テレワーク従事者に対する労働時間把握方法等に関する緊急幹事長声明
2020/12/22
本年コロナ禍の下、急速な拡がりを見せた「テレワーク」。今後も更なる普及が予想されていますが、勤怠管理などの面で大きな問題も存在しています。
日本労働弁護団では本日(2020.12.22)、この問題に関して下記の緊急幹事長声明を発表しました。どうぞお目をお通しください。
テレワーク従事者に対する労働時間把握方法等に関する緊急幹事長声明
2020年12月22日
日本労働弁護団
幹事長 水野 英樹
1 政府は、2020年12月1日、成長戦略会議実行計画を取りまとめた。
その中では、テレワークの時間管理について、「①テレワーク時における労働者の自己申告による労働時間の把握・管理については、自己申告された労働時間が実際の労働時間と異なることを客観的な事実により使用者が認識している場合を除き、労働基準法との関係で、使用者は責任を問われないことを明確化する。②(中抜け時間があったとしても、)労働時間について、少なくとも始業時間と終業時間を適正に把握・管理すれば、労働基準法の規制との関係で、問題はないことを確認する。③テレワーク時には原則禁止であるとの理解があるテレワークガイドラインの 「時間外、休日、深夜労働」について、テレワーク以外の場合と同様の取扱いとすることについて検討する。」との方向により、労働法制の解釈の明確化を図ると謳われている。
このような政府の動きは、以下の理由により問題である。
2 上記①は、テレワーク勤務時において、自己申告制による労働時間管理が認められることを当然の前提としている。
しかし、労働安全衛生法上、使用者はPCのログ記録等の客観的な方法により、労働者の労働時間の状況を把握しなければならないとされている(同法66条の8の3、同法規則52条の7の3)。始終業時刻の確認は使用者が「現認」することにより確認・記録すること(労働者も自らそれを確認する)、もしくは「タイムカード・ICカード等の客観的記録」を基礎として確認・記録するのが原則である。
テレワークにおいても、労働者の長時間労働を防止し健康を確保するため、客観的な方法により正確に労働時間を把握・管理する必要性は全く変わらない。そして、タイムカードと同様の機能をもったアプリケーションを利用したり、メールで始業や終業の連絡をすることで始業・終業時刻を客観的に記録すること、ビデオ会議等の方法を用いて使用者と労働者とが始業・終業時刻を「現認」し確認・記録することは容易である。
テレワークは特に長時間労働を誘発しがちであるという実情がある。連合が2020年6月30日に発表したテレワークに関する調査では、通常の勤務よりも長時間労働になることがあったと半数超(51.5%)が回答している反面、時間外・休日労働をしたにも関わらず申告していない回答者が 6 割超(65.1%)に上った。申告しなかった理由は、「申告しづらい雰囲気だから」(26.6%)や「時間管理がされていないから」(25.8%)が上位に挙がっており、いずれも使用者の労働時間把握が不十分であることを示すものであった。
始業・終業時刻をその時点で確認・記録しない自己申告は、実際の始業・終業時刻とは異なる時刻を記入させるなど、曖昧かつ杜撰な時間管理の温床となることから、政府は自己申告による方法は厳に慎むよう指導すべきである。
3 また、使用者の労働時間把握義務は、確認・記録していた労働時間と、実際の労働時間との間に乖離がある場合にはそれを是正する義務も含むと解される。これはタイムカードに終業の打刻をさせた後に引き続き業務を命じたり、自宅での持ち帰り残業を命じたりする場合と異ならない。
今日、テレワークはほとんどがPC等のモバイル端末を事業場外で使用させることで実施されている。そのため、使用者の義務である実労働時間の管理・把握は、PCのログを集計するなどすることで、極めて正確かつ容易に履行できるはずである。PCのログ、メールの送信時刻、文書作成時刻等の作業時刻の記録等から実際の労働時間との乖離を認識することに技術的な困難が少ないことを前提に、使用者が適切に労働時間を管理する責任を負うことを強調すべきである。
しかるに、政府は上記①②のように、使用者の労働時間把握義務を軽減し、あろうことか上限規制や割増賃金支払義務等の労基法上の責任の免責を易々と認めようとしている。かかる簡便な労働時間管理を許せば、テレワーク勤務に従事している労働者に対する労働法上の労働時間規制は、実質的に空文化してしまうことになるのであり、経営者の都合のみを重視するものと言わざるを得ない。
4 テレワークが中小企業も含めた多くの企業で急速に広がる中で、労働時間の管理のあり方を議論するには、その社会的な影響力の大きさにかんがみ、公労使の三者間で慎重な議論がなされるべきである。
ところが、上記の実行計画を検討・決定した成長戦略会議の出席者は、経済学者である竹中平蔵氏や企業トップ、総理大臣等であり、労働側の代表者はおろか、厚生労働大臣すら不在の中で、重要な労働政策が決定されているのである。
このような労働政策の決定のあり方は、労働政策の当事者の意見をないがしろにするものであり、民主主義の精神に反し、断じて許されない。
5 加えて、一部の経営者からは、テレワーク勤務時における事業場外労働のみなし制の適用を求める声が広がっている。しかし、同制度は、「労働時間を算定し難いとき」に限り適用が認められる制度であり、通信機器等によって労働時間管理が可能である場合には、同制度の適用は認められない。
この点、阪急トラベルサポート(派遣添乗員・第2)事件最高裁判決(最二小判平26.1.24)では、⑴当該業務が、旅行日程がその日時や目的地等を明らかにして定められることによって、その内容があらかじめ具体的に確定されており、添乗員が自ら決定できる事項の範囲及びその決定に係る選択の幅は限られていること、⑵当該業務について、上記企画旅行を主催する旅行業者は、添乗員との間で、あらかじめ定められた旅行日程に沿った旅程の管理等の業務を行うべきことを具体的に指示した上で、予定された旅行日程に途中で相応の変更を要する事態が生じた場合にはその時点で個別の指示をするものとされ、旅行日程の終了後は内容の正確性を確認し得る添乗日報によって業務の遂行の状況等につき詳細な報告を受けるものとされていることを踏まえ、「労働時間を算定し難いとき」に当たるとはいえない旨判示しており、判例上、厳格な解釈がとられている。現行のテレワークでは、ほとんどがPC等のモバイル端末を事業場外で使用させることで実施されているのであるから、上述のとおり労働時間管理は容易であるはずであり、「労働時間を算定し難いとき」に当たり得るケースは皆無といってよい。いかに使用者側のニーズがあるからといって、従前の法解釈を曲げるかのような方針を打ち出すことは許されない。
6 日本労働弁護団は、長時間労働になりがちなテレワーク従事者に対し、適切に労働時間規制が適用されるべきであること、及び労働政策が公労使の三者間における慎重な議論のもと決定されるべきであることを強く求めるものである。
以 上
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