労組法上の労働者性を否定した東京高裁3判決の是正を求める決議
2010/11/13
2010年8月26日、東京高等裁判所第19民事部は、ビクターサービスエンジニアリング株式会社(「会社」)に個人請負(委託)形式で就業していた者らが、労働組合法上の労働者にあたらないとする不当な判決を言い渡した。
これまでも、業務委託形式の契約のもとで就労する労働者の労組法上の労働者性を否定した新国立劇場事件東京高裁判決(平成21年3月25日)、INAXメンテナンス東京高裁判決(平成21年9月16日判決)と、東京高裁で相次ぐ不当判決が行われてきた。
ビクター事件判決は、労組法上の労働者性について、「労働契約、請負契約等の契約の形式いかんを問わず、労働契約上の被用者と同程度に、労働条件等について使用者に現実的かつ具体的に支配、決定される地位にあり、その指揮監督の下に労務を提供し、その提供する労務の対価として報酬を受ける者をいう」とする。これは朝日放送事件最高裁判決と同様の表現であるが、同事件は労組法上の「使用者」性の判断基準につき言及したものであり、「労働者」性が問題となるビクター事件とは事案を全く異にする。しかも、ビクター事件判決は労働者性判断につき、契約の形式は問わないと述べながら、業務委託契約について、「委託者の必要に応じて受託業務に従事する以上、委託内容により拘束、指揮監督と評価できる面があるのが通常であるから、契約関係の一部にでもそのように評価できる面があるかどうかによって労働者性を即断するのは事柄の性質上相当でな」いとして、労働の実態より契約形式を重視する姿勢を見せている。そして、会社と顧客の調整により受託者の受注する業務の日時や場所が決まること、業務遂行方法について一定の指示があることは委託契約の内容の性質上そのように定めるほかないものであるとするなど、本来労働者性を基礎付けるべき事実についてこれを契約内容の性質上当然のものとして切り捨てるなどして、労働者性を否定した。
ビクター事件は上告され、これで新国立劇場事件、INAXメンテナンス事件と並び、労組法の労働者性に関して3つの事件が最高裁判所に係属することとなった。
憲法28条が「勤労者」に団結権、団体交渉権を保障しているのは、使用者に経済的に従属する勤労者が団結をすることによって使用者との実質的な対等化を図り、その生存権を保障するためである。労組法が、労働者を「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」(3条)と広く捉えているのは、憲法28条の趣旨を具体化し、これを実効あるものとするためである。したがって、労組法上の労働者性は、その就労実態から団結権、団体交渉権の保障を及ぼす必要性の有無で判断すべきことは自明である。この点、これまで労組法上の労働者について判断した唯一の最高裁判例である中部日本放送・CBC管弦楽団事件最高裁判決(昭和51年5月6日)も労組法上の労働者については、その就労実態を重視した判断を行い、労働委員会もこれに沿った適切な判断を行ってきた。東京高裁の前記3判決のように、契約形式にとらわれ、労組法上の労働者の範囲を狭く解することは到底許されない。
日本労働弁護団は、東京高裁の前記3判決を改めて強く批判するとともに、これら上告事件について、最高裁判所において口頭弁論を開き、不当な判断を正すように強く求める。
2010年11月13日
日本労働弁護団第54回全国総会