。また、そもそも雇止めの経験がない事業所においては、当該労働者を有期契約で雇用する必要性はないとも言える。このことは、むしろ使用者側が恐れる無期契約の場合の弊害論(無期雇用の解雇規制があるために雇用を躊躇するなど)に理由がないことの表れである。さらに、そもそも7割というこの調査が雇止めの実態をどの程度把握しているのか疑わしい。契約終了時に、退職届などを提出させることにより、労働者側の都合で契約が終了している形式を装う場合も多い。また、期間満了により契約の更新をしない旨を告げられた労働者が已む無く他の就労場所を探して自ら退職する場面もある。したがって、7割が雇止めをした経験がない、というこの数値を独り歩きさせるべきではない。
⑤ また、「リーマン・ショックのような大規模な経済変動の下では、特に中小企業においては、有期契約労働者のみが不安定であるわけではない」との見解も述べられている。しかし、これは事実に反する。経済変動があった場合、非正規雇用形態の労働者が真っ先に雇用を打ち切られることは明らかである。大規模の場合でも、リーマン・ショックを思い出せば、まずは非正規雇用の労働者が職を失ったことは動かぬ事実である。このことは、中小企業であっても同様であり、ここにおける使用者側委員の見解は、中小企業の労働者が大企業の労働者に比べて経済変動の際に雇用が不安定となること、正規・非正規などの雇用形態により労働者の雇用が不安定となることを混同したものである。
⑥ 「労働法上保障された権利が守られず、それを主張し難い事情にある有期契約労働者がいるとしても、それが有期労働契約の在り方に起因する問題なのか、個別の企業運営に関する問題なのかを峻別する必要。」との見解も述べられている。たしかに、権利がおろそかにされる場面を分析することの必要性は否定しないが、無期契約の労働者と比べて、有期契約であるがゆえに有期契約労働者が類型的により弱い立場であることを見落としてはならない。有期契約労働者には、期間満了が必ず訪れ、その都度選別がなされる。また、契約を切り替えるということを口実に、雇用継続を人質にとりつつ労働条件の低下を迫られる場合もある。このような事態が生じている原因に有期契約があることは明らかである。
⑦ 最後に、「ジョブ・カード制度やトライアル雇用事業の下で(中略)正社員として採用された実績も多い。有期労働契約という働き方は、正社員採用の拡大という面でも役割を果たしている」との見解も述べられている。たしかに、そのような例が存在することは否定しないが、数としてはまだまだ稀有な例である。有期契約労働者の実態としては、有期契約に対する不満も多いことは先に指摘したとおりである。使用者側委員が指摘する有期契約から正社員へのステップアップの道を整備することは当面の課題としては否定しないが、これを有期契約の役割として積極評価するのは論理飛躍がある。
2 有期労働契約の締結及び終了
(1) 締結事由
この点における使用者側委員の見解はともかく規制に反対という姿勢であるが、次に指摘するとおり論理性を著しく欠いたものである。
① まず、「有期労働契約は雇用調整に備えるために必要である一方、例外的な場合以外で合理的期待に反する雇止めは多くは発生していないと考えており、締結事由の制限を行なう必要はない」との見解が述べられているが、これは使用者側の都合だけを強調した開き直りの見解である。そもそも、有期労働契約を雇用調整のために必要としている点で、極めて一方的な見解である。有期労働契約により雇用調整をするのであれば、それは繁閑がある業務につき認めればよく入口規制により実現可能である。およそ、全ての業務に雇用調整のために有期労働契約を認めている現状こそが、不合理・不適正な運用がなされる温床となっていることを直視すべきである。また、不合理な雇止めが例外的な場合であると断ずる前提自体が問題である。有期契約労働者の雇止めについては、実態は不合理な理由による雇止めであったとしても、形式上は期間満了という形を取ることから、そもそも争えることを知らないまま受け入れてしまう労働者も多数存する。かかる実態を見ないままに、「不合理な雇止めは例外的」であるとすることは失当である。
② 次に、「締結事由の制限の導入は、民法の原則である契約自由の原則や合意原則から乖離するものであり、導入には反対である。有期労働契約を弊害があるものと決めつけるべきではない」との見解も述べられている。しかし、そもそも労働法は一般法たる民法に対し特別法の関係にあるので、民法原則を規制、修正することは法的に全く問題ない。現に、労働基準法や労働契約法などにおいて、民法所定の雇用の規定は大きく修正されている。また、有期労働契約を弊害のあるものと決め付けるべきではないというが、そもそも有期労働契約を規制するべきという議論の出発点は、有期労働契約の不合理・不適正な運用によって現に弊害が生じているところにある。そして、これをなくすために入口規制が議論されているのであり、何の根拠もなく有期労働契約=弊害と決めつけているものではない。
③ さらに、「有期労働契約は多様な雇用の場を確保するという機能を有している。締結事由の制限は、かえって良好な雇用機会を失わせる。」との見解がある。しかし、雇用が必要であれば、規制後も雇用の場は存するのであるから、機会は失われない。これに対し、生産工場などの海外移転が加速し、雇用が流出して国内の雇用は衰退するなどの脅迫的な言説も従来よりあるが、何ら実証性のない脅し文句に過ぎない。企業が生産工場を海外に移す動機は、市場の開拓や為替変動が主たるものであり、日本では雇用調整が困難であるから移転するというものではない。
④ また、「諸外国においても、締結事由の制限がない国も多く、制限をしている国においても、締結事由に該当するか否かをめぐる紛争が生じたり、労働市場の硬直化を招くなどの問題が起きており、締結事由の制限を緩和・廃止する動きがみられるところ」との見解もある。しかし、日本と雇用状況が異なる点も多く、諸外国の例をすぐに日本に適用して答えが出るというものではない。諸外国の例は大いに参考にしながら、日本に最適な有期労働契約規制を検討することが求められるところである。
(2) 更新回数・利用可能期間、雇止め法理の法制化
ここでも使用者側委員の見解は否定的なものに終始している。
① まず、「更新回数や利用可能期間の上限を設けることは、当初の想定を超えて更に働いてもらいたいケースに対応ができないほか、上限手前での雇止めが増加することは避けられず、雇用が縮小する(後略)」との見解が述べられている。しかし、予想を超えて働いてもらいたい場合は無期契約を締結すればよく、何ら否定的な面はない。他方、期間制限の手前で雇止めが増加するという点は、制度導入時にそのような現象が生じる可能性はなくはないが、入口規制を設ければ、そもそも合理的な理由がない限り期間の定めは設けられないのであるから、更新回数や利用可能期間に上限を設けても問題は生じない。逆に、かかる期間制限により、無期契約への転化という積極面もあることも軽視すべきではない。
② 次に、「(前略)同一労働者との再契約を認めるクーリング期間についても、雇用機会確保の視点から議論が必要。」との見解もある。しかし、これは不要である。クーリング期間は、悪用されるおそれが高く、有期労働契約規制の脱法に利用される可能性が高い。有期契約で雇う必要がないのならば、無期契約で雇えばよいだけである。
③ さらに、「(前略)(雇止め法理を)明確化したとしても予測可能性は低く、その機能が高まることとなるのか疑問。(後略)」との見解も示されている。しかし、労働契約の打ち切り場面で予測可能性が高くないのは解雇法理(労働契約法16条)においても同様である。もっとも、解雇法理も法文化される前よりは、法文化した後の方が一般市民へ周知され、より予測可能性は高まったといえる。雇止めルールの法制化も、同様に明確化すれば機能が高まることは明らかである。
④ また、「契約更新時において、両当事者のニーズに応じて労働条件を見直すことで雇用の安定が確保されている場合がむしろ多いのではないか。」との見解については、更新があるがために有期契約労働者が条件の切り下げに応じざるを得ないという点を全く考慮しない一方的なものである。両当事者のニーズが一致すれば、無期契約であっても条件変更は可能であるのに、あえて有期労働契約の機能にこれを挙げるところに、有期契約労働者の地位の弱さにつけこむことが常態化していることをうかがわせる。
(3) 契約締結時及び終了時の手続
ここでも使用者側委員の見解は否定的なものに終始している。
① まず、「大臣告示に基づく書面明示については、定着しているか、定着に努力しており、罰則を伴う法律による義務付けには反対。」との見解が述べられている。しかし、定着している大臣告示を法律化することは問題なく、反対すべき理由は通常はないはずである。大部分の事業主に定着してもなおこれを守らない事業主に対して、罰則をもって臨み、さらに定着を徹底させることは、むしろ規制のやり方としては緩やかなものであるはずである。にもかかわらず、大臣告示を守らない者を擁護する姿勢は極めて問題だと言わざるを得ない。
② 次に、「新たに明示すべき事項はない。」との見解も示されている。しかし、有期である理由など、明示すべき事項はあり、「ない」と断ずる方が問題である。この点、「有期労働契約で雇い入れる理由の明示は、入口規制として締結事由を制限することと同義であると考えられ、反対である」との意見も述べられているが、理由を示すことさえ反対する姿勢こそ問題である。かかる態度は、有期労働契約の不合理・不適正な利用を肯定するものである。
③ さらに、「期間の定めについて口頭でも合意があれば、有期労働契約として有効に成立するものであり、また、実務上も有効に機能しており、書面明示がなければ期間の定めがない労働契約に転化することとするのは反対。」との見解も述べられている。しかし、そもそも労働契約において有期契約は例外的なものである。このことは、期間について合意の立証に成功しなければ当該労働契約は無期契約と判断されることから明らかである。そして、期間を明示した契約書がない場合、無期契約とみなすことは、使用者にとって期間を明示することが簡易であること、他方、期間が明示されないと労働者はいつまで働けるか曖昧となり不安定な立場におかれるという不利益を勘案すれば、かかる規制の必要性は明らかである。
④ また、「有期労働契約の黙示の更新をされた場合の取り扱いについては、学説も分かれており慎重な議論が必要。」との見解も示されている。たしかに、黙示の更新がされた場合の扱いとして、学説に諸説あるのは事実であるが、使用者が更新手続を怠った場合に、労働者を不利益に扱う理由に乏しいことや、そもそもそのような使用者に有期契約を利用する意図が存しているのかも疑わしいのであるから、無期契約の転化に何ら支障はないはずである。この点、学説を尊重することは大事であるが、必要な法律の制定はすべきである。
(4) 契約終了に際しての経済的支援等
使用者側委員は、「紛争を予防する観点から、契約終了時に一定の金銭を支払う制度は検討すべき論点である」と述べる。
しかし、入口規制・出口規制がないままに雇止めに対する経済的補償のみを法制化してしまうと、本来、解雇権濫用法理の類推適用を受ける有期労働契約の雇止めについても、経済的補償によって有効とされるといった『解雇の金銭解決制度』と同様の機能を営みかねない事実上の効果が懸念され、反対である。経済的補償を制度化しているフランスなどにおいては、均等待遇についても制度化している。ゆえに、経済的補償の金額もある程度高額なものと考え得るが、日本においてはかかる制度はなく、現実には有期契約労働者の賃金が「正社員」と比べて著しく低くなっている。したがって、仮に経済的補償制度を設けても、その補償される程度は低いものが想定され、結局、使用者に『解雇の金銭解決制度』として悪用される危険性は極めて大きいといえる。
3 契約期間中の処遇や雇用管理等
(1) 均等・均衡待遇等
① まず、「合理的理由のない差別的取扱いを禁止する旨の規定を設けることについては、誰と、何を比較して差別的取扱いに当たるか否かを明らかにするのは極めて困難。」との見解が述べられている。しかし、ここで問題なのは、期間の定めがある・なしによって賃金などの労働条件が差別的に取り扱われることの不合理性である。少なくとも、「同一価値労働」については、単に期間の定めがあるというだけで、差別待遇をすることには合理的理由はなく、許されないというべきである。
② また、「労働条件に関する有期契約労働者の納得性を高め紛争を減らす観点からは、賃金等の均等・均衡待遇だけではなく、労使間での情報の共有なども含めた、より包括的アプローチも考えられるのではないか」とも述べられているが、労使で情報を真に共有すること自体は悪いことではないが、それは均等待遇実現に向けてのものであるべきである。
② 次に、「有期契約労働者の均等・均衡待遇の問題は、正社員の待遇の在り方にも関わり、その在り方についても議論が必要」との見解も示されている。しかし、これは労働者へ配分される原資を固定的なものと捉え、使用者側の負担が増えないことを前提にした専ら企業の都合による論立てに過ぎない。企業が確保する富の公正配分の問題も視野に入れて検討すべき事項である。
(2) 正社員への転換の推進
① ここで使用者側委員は、「正規・非正規二者択一論ではなく、勤務地限定などいろいろな契約内容を労使で検討してみるのは有意義ではないか。」との見解を述べている。これは、いわゆる「多様な正社員」を意識した見解と思われる。しかし、有期労働契約規制の問題と、労働契約に期間の有無以外の条件として、どのような要素を盛り込むかは、本来、別の議論である。正社員転換を論じるに際し、始めから「多様な正社員」という概念を持ち込み、「多様な正社員」が認められなければ、「正社員への転換」は困難であるかの如き議論は、本末転倒であり、有期契約労働者の望んでいる「正社員」への道を閉ざす結果となりかねないことが危惧されるところである。
② また、「有期労働契約の規制の在り方の議論と表裏一体の問題として、正社員を含む期間の定めのない労働契約の雇用保障の在り方、特に整理解雇等の局面における問題も考慮し、バランスを考えることが重要。」との見解が述べられている。これは、有期労働契約を規制する場合、正社員を含んだ無期労働契約の労働者の雇用保障を「バランス」を理由に弱める趣旨を含んだ見解と思われる。しかし、このように現在の「正社員」の雇用保障を取引材料のようにして、有期労働契約に対する規制の反対の論拠とすることは許されないし、そもそも、有期契約が無期契約に転化するなどした場合、整理解雇法理が、有期から無期に転化した労働者にも、元から無期契約であった労働者にも、等しく適用されることは当然である。したがって、このような理由を、有期労働契約規制に対する反対の理由として述べられるのは当を得ない。
4 1回の契約期間の上限等
① ここでは、「1回の契約期間の上限の引き上げも論点とすべき。」との見解や「より長期の契約期間を定められるようにすることは、雇用の安定に資するものであり、契約の両当事者にとってメリットではないか。」との見解も述べられている。しかし、現状の上限(3年)を超えて必要な業務がある場合は、原則として無期契約とすればよく、現時点で安易に上限期間を引き上げ、不安定雇用を長期化することは不要である。
② 次に、「人身拘束の弊害が現実に生じないのであれば暫定措置は不要であり、廃止すべき。」との見解が述べられているが、むしろ、実態調査によれば、4%もの労働者が退職を申し出たところ使用者から損害賠償を請求されているというのである。また、労働相談においても、辞めると言ったら損害賠償をほのめかされ退職を妨害されるという例は多い。こういった実態からすれば、暫定措置の廃止というよりは、むしろ、人身拘束の弊害、職業選択の自由の観点から、有期労働契約であっても、労働者はいつでも辞職できるように本則に入れるべきである。
第3 終わりに
中間的整理が示すとおり、労使の意見は対立している。特に、使用者側委員の規制反対という姿勢は強固なものがある。
しかし、有期労働契約の規制は、あくまでも不合理・不適正な有期労働契約を規制することを目的としており、使用者であっても、良好な雇用のあり方を実現するとの立場から、不合理・不適正な有期労働契約を規制する方法を真剣に検討すべきである。実質的に有期とする必要性のない労働契約を有期契約として締結ないしは存続させることを制限するものであって、使用者にとって重大な不利益を及ぼすものではないはずである。
日本労働弁護団は、有期労働契約は、パート労働、フルタイムパート、派遣など、非正規雇用の形態を問わない横断的かつ根本的な問題であり、非正規雇用労働者の安定した雇用の確保、労働条件の改善を実現するためには、有期労働契約に対する適切な法規制は必要不可欠なものであると考える。
労政審において真摯な議論が重ねられ、上記の基本的観点に沿った建議がなされるよう、本意見を表明するものである。
以上