労働者派遣法の早期抜本改正を求める意見書

2010/2/4

労働者派遣法の早期抜本改正を求める意見書

2010年2月4日
日本労働弁護団
幹事長 水口 洋介

はじめに

 派遣労働者をめぐる雇用環境等の変化を踏まえた厚生労働大臣の諮問(平成21年10月7日付け厚生労働省発職1007号1号)を受け、2009年12月28日、労働政策審議会は「今後の労働者派遣制度のあり方」について答申を出した(以下「答申」という)。答申は、法律の名称・目的に労働者保護を明記すること、登録型派遣や製造業務派遣、日雇い派遣の原則禁止、均等待遇、マージン率の情報公開、違法派遣の場合の直接雇用申込みのみなし規定を創設するなど、労働者保護の観点から規制強化に踏み込む内容となっている。この間の労働者派遣法の緩和がもたらした実質の改善を目指す法規制強化の方向はわれわれとして基本的に賛同するものであるが、答申の内容は、低賃金・不安定雇用、使用者責任の不明確化、中間搾取の容認、労働者間の身分差別、団結の基礎の破壊・労働者の孤立化等、現行労働者派遣法が孕む構造的問題を解消するにはなお不十分なものであるといわざるを得ず、法規制のあり方としてさらなる検討が必要である。
 日本労働弁護団は、派遣労働者を含めた非正規雇用労働者の権利擁護を実現すべく2008年3月26日「労働者派遣法改正を求めるアピール」、2008年11月15日「実効性ある派遣労働者保護を実現できる労働者派遣法改正を求める決議」、2009年10月28日「労働者派遣法規制強化反対論に対する意見書」、2009年10月28日「有期労働契約法制立法提言」、2009年11月14日「非正規・不安定雇用労働者の権利確立をめざすアピール」、2009年12月21日「労政審労働力需給制度部会の12月18日付『公益委員案骨子』に対する緊急声明」を発表し、派遣法の抜本改正としてあるべき方向性を示してきた。以下、これらの意見書等をふまえ、労働者派遣法改正のあるべき内容について意見を述べる。

第1 登録型派遣の原則禁止について

1 答申は、(1)派遣労働者の雇用の安定を図るため、常用雇用以外の労働者派遣を禁止することが適当である、として「登録型派遣を原則禁止」としつつ、(2)ただし、雇用の安定等の観点から問題が少ないものとして①「専門26業務」、②「産前産後休業・育児休業取得者の代替要員派遣」、③「高齢者派遣」、④「紹介予定派遣」については登録型派遣の例外としている。雇用安定の確保のため登録型派遣を原則禁止したことは評価できるが、その例外として漫然と「専門26業務」をあげている点は問題がある。以下に述べるとおり、登録型派遣は実質において、労働者供給事業というべきものであり、本来、全面的に禁止されるべきであり、仮に例外を許容するとしても、例外とされている現行「専門26業務」の範囲を見直し、厳格にその範囲を限定すべきである。

2 本来、雇用は、直接・無期限であることが原則であり、間接雇用・有期雇用は、それを客観的に必要とし、かつ合理的な場合にあたる正当な理由がある場合に限り許されるものでなければならない。登録型派遣は、派遣先から注文を受けた時に、派遣された期間についてのみ派遣元に雇用されるという不安定雇用の極致であり、解雇規制の潜脱手段として利用される可能性が極めて高い。また,登録型派遣は,その実質は職業紹介ということができ,紹介された労働者は派遣先に雇用されるべきことも考慮すれば,本来は,全面的に禁止されるべきである。

3 仮に例外を許容するとしてもその範囲は厳格に解釈されるべきである。上述のとおり、答申は、「雇用の安定等の観点から問題が少ない」として「専門26業務」を登録型派遣の例外としている。しかし、専門26業務であっても、登録型派遣である限り、不安定雇用であることは一般業務となんら変わりない。むしろ、専門26業務については現行法上、派遣期間制限がなく、長期間、継続的に利用されながら、解雇規制の脱法的利用の危険も高いことからすれば、その範囲は厳格に限定されるべきである。もともと、専門26業務は、業務の専門性ゆえに、賃金等の労働条件の対等交渉が可能であり、中間搾取や常用雇用代替の弊害がないとされてきたものである。しかし、現在、政令指定されている26業務の中には、「事務用機器操作」、「秘書」、「ファイリング」、「財務処理」、「貿易事務」などの実質的には一般事務業務や、「デモンストレーション」、「清掃」、「受付・案内・駐車場管理」、「テレマーケティング」、「セールスエンジニアの営業」などの現業業務が含まれている。これらの業務には,今日では専門性があるとはいえない範囲の業務も含まれており、しかも、相対的に低い賃金の業務が多数を占めているのであり、専門26業務を認めた立法趣旨に合致していない。

4 また、専門26業務を登録型派遣の例外とすることは、同業務がとりわけ女性労働者が多く占めていることからして、女性労働者に対する差別的雇用慣行や女性労働者の非正規化と貧困化を容認し、助長する点でも問題である。女性労働者の過半数は非正規労働者であり、派遣の6割強が女性である。また、年収200万円以下の労働者うち女性が7割を占める。上記のとおり専門26業務には、女性が多く就労し、しかも、専門職とは名ばかりの低賃金の業務が多数含まれている。大手企業は、軒並み、一般事務の正社員(圧倒的に女性)の採用を控える一方、子会社や系列会社に人材派遣会社を作り、そこから派遣される女性派遣労働者への置き換えを進めている。男女雇用機会均等法は制定されたが、企業は、労働者派遣法を利用することによって、女性労働者を派遣社員として間接雇用し、引き続き差別的な低い労働条件のまま働かせる構造は変わっていない。労働者派遣法を抜本的に改正し、均等待遇などを義務づけなければ、このような差別的な雇用実態を改善することはできない。

5 ところで、登録型派遣については、派遣で働きたいという労働者のニーズがあるとか、短期・一時的な需給調整機能として有効に機能しており原則として禁止することは労働市場に混乱をもたらすことから妥当でないとの主張がある。
 しかし、労働者のニーズについては、諸々の事情から一時的・臨時的雇用を望む労働者が一部いるとしても、労働者派遣という雇用形態を望んでいるわけではない。むしろ、派遣労働者の多くが正社員雇用を希望していること、やむを得ず「派遣」を選択せざるを得ない状況にあることは政府の統計資料*1から明らかである。そもそも、労働者派遣制度は、直接・無期雇用という労働法の理念や雇用の基本原則に関わる重要な問題であり、経済的合理性や職探しの利便性を理由に安易に規制緩和すべきでない。間接雇用かつ有期雇用という二重の不安定を抱える労働者派遣という雇用形態を法認することが、個々の労働者の生活実態や就労環境のみならず、将来の国民生活全体からみて必要不可欠と言えるか慎重に議論されなければならない。

第2 常用型派遣について

1 上記のとおり、答申は、(1)派遣労働者の雇用の安定を図るため、常用雇用以外の労働者派遣を禁止することが適当である、として登録型派遣を原則禁止する一方、常用型派遣について対象業務や利用事由に制限を設けることなく、無制限に労働者派遣を認めている。また「常時雇用する労働者」の定義も曖昧なままにしている。以下に述べるとおり、常用型派遣についても、派遣対象業務や利用事由を限定すべきであり、また、「常時雇用する労働者」を「期間の定めのない雇用契約」を締結した労働者と法律上明記すべきである。

2 答申は、派遣元が「常時雇用する労働者」であれば雇用の安定等の観点から問題が少ないということを理由に、常用型派遣については利用事由や派遣対象業務を問わず、労働者派遣を禁止しないとしている。しかし、派遣対象業務が限定されないと、直接雇用の正規労働者が、派遣労働者に置き換えられる危険(常用雇用代替化の危険)が高まる。本来、雇用は直接・無期限であることが原則であり、間接雇用・有期雇用は、それを客観的に必要とし、かつ合理的にする正当な理由がある場合に限り許されるものでなければならないことからすれば、常用型派遣についても、派遣対象業務を専門職務に限定し、また利用事由も制限すべきである。

3 「常用雇用(常時雇用する労働者)」がどのような労働者を意味するのかは極めて重要な問題であるが、答申は、「常用雇用」の定義についてなんら触れていない。厚生労働省はこれまで「常時雇用される労働者」を「期間の定めなく雇用されるもの」だけではく「有期雇用や日々雇用」であっても「過去1年を超える期間について引き続き雇用されている者または採用の時から1年を超えて引き続き雇用されると見込まれる者」も含まれると解釈し、取り扱いをしてきている(職業安定局「労働者派遣事業関係取扱要項」)。このような「常用雇用する労働者」の解釈を許せば、有期雇用の労働者を専門業務以外の業務に派遣することが可能(適法)となり、労働者の雇用の安定は確保されない。したがって、「常用雇用(常時雇用する労働者)」については、派遣労働者の雇用の安定確保という法改正の目的に沿って、雇用の安定を確保する見地から、直接・無期限という雇用の原則に沿って「常時雇用する労働者」を「期間の定めのない雇用契約」を締結した労働者と明記するべきである。

第3 製造業務派遣の原則禁止について

1 答申は、「昨年来、問題が多く発生した製造業務への労働者派遣については、これを禁止することが適当である」として、製造業務への派遣を原則禁止としつつ、「雇用の安定性が比較的高い常用雇用の労働者派遣については、禁止の例外とすることが適当である」としている。

2 しかし、「常用雇用」に有期雇用を含ませる厚労省の行政解釈を前提とすれば、「常用雇用」だから雇用の安定性が高いと言えないことは「第2」に記載したとおりである。特に、製造業務派遣について企業は派遣労働者を雇用調整弁として受け入れているにずぎないため、労働者が雇用調整の影響を受けやすい。雇用の原則は、直接・無期限であり、間接雇用・有期雇用は、それを客観的に必要とし、かつ合理的にする正当な理由がある場合に限り許されるものでなければならないことからすれば、製造業務派遣については本来、全面的に禁止されるべきである。
 仮に、常用雇用の労働者派遣を禁止の例外とするとしても、雇用の安定性を確保する見地から、登録型派遣で述べたのと同様に、その定義規定を置き、期間の定めのない雇用契約に限定すべきである。

3 ところで、製造業務派遣の原則禁止は、国際競争力が激化する中にあって生産拠点の海外移転や中小企業の受注機会減少を招くとか、物作り基盤を喪失し、労働者の雇用機会の縮減に繋がるとの主張がなされている。製造業務派遣を禁止すれば、低価格競争に勝てず、企業が人件費の安価な海外へ流出することになるから国際競争力を損なう、というものである。
 しかし、人件コストの削減や景気変動による雇用調整については、企業はこれまでも直接雇用の臨時工で対応してきた。企業は、直接雇用の臨時工を雇用責任を負わない間接雇用の派遣労働者に置き換えたにすぎない。また、そもそも、労働者派遣は、派遣会社に収益をもたらすことになっても、企業の人件コストの大幅削減にはつながらない。労働者派遣事業の年間売上は平成15年度の2兆3614億円から平成20年度は7兆7892億円とこの6年で3倍も売り上げを伸ばし、労働者を商品として供給することで空前の利益を上げている(「労働者派遣事業の平成20年度事業報告の集計結果(厚労省)」)。いうまでもなく、労働者派遣事業の売上の大部分は企業が派遣会社に支払う手数料(マージン)である。こうした手数料は本来、労働者が直接雇用されていれば「給与」として支給されていたものである。すなわち、企業は、直接雇用する労働者に支払うべき賃金相当額を「手数料」として派遣会社に支払っているにすぎない。また、国際競争力の強化には優れた人材の育成が必須である。しかし、労働者派遣制度は、賃金の安い雇用調整弁として派遣労働者の使い捨てを前提とする制度であり、派遣先企業が長期的観点から労働者の能力開発を行うことは想定されていない。労働者派遣制度のもとでは、物の製造上のスキルや技術の承継が必要不可欠である製造業のための人材育成は著しく困難となり、かえって、製造業の国際競争力の低下につながる。したがって、製造業務派遣を禁止することによって、企業の国際競争力が損なわれるとの主張は一面的である。さらに、 製造業務派遣を禁止したからといって、仕事がある限り労働者の就業機会そのものがなくなることはない。むしろ、製造業務派遣の禁止は、派遣労働者から直接雇用労働者に移行させるもので、労働者の雇用安定と労働条件改善に直結するものである。

第4 直接雇用申込みのみなし規定について

1 答申は、「違法派遣の場合における直接雇用の促進」として、違法派遣の場合の派遣先の「直接雇用の申込み」のみなし規定を創設し、民事的効力を認めると共に、規定の履行確保のため、行政の勧告制度を設けるものとしている。違法派遣の抑止及び派遣先責任の強化の観点から、派遣先に直接雇用責任を課すことにつながるものであり、この点は評価できる。しかし、以下に述べるとおり、規定適用の要件や効果の点の問題がある。

2 先ず、答申は、みなし規定が適用される違法派遣を、①禁止業務への派遣受入、②無許可・無届の派遣元からの派遣受入、③期間制限を超えての派遣受入、④いわゆる偽装請負の場合、⑤登録型派遣原則禁止に違反して常用雇用する労働者でない者を派遣労働者として受入た場合の5つの場合に限定している。
 しかし、上記5つの場合以外にも、特定行為や多重派遣など派遣先に雇用責任を課す必要性の高い重大な違法派遣があることからすれば、答申の挙げる5つの場合は、例示列挙であることを明示し、みなし規定は、労働者派遣法の趣旨に反して派遣労働者の利益を著しく害する違法派遣のすべてに適用されるべきである。具体的には、旧3党案にあったように、「前号(答申が列挙している場合)に準じる行為であり労働者派遣法の趣旨に反して派遣労働者の利益を著しく害する行為で厚生労働省令で定めるもの」などの規定をもうけるべきである。

3 次に、答申は、みなし規定の適用について「派遣先が(上記5つの違法派遣について)違法であることを知りながら」と派遣先の主観的要件が必要としている。
 しかし、これでは派遣先が違法であることを「知らなかった」と主張すれば、直接雇用責任を回避できることになる。みなし規定の実効性を確保し、派遣労働者の雇用の安定を図るためには、かかる派遣先の主観的要件をもうけるべきではない。

4 答申は、直接雇用後の労働条件について「当該派遣労働者の派遣元における労働条件と同一の労働条件を内容とする」としている。しかし、これでは、派遣元との雇用契約が有期であった場合、直接雇用後も有期となり不安定雇用の解消には不十分である。したがって、直接雇用後の雇用契約期間は、正当な理由のない限り、期間の定めのないものとすべきである。
  また、この場合の労働条件については、直接雇用をする派遣先の比較可能な条件にある期間の定めのない契約の労働者との均等待遇を原則とし、少なくとも、「当該派遣労働者の既存の労働条件を下回ってはならない」などの規定を設けるべきである。

第5 団交応諾義務など派遣先の責任強化の規定について

1 答申は、派遣先の責任強化について「派遣法案に盛り込むべき事項」としたのは直接雇用申込みのみなし規定についてのみである。

2 しかし、労働者派遣においては、派遣先は、使用者として派遣労働者を指揮命令している以上、派遣労働者に対し、安全配慮義務や就労環境などを整備する義務を追っていること、外見上は、適法な派遣であっても、実質は、派遣先が派遣元に対して支配的地位にあり、派遣労働者の賃金等の労働条件を決めているなど、派遣形式を利用した脱法的労働力利用が横行していること、みなし規定の適用にあたっても、派遣労働者が派遣先と労働条件の交渉をする必要があることからすれば、派遣先は労組法上の「使用者」にほかならず、派遣労働者の団結権及び団体交渉権を実効化するためにも、派遣先の団体交渉応諾義務を明記すべきである。

3 また、派遣先責任の抜本的強化を図るためには、派遣労働者の賃金未払に関する派遣元と派遣先の共同責任化、派遣先による労働者派遣契約の途中解約の場合の派遣労働者への残存期間の賃金相当額支払義務、労災補償責任の共同責任化などについても規定を設けるべきである。

第6 日雇い派遣の原則禁止について

1 答申は、「雇用管理に欠ける形態である日々又は2ヶ月以内の期間を定めて雇用する労働者については、労働者派遣を禁止することが適当である」としつつ「日雇い派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題ない業務等について、政令によりポジティブリスト化して認めることが適当である」として政令による例外を設けることを認めている。

2 日雇い派遣は不安定雇用の極致であり、原則禁止としたことは評価できる。しかし、「日雇い派遣が常態であり、かつ、労働者の保護に問題がない業務」を例外とするが、例外の判断基準としては極めて曖昧であり、企業や行政の脱法的拡張解釈の余地を与えるものである。日雇い派遣については、賃金や雇用期間のみならず、社会保障の受給資格を得られないなどその弊害はあまりに大きく、また、企業による脱法的利用が後を絶たない。したがって、2か月以内の雇用期間の労働者派遣は例外を許容することなく、全面的に禁止すべきである。

第7 均衡待遇の規定について

1 答申は「派遣労働者の賃金等の確保を図るため、派遣元は、派遣労働者と同種の業務に従事する派遣先の労働者との均衡を考慮するものとする旨の規定を設けることが適当である」としている。

2 しかし、「均衡を考慮する」との配慮規定を設けるだけでは、労働条件の均衡確保の実効性に乏しい。また、労働者派遣は多くの場合、「有期雇用」で、しかも「間接雇用」であるという二重の不安定さを抱える制度であり、より一層、労働者を保護する必要性が高い。同種の業務に従事する労働者間の差別待遇を解消する見地からは、労働条件の「均衡」ではなく「均等」を確保すべきである。したがって、均等待遇を義務づける規定とすべきである。

3 また、労働条件の格差の中心は賃金であることからすれば、均等待遇の対象が「賃金その他労働条件」であることを明示すべきである。

第8 施行期日について

1 答申は「施行期日については、改正法公布の日から6ヶ月以内の政令委で定める日とすることが適当である」としつつ「1(登録型派遣の原則禁止)および2(製造業務派遣の原則禁止)については改正法公布の日から3年以内の政令で定める日とすることが適当である」、「1(登録型派遣の原則禁止)に関しては、施行日からさらに2年後までの間・・・適用を猶予することが適当である」としている。

2 しかし、派遣労働者の雇用の安定は緊急の課題であり、長期間にわたる施行期日の設定、暫定措置を設けるべきではない。登録型派遣や製造業務派遣の原則禁止が派遣労働者に与える影響を考慮したとしても、3年(登録型派遣については最長5年)はあまりにも長すぎる。猶予期間が必要だとしても、改正法公布の日から1年以内の日を施行日とすべきである。

第9 マージン率について

1 答申は「20年法案にあるマージン率等の情報公開に加え・・・派遣元は、派遣労働者の雇い入れ、派遣開始及び派遣料金改定の際に、派遣労働者にたいし、1人当たりの派遣料金の額を明示しなければならないとすることが適当である」としている。

2、派遣労働者の賃金は減少傾向にある一方、前記のとおり、労働者派遣事業の年間売上は平成15年度の2兆3614億円から平成20年度は7兆7892億円とこの6年で3倍も売り上げを伸ばしている(「労働者派遣事業の平成20年事業報告の集計結果(厚労省)」)。派遣元が労働者が本来給与として受け取るべき金額の一部を「中間マージン」の名目でピンハネし、業界団体が空前の利益を上げる一方、派遣料金の買いたたき、値崩れが進み、派遣労働者の生活は貧困の一途をたどっていることは統計資料からも明らかである。派遣元による中間搾取と派遣労働者の貧困化を阻止するためには、マージン率についての情報公開及び労働者への明示を義務付けるだけでは不十分であり、上限を規制すべきである。

第10 グループ内派遣について

 答申はグループ内派遣の規制について触れていない。しかし、いわゆるグループ企業派遣が常用代替の温床となっていること、グループ内企業に対する派遣割合が8割を超える派遣元が5割程度も存在するという現状に鑑み、グループ企業派遣については、少なくとも5割以下に規制すべきであり、その旨の規定を設けるべきである。

第11 特定行為について

1 現行派遣法(26条7項)は「労働者派遣(紹介予定派遣を除く。)の役務の提供を受けようとするもの(派遣先)は、労働者派遣契約の締結に際し、当該労働者派遣法に基づく労働者派遣に係る派遣労働者を特定することを目的とする行為をしないように努めなければならない」と定めている。答申は、いわゆる「20年法案」を前提としているところ、20年法案は、常用型派遣については「特定行為」を解禁するとしているが、答申は、この点について何も触れていない。したがって、答申は、20年法案と同様に、特定行為を解禁することになっている。

2 労働者派遣においては、本来、自己の雇用する労働者のうちどの労働者をどの派遣先への配置するかは派遣元の自由であり、労働者の採用に派遣先が関与することは、労働者派遣法の構造に反するものである。常用型であっても、特定行為の解禁はもってのほかであり、むしろ、派遣先の特定行為を禁止する規定に改めるべきである。

以上