JAL整理解雇事件の控訴審での適正な解決を求める決議

2012/11/10

            JAL整理解雇事件の控訴審での適正な解決を求める決議
1 2010年1月に経営破綻し、会社更生手続下におかれた日本航空が、2010年12月31日に行った整理解雇により解雇された運航乗務員81名・客室乗務員84名が東京地方裁判所に地位確認と未払い賃金の支払いを求めた事件で、東京地方裁判所は、2012年3月29日(乗員)、同月30日(客室乗務員)、相次いで原告敗訴の判決を言い渡した。
2 地裁判決は、事業規模に見合わない人員を抱えることは、全ての雇用が失われることにもなる破綻的清算を回避し、利害関係人の損失の分担の上で成立した更生計画に沿うものではない、定年や任意退職等により必要削減数に達するときまで、事業規模に照らして余剰であると評価される人員の人件費が発生し続けることを甘受しなければならないとすることは余りにも不合理である(乗員判決)、いわば一旦沈んだ船とも言える被告を引き上げて再建を図るために事業規模を大幅に縮小し、これに応じた適正な人員配置とするとともに、株主には100%減資を強い、債権者には約5000億円を超える債務免除を求め、かつ、3500億円もの巨額の公的資金を投入するというのが本更生計画の骨子であって、本件更生計画は、被告を二度と沈むことのない船にするために立案・実行されたものであり、本件会社更生計画手続の究極の目的は、こうした、公共交通機関として航空機の運航業務を担う被告の事業の持続と安定を図る点にあった(客乗判決)などと判示した。
3 このように地裁判決は、①更生計画における人員削減計画・目標は、人件費削減による事業損益目標確保(更生債権の配当原資の確保)にあることを無視し、更生計画に定められた、縮小した事業規模に見合った人員体制にすることが必要であったと人員削減の必要性を極めて観念化し、②更生計画上の人員削減目標による人員削減の必要性と整理解雇時の解雇による人員削減目標達成の必要性を同一視し、③更生計画提案時から整理解雇時までの間の財務状況、人件費、営業費用、営業利益の動向は、本件人員削減の必要性とは直接関係しないとして、これらの指標を人員削減の必要性の検討から排除する極めて不当な判決である。
  このような判断が一般化すれば、裁判所は、経営破綻後の企業再建手続下においては、一旦更生計画あるいは再生計画が立案され、そこに人員削減計画が盛られた以上、その実現という形を取る限り、破綻後の経営改善により人員削減の必要性が著しく減少し、その一方で、解雇回避措置の可能性がどれほど増大しても、それらの事情は一切無視した上で、整理解雇を有効と判断することになる。それは、労働者の権利を擁護する労働法、就中、多くの労働者が裁判上・裁判外の闘いによって勝ち取ってきた整理解雇法理を事実上放棄するものに他ならない。
4 被控訴人会社は、2010年9月27日に整理解雇の人選基準を発表したが、その基準を作成する段階で、既にその基準に該当する者のシミュレーションを行っていた。その中には、昇格差別により、昇格が遅れた高年齢の日本航空キャビンクルーユニオンの労働者が多数含まれていた。また、企業内での活動に留まらず、産業別労働組合の活動を通じて、被控訴人会社と対峙し、航空労働者の生活と権利、航空の安全の確保に尽力してきた日本航空機長組合、日本航空乗員組合、日本航空キャビンクルーユニオンの組合活動家の大半が含まれていた。しかも、被控訴人会社は、客室乗務員については、人員削減目標数の上乗せを行い、また、機長については、余剰人員算出方法の変更と人員削減目標数の上乗せを行い、労組活動を担った者が整理解雇の対象から外れることを阻止した。
  その一方で、被控訴人会社は、2010年10月以降、整理解雇の人選基準の該当者を整理解雇が実施された2010年12月31日まで一貫して乗務から外す措置を取った。これにより、対象者は乗務資格を喪失し、重大な不利益を被った。その間、被控訴人会社は、10月には退職を求める面談を行っている。面談では、被控訴人会社の担当者が、希望退職に応じて退職しなければ整理解雇されると一様に説明している。被控訴人会社は、労働組合の、実施が容易な、ワークシェアリングを初めとする解雇回避措置の提案をことごとく無視し、このように、当初より予定していた整理解雇対象者に乗務外しの嫌がらせを行った。これらは、事実上の指名解雇と評価できるものである。
  以上の経過を踏まえれば、本件整理解雇は、闘う労働組合・労働者を被控訴人会社から排除する目的をもって行われたと考えるしかない。しかし、地裁判決は、こうした明白な不当労働行為をすべて免罪した。
5 整理解雇実施後、被控訴人会社においては、運航乗務員・客室乗務員の退職・社外への流出が止まらない状況にあり、2012年7月から10月にかけて、客室乗務員を650名採用し、2013年度には290名の採用を決定している。また、停止していた運航乗務員訓練生の2013年度からの訓練再開を決定した。それにもかかわらず、被控訴人会社は、整理解雇した運航乗務員・客室乗務員に対しては一切復職の提案を行っていない。被控訴人会社は、新規採用・訓練再開に先立って、整理解雇した者を直ちに職場に復帰させるとともに、それらの者が受けた甚大な被害を認め、真摯に謝罪すべきである。
6 ILO(国際労働機関)の理事会は、結社の自由委員会の審議と結論を受けて、2012年6月15日、日本政府に対して、「委員会は、従業員の人員削減の過程において、労働組合と労働者の継続する代表者が役割を果たせるように、関連する当事者間で協議が実施されることを確実に保障するよう、日本政府に要請する」との勧告を発した。日本政府は、この勧告を踏まえて、直ちに、被控訴人会社に対して、本件紛争の解決に向けた実質的な労使協議が行われるよう、被控訴人会社に働きかけるべきである。そして、被控訴人会社も、勧告の趣旨に従って、労働組合との協議を通じて紛争の抜本的解決に努めるべきである。
7 事件は、すでに控訴審に係属している(東京高裁第24民事部(乗員裁判)、東京高裁第5民事部(客乗裁判)。そして、第1回期日は2012年12月6日(乗員裁判)、2012年12月14日(客乗裁判)に指定されている。控訴審においては、地裁判決の是非が正面から問われることとなる。我々は、会社再建手続下においても整理解雇法理が適用されること、具体的には、更生計画による再建計画全体の目標とその到達点・進捗状況を基本に据えて、本件整理解雇実施された2010年12月31日の時点における業績回復の具体的な実績、人員
削減の具体的な進捗状況及びその後の合理的に想定できる予測動向とを総合的に検討し、2010年12月31日の局面において、更生計画で定めた人員削減目標の必要性・緊急性の程度及びその達成方法を具体的に検討することが必要であると考える。そして、この観点からは、2010年12月31日の時点で、165名の整理解雇を行う必要性はなかったことは明らかであると考える。
8 我々は、控訴審裁判所が、整理解雇法理の判例法理の到達点を踏まえ、同法理を正しく適用して、本件の結論を導くこと、本件紛争の抜本的解決を図る立場から、適正にその権限を行使することを強く求めるものである。
                          2012年11月10日 日本労働弁護団第56回全国総会