芸能界における性被害・ハラスメントを撲滅するための法的環境整備を求める緊急声明

2023/7/21

(150KB)

芸能界における性被害・ハラスメントを撲滅するための法的環境整備を求める緊急声明

2023年7月21日
日本労働弁護団 幹事長 佐々木亮

日本労働弁護団は2017年に芸能スポーツPTを立ち上げ、芸能界で働くタレント、実演家の権利擁護のため調査研究、提言などを行ってきた。

2023年3月18日には、ジャニーズ事務所前社長による所属タレントに対する性被害について、BBCが調査報道をし、これを契機として、芸能界における性被害の問題が、改めてクローズアップされている。

芸能界における性被害やハラスメントの問題は単に一事務所の問題ではない。立場の強い者による性搾取が広く蔓延していることは、過去繰り返された報道等をみても半ば周知の事実であるといえよう。芸能界における性被害やハラスメントをなくし、人権が尊重される業界に変えるには、加害構造の是正に役立つ法的根拠を与える改革が必要である。

まず、芸能事務所と芸能実演家との間の標準的なマネジメント契約の内容を抜本的に改革することが必要である。ここでは、韓国において、2011年に「芸術人福祉法」が制定され、標準契約書の開発と普及が国家の責務とされ、実際に、被害があった場合に所属事務所との契約を債務不履行解除し、自由に別事務所へ移籍することを可能とするなどの、性被害やハラスメントに関する条項を盛り込んだ標準契約書が作成されていることが参考になる。また、調査や救済手続の整備も必要である。韓国では、2021年に「芸術人の地位と権利の保障に関する法律」(芸術人権利法)が制定され、同法においては、国が「芸術人権利保障及びセクハラ性暴力被害救済委員会」を設置することとしていて、芸能実演家保護のための法整備が進められている。

また、「ビジネスと人権」の観点から、放送局、出版社、広告業界のキー企業(国・地方公共団体も含む)らが性被害の防止を自らの義務とするとともに(コード・オブ・コンダクト)、取引先に対しても契約の条件として要求し、業界全体で性被害を見逃さない法的根拠を整備する必要がある。重要なのは、被害を訴えた告発者が「干される」のではなく、加害者が取引から排除されねばならない点である。特に女性や年少者は、「脆弱な立場にあるステークホルダー」に分類されるところ(2022年9月「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」)、芸能事務所等との間で関係のある各取引先企業は、被害が発生する蓋然性が高いものとして、「負の影響」を特定するための人権デューディリジェンスを積極的に実施するようにすべきである。たとえば、2023年4月3日、ビジネスと人権に関する行動計画の実施に係る関係府省庁施策推進・連絡会議決定が公表した「公共調達における人権配慮について」においては、「公共調達の入札説明書や契約書等において、「入札希望者/契約者は『責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン』(中略)を踏まえて人権尊重に取り組むよう努める。」旨の記載の導入を進める。」としている。この点では公正取引委員会の機能強化も必要となろう。

さらに、芸能事務所に対して労働者派遣法を適用し、あるいは業法上の規制を新設することも検討すべきである。

また、芸能実演家たちによる労働組合の結成とその促進及び強化も重要である。芸能実演家として働く者の権利の擁護と向上のためには労働組合の存在は不可欠である。仮に結成の動きを妨害するような不当労働行為が行われるような場合には、これに対して迅速かつ実効的な救済が必要である。

当弁護団は、芸能実演家の権利を擁護する立場から、今後も、被害発生防止のための施策を求めていく。

以上