電力会社気事業者に原発労働者の安全確保の直接責任を課す政令改正を求める決議

2012/11/10

電力会社気事業者に原発労働者の安全確保の直接責任を課す政令改正を求める決議
 2011年12月16日、政府は福島第一原発の事故収束を宣言した。しかし、2012年4月から2012年7月31日までの間で、福島第一原発で20mSvを超える被ばくをした原発労働者は121人を数える。福島第一原発の廃炉は数十年先のことと言われており、多量の放射線被ばくに晒されながらの原発労働者の作業は今後も長期間続くことは不可避である。
 原発労働の重層的下請構造のもとで、第一線で作業の中心を担う原発労働者は、下位下請会社の作業員である。2012年4月から7月にかけて10mSvを超える被ばくをした478名の原発労働者のうち、下請会社の労働者が9割以上を占めることが示すとおり、これらの作業員が最も高線量の被ばくに晒されている。作業員の多くは偽装請負状態や違法派遣状態で働かされ、その賃金は幾重にもピンハネされ、さらには一人親方扱いされて健康保険、雇用保険に未加入の者も多い。
 原発労働者の年間被ばく線量の上限値は50mSvである。原発労働者の健康のためのみならず、上限値に達することで就労できず生活の糧を失う事態を避けるためにも、徹底した線量管理が求められる。しかし、2011年3月24日、福島第一3号機タービン建屋内の空間線量が400mSvと計測される中、上位下請会社従業員の指示により、作業継続を命じられた下位下請会社の作業員が汚染水に踏み入り、多量の被ばくをした。2012年7月以降には、下請会社が従業員に対し、線量計を鉛板で覆う被ばく隠しを指示した事件や、線量計の不携帯が相次いで発覚した。2012年6月、日本労働弁護団では原発労働プロジェクトチームを立ち上げ、偽装請負・違法派遣、被ばく隠しなどの個別事案の違反申告や、下請会社に対する申し入れ活動等に取り組んできた。
 しかし、原発労働者を巡るこれらの問題は今に始まったものではなく、原発労働の重層的下請構造に内在する構造的なものであって、偽装請負・違法派遣等の個別事案への対応や、下請会社任せの原発労働者の被ばく線量管理、長期的健康管理を含めた安全衛生管理では限界がある。原発労働者の命がけの作業により利益を得ている注文者たる電気事業者こそが、原発労働者の労働条件や安全衛生管理につき責任を負うべきである。
 労働安全衛生法上、特定事業の仕事を自ら行う注文者は、建設物、設備又は原材料を、当該仕事を行う場所においてその請負人の労働者に使用させるときは、当該建設物等について、当該労働者の労働災害を防止するために必要な措置を講じなければならないとされる(同法31条1項)。現在、「特定事業」は建設業と造船業と定められているが、原発労働者の実効的な安全確保のためには、原発事業も「特定事業」に含めるべく、労働安全法施行令の改正がされるべきである。これは、政省令の改正により機動的に行うことが可能であり、即時行われるべきである。
 そして、重層的下請構造の下で発生する偽装請負等の違法な就労状態や、健康保険・雇用保険への未加入、被ばく隠し等の諸問題を根絶するために、電気事業者に対し、原発労働者の直接雇用義務を課すことも今後検討されるべきである。
 日本労働弁護団は、個別の原発労働者の事案への積極的な対応や各地の関係団体との連携強化を通じて、原発労働の重層的下請構造から生ずる諸問題の是正に取り組むことを宣言するとともに、電気事業者に対し、実効性ある原発労働者の安全衛生管理義務を課すことを求める。
           2012年11月10日 日本労働弁護団第56回全国総会