国家公務員の「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」の最終報告に対する声明

2023/7/14

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国家公務員の「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」の最終報告に対する声明

2023年7月14日
日本労働弁護団 幹事長 佐々木亮

 人事院の「テレワーク等の柔軟な働き方に対応した勤務時間制度等の在り方に関する研究会」は、2023年3月27日に最終報告を発表した。最終報告では、国家公務員のフレックスタイム制の柔軟化、テレワーク、勤務間インターバル等について提言している。

 まず、最終報告では、フレックスタイムの柔軟化として、コアタイムを毎日5時間から毎日2時間~4時間に変更することや、1日の最短勤務時間数を6時間から2~4時間(コアタイムが免除される日にはこれを下回る時間を割り振ることも可能)に変更することを提言した(13頁)。これらの柔軟化は育児・介護等の私生活との調整がより行いやすくなる点で評価できる。

 他方で、フレキシブルタイムを7時~22時から5時~22時へと変更する最終報告の提言(13頁)は、育児・介護等との私生活との調整のためではなく、オンライン国際会議への対応等のためとしており、反対である。仮に早朝からオンライン国際会議等の対応が必要であったとしても、超過勤務として扱い、超過勤務手当を支給をすべきである。

 また、最終報告では触れていないが、次の点について改善が必要である。すなわち、国家公務員のフレックスタイム制は、申告制で管理者が勤務時間を割り振るものであり、民間労働者が自己で出退勤時間を決めるフレックスタイム制とは全く異なる制度であり、むしろ予め勤務日・勤務時間を割り振る点で民間の変形労働時間制と本質的には同じである。そして、国家公務員のフレックスタイム制における一旦勤務時間を割振った後の割振りの変更は、当該日の勤務時間開始前まで可能となっている。そのため、制度上は、国の都合で、勤務開始の直前で勤務時間の変更をさせられて生活に支障が生じることがあり得る。フレックスタイム制の趣旨が国家公務員の育児・介護等の私生活と勤務との調整を図ることにあることや、民間労働者の変形労働時間制において労働者の生活への影響の大きさから勤務日・時間の割振後の変更について制限があることからしても、国家公務員本人の希望ではなく、国の都合で勤務時間開始の直前に割り振りを変更することは制限されるべきである。

 最終報告では、国家公務員のフレックスタイム制以外の勤務制度として、裁量勤務制による柔軟な働き方へのニーズについて検証し、今後も検討される必要があるとする(25頁)。しかし、民間の裁量労働制においては歯止めのない長時間労働となる危険及び一部現実にそうした弊害が生じていることが指摘されていることは周知のとおりであるから、国家公務員においても裁量勤務制の導入はすべきではない。勤務時間制限は、国家公務員の生命・健康の確保をするものであり、国家公務員の希望で制限を外すことを認めるものではない。国家公務員のニーズを理由として勤務時間制限を外すことは、勤務時間制度の根本を崩すものである。

 次に、テレワークに関し、最終報告は、職員の希望・申告を前提として、職務命令によりテレワークを実施することを原則とし、例外的に、感染症対策の必要がある場合等緊急時においては、不適正・不公平な運用とならない範囲で、管理者が職員の希望・申告を前提とすることなく一時的にテレワーク勤務を命ずることを可能とすることを提言する(33頁)。しかし、自宅の所有権・賃借権は職員やその同居者に属し、国が当該所有権等の利用や、自宅という私的空間を勤務に利用する権限はないから、在宅でのテレワーク勤務については、国家公務員本人の同意を必要とすべきである。

 また、最終報告は、テレワークの勤務時間管理について、勤務開始時・勤務終了時のメールや勤務時間管理システムへの入力等、職員の申告に基づく勤務時間管理を行う現状の運用を基本としつつ、現在整備が進められている勤務時間管理システムの活用等により客観的な把握の在り方の検討を進めていくことが適当であるとする(35頁)。しかし、正確な勤務時間の記録は、長時間勤務の実態の有無・程度を把握して、国家公務員の長時間勤務を削減するための出発点となるものであり、出来る限り客観的な把握をすべきである。そのため、職員の申告に基づく勤務時間管理を行う現状の運用を基本とするという最終報告の提言は妥当ではなく、直ちに客観的な勤務時間管理を行うべきである。

 さらに、最終報告は、「テレワーク時の超過勤務についても、客観的把握に基づく勤務時間管理を行った上で、超過勤務の上限規制が適用されることを前提に、特に長時間労働の傾向が見られる場合には、慎重に超過勤務命令の運用を行うこととすることが適当である」とし、「深夜や週休日・休日においては、緊急時等必要不可欠な場合を除き、原則、電話やメール等による業務連絡を行わないこととし、現実的に実施可能な業務連絡に関するルールを設定することが考えられる」とする(37頁)。しかし、慎重に超過勤務命令の運用を行うと抽象的に現場に委ねるようでは長時間勤務を実効的に抑制することは困難である。また、緊急時等必要不可欠な場合を除き、原則、電話やメール等による業務連絡を行わないことは、「深夜や週休日・休日」に限らず、勤務時間外全てを対象にすべきであり、「ルール設定」を法律により定めるべきである。そのためにも、いわゆる「つながらない権利」を法律上も認め、そのうえで長時間勤務抑制の実効性を高めるために、勤務時間外にはシステムにアクセスできないようにする等の対策をすべきである。

 その上、最終報告では、職員の健康及び安全の確保について、「特に在宅勤務時には、個々の職員が勤務環境の整備や心身の健康保持に自律的に取り組むことがより重要となる」とする(39頁)。しかし、在宅勤務では私生活と勤務との境目が曖昧となることから長時間勤務を助長するおそれや、職場から離れて孤立して勤務することでの精神的負担が生じることがある。そのため、在宅勤務の方が職場での勤務よりも健康が害される側面があることから、国が国家公務員の「自律的」な取組みに任せることは許されず、業務量の調整、健康相談体制の整備、コミュニケーションの活性化等、在宅勤務における長時間勤務等に対処して、国家公務員の健康を確保する義務を果たす必要がある。

 加えて、最終報告では、テレワークに係る費用について、「業務遂行に必要である以上、職員に過度な負担が生ずることは適当ではなく、基本的に使用者である国が負担することが望ましい」とする(46頁)。しかし、「職員に過度な負担」とはならないものであっても、テレワークに必要な費用は業務遂行に必要なものであることから、国が原則として負担すべきであり、テレワーク実施の費用に関する手当等を創設すべきである。

 その他、最終報告では、テレワークの文脈から離れて、出張に関し、出張についての行動の大枠の時間があらかじめ明らかな場合には正規の勤務時間を勤務したものとみなすことについて検討を進めていくことが適当であるとする(31頁)。しかし、民間では、出張の際には、事業場外のみなし制度(労働基準法38条の2)の適用の有無が問題となるが、同制度の適用があるのは「労働時間を算定し難いとき」であり、現代の情報伝達技術が進歩した中では、「労働時間を算定し難いとき」に該当する場合は極めて限定的である。そして、国家公務員の出張でも勤務時間を把握することは十分可能であることから、実際の勤務時間により勤務時間を把握すべきであり、上記みなし制度の拡大は反対である。

 次に、勤務間インターバルに関し、最終報告は、「令和3年度において、特例業務(上限を超えて超過勤務を命ずることができる業務)に従事したことにより、1箇月について100時間未満の上限を超えた職員が14.1%、2箇月から6箇月の平均で80時間以下の上限を超えた職員が19.9%おり、一部の職員が過労死ラインを超えて超過勤務を行っている実態がある」する(47頁)。このような相当の割合で過労死ラインを超える勤務実態がある中では、実効的な勤務間インターバルの導入が早急に求められるところである。

 そして、最終報告では、当面の勤務間インターバル確保として、22時間以降の超過勤務命令について抑制的に運用すること、特例業務の範囲を必要最小限とすることについて指導を行うこと、フレックスタイム制等の活用、年次休暇の使用の促進等を挙げる(52~53頁)。

 しかし、22時以降の超過勤務命令を抑制的に運用するという現場任せでは長時間勤務を抑制できるものではなく、使用者が勤務時間を割り振るフレックスタイム制では勤務間インターバルが保障されるものではない。年次休暇は国家公務員の休暇のために取得されるべきで勤務間インターバルのために利用させるべきではなく、国家公務員が年次休暇を取得しなければ勤務間インターバルを実現できるものでもない。最終報告の提言する当面の措置は、勤務間インターバル確保のために著しく不十分であり、早急に勤務間インターバルの本格的な実施をすべきである。

 また、最終報告では、本格的な実施の際の制度的措置として、事前的措置と事後的措置を挙げて、それぞれの組み合わせで勤務間インターバルを確保することとしている(54~55頁)。しかし、勤務間インターバルを実現するは、国が国家公務員に勤務間インターバルを付与する義務を明確に定めることがまず重要である。そのためには、「国は、勤務開始時点から24時間以内に連続11時間以上の休息時間を付与しなければならない」ことや「始業時刻が固定されているか否かを問わずに、労働から解放された終業時刻から11時間以上を経過しなければ、次の労働を開始することができない。また、始業時刻から終業時刻までの途中に長時間の休憩時間があっても、実労働時間と休憩時間の合計である拘束時間は13時間以内でなければならない」ことを法律で定めるべきである(日本労働弁護団・あるべき労働時間法制の骨格[第一次試案]2014年11月28日参照)。

 その上で、事後的措置として、始業時刻を後ろ倒しにした場合には、終業時刻を後ろ倒しにすべきではない。勤務時間を安定させて国家公務員の健康と私生活との調和を図るためにも、終業時刻を後ろ倒しにするのではなく、勤務間インターバル確保のために必要な時間帯に正規の勤務時間が含まれていた場合は重複した正規の勤務時間について勤務したものとみなす方法にすべきである。なお、当該勤務のみなしの際、給与の減額を行うことは、国家公務員が安心して休息を取得することを妨げるものであるから、減額を行わずに休息を取得させるべきである。

 最後に、国家公務員の長時間勤務の根本的な原因は、適正な人員配置がないことにあると考えられる。国は、国家公務員の勤務時間の正確な把握を行うとともに、適正な人員配置のために予算措置を講じるべきである。

以上