「労働法制に関するマニュフェスト化についての要望」

2009/6/19

労働法制に関するマニュフェスト化についての要望

2009年6月19日
日本労働弁護団
会長 宮里 邦雄

政党各位

第1 要望の趣旨

「格差と貧困」が今日大きな社会問題になっており、その根底に労働の在り方とこれに関わる労働法制の問題があると考えられる。各党におかれては、来たる総選挙において、労働者派遣法の抜本改正、有期労働法制、労働契約法等の労働法制のあるべき内容についての見解を公表し、マニュフェストに盛り込みむなどして、有権者の判断を仰ぐ重要な争点の一つとして提示するよう要望する。

第2 要望の理由

1 日本労働弁護団は、労働者・労働組合の権利を守るために組織された法律家団体である(現在、会員数は約1500名)。労働問題に関する相談活動、裁判・労働審判等の法的手続き支援、労働法制・労働政策・労働実態に関する調査研究を主な活動内容としている。
昨年の経済危機以来、解雇・雇い止め・派遣切りの横行による労働者及びその家族の貧困化が進み、非正規労働者の無権利状態、格差・差別の増大が深刻な社会問題となっている。また、長時間労働による過労死が増加するなど、我が国の労働者の置かれた状態は早急に改善されなければならず、そのための労働法制の整備が喫緊の課題である。
以下に述べる労働法制について、早急に検討のうえ、各党が総選挙に臨むにあたって、有権者に具体的な方針を明示すべきであると考える。

(1) 労働契約法
当弁護団では、労働者保護に真に資する労働契約法の制定を求め、2005年には、包括的な労働契約法に関する立法提言を行った(「労働契約法制立法提言」05年5月19日)。
その後、07年11月28日に労働契約法が成立し、08年3月1日から施行されているところであるが、現在の労働契約法は、条文がわずか19条しかなく、内容が極めて不十分であるとして、その充実強化を提言してきた。労働契約法は、労使の実質的対等確保の視点に立ち、労働者保護の立場から、労働契約の成立・展開・終了という職場生活において生起するさまざまな問題について、これを民事的効力をもって規律し、使用者の専横を許さず、労働者保護を図るものでなければならないと考える(「労働法制の改悪を阻止し、労働者の権利確保に資する法制度を実現するための決議」07年11月10日・日本労働弁護団第51回全国総会)。

(2)労働者派遣法
当弁護団は、労働者派遣法の制定、派遣対象業務の拡大・ネガティブリスト化、製造業派遣の解禁については、不安定雇用と劣悪な労働条件の労働者を増大させるものであるとして一貫してこれに反対してきた。
労働者派遣法については、現在、08年11月4日に政府案が国会に上程され、野党も対案を公表するなど改正に向けた動きが活発化しているところであるが、当弁護団は、政府案については違法状態と派遣労働者の劣悪な労働条件が蔓延している現状を改善するにはほど遠いものとして反対している。
当弁護団は、雇用は、本来、直接・無期限でなければならないとの原則から、間接雇用・有期雇用は、それを客観的に必要とし、かつ合理的な理由のある特段の事情がある場合に限定されるべきこと、登録型の違法派遣を禁止すべきこと、違法な派遣に対する直接雇用のみなし規定の創設すべきこと、グループ企業派遣についてはグループ内派遣割合を5割以下とすること、均等処遇原則・マージン規制・派遣先の賃金未払等についての連帯責任を法定すること等を求めている(「実効性ある派遣労働者保護を実現できる労働者派遣法改正を求める決議」08年11月15日・日本労働弁護団第52回全国総会)。

(3)有期労働契約法制
現在、厚生労働省において、有期労働契約研究会が設けられ、有期労働契約法制について検討されているところである。有期労働契約の在り方は今後の労働法制の中心的課題の一つである。
当弁護団は、「労働契約法制立法提言」において、有期労働契約について、次のとおりの提言を行った。
ア 労働契約は、使用者と労働者が書面により期間の定めを合意しない限り、期間の定めなく成立したものとみなす
イ 使用者は、事業の性質または臨時の必要性など正当な理由がなければ、期間の定めのある労働契約を締結することはできない
ウ 前項に反する労働契約は、期間の定めのない労働契約とみなす
また、改正パート労働法は、パート労働者の差別是正・権利保障の観点からみて重大な欠陥が存し、法的救済が必要とされているパート労働者の要請にこたえるものとなっていないことから、これを批判し、パート法の抜本的見直し及び雇用形態を理由とする全ての不合理な差別の禁止・有期契約の規制を内容とする立法整備を求める意見を公表した(「パート・有期労働者の権利保障のための立法を求めて~パート改正案に対する意見」~07年2月21日)。

(4)過労死防止基本法
わが国の労働現場では、過酷な長時間労働が蔓延し、過労死・過労自殺が後を絶たない。平成20年度における過労死の労災補償状況によれば、脳・心臓疾患による過労死の労災請求件数、認定件数は、それぞれ、889件、377件、精神障害等の労災補償状況も請求件数927件、認定件数269件と高水準である。
当弁護団は「過労死防止基本法」の制定と長時間労働の規制強化を求める決議(08年11月15日 第52回全国総会)を採択し、過労死・過労自殺防止のために、国・地方公共団体・使用者・使用者団体がそれぞれの立場で長時間労働等による健康被害の防止に取り組む責務を明らかにする過労死防止基本法の制定の必要性を指摘した。

2 各党におかれては、上記の立法課題についての方針・政策を具体的に明らかにし、マニュフェストに記載するなどしてこれらを明示し、有権者の判断の材料とされるよう要望する次第である(なお、本要望書に引用した提言・決議は、当弁護団のHPにすべて掲載しているので、適宜参照いただければ幸いである(http://homepage1.nifty.com/rouben/)。

以上