「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告 」に対する意見

2008/8/4

 

「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会報告」に対する意見

2008年8月4日

日本労働弁護団
幹事長 小 島 周 一

1 はじめに

 本年7月28日、「今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」は、派遣法、派遣制度の改定に関する報告書をとりまとめた(以下「報告書」という)。
 しかしながら、この報告は、我が国の労働者派遣制度及びこれまでの派遣法改正が有する根本的な問題点に関する認識が希薄であり、かつ、現状追認の姿勢を強く残すものとなっている。その結果、報告書が提起する改正内容は、派遣労働者の保護という本来あるべき目的に照らして極めて不十分・不徹底なものとなっていると言わざるを得ない。
 日本労働弁護団は、以下のとおり、報告書の有する基本的問題点を指摘するとともに、派遣制度、派遣法改正についての意見を申し述べる。

2 「労働者派遣制度についての基本的な考え方」について

 報告書は、1985年に労働者派遣法が制定された当時の同法の基本的な位置付けとして、労働者派遣制度を労働力需給調整システムの1つとして制度化するという要請と、我が国の雇用慣行との調和に留意し、常用代替を促すこととならないよう配慮する必要があるという要請を踏まえて、その対象業務を限定して制度化されたと指摘する(1(1)項)。
 しかし、対象業務を限定したのは、単に常用代替を防止することのみならず、派遣労働者の労働条件を守るためでもあったのである。即ち、労働者派遣は、その実質において労働力のレンタル制度であり、派遣先は派遣労働者に対し、雇用契約において使用者に認められる指揮命令権を派遣元から取得する実質的使用者であるにもかかわらず、雇用主としての責任を負わない。派遣先にしてみれば、派遣契約が商契約である以上、できる限り廉価に指揮命令権を取得しようとするのは当然のことであり、また、派遣契約の解約という形を取れば解雇リスクを負わずに労働者を切り捨てることができる。他方、派遣契約の締結によって利益を上げる派遣元は、派遣労働者の生活・権利よりも派遣先の要求を優先しがちである。そのため、労働者派遣制度には、派遣労働者の雇用の不安定と労働条件低下の危険が常につきまとっているのである。
 「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(労働者派遣法)が、1985年の制定当時、専門性の確立された、あるいは特別な雇用管理の必要に基づく業務のみにしか労働者派遣を認めないという枠組みであったのは、労働者派遣という構造の持つ上記問題点からすれば最低限必要なことであった。
 しかも、労働者派遣法は、それが建設業法や石油業法等と同種のいわゆる「業法」として成立したことに象徴的に示されるように、行政的規制による「入り口規制」で事足りるとして、本来同時に定められるべきであった、常用代替禁止の原則、派遣先の実質的使用者としての責任、派遣労働者の権利保護等のあるべき規制についてはほとんど置き去りにした。
 加えて、1999年改定によって対象業務が原則自由化されたことによって、スキルを必要としない業務を対象業務にするという質的転換がなされた。それによって、派遣労働は、「どんな業務でもよい」労働、「誰でもよい」労働になり、もともと派遣労働者保護規定が無きに等しかったことと相まって、派遣労働は、安売り商品・使い捨て商品化するに至った。
 その結果が、労働力の究極的コンビニ化たるスポット派遣・日雇い派遣であり、派遣労働者の雇用・労働条件の劣悪化と派遣労働者に対する無権利状態の広がりであり、常用労働者と派遣労働者の入れ替え(常用代替)の加速であった。
 しかるに報告書は、この1999年改定について「平成11年改正において、」「常用雇用の代替とならないことを、派遣受入機関の制限という形で担保したことにより、臨時的・一時的な労働力の需給調整に関する対策として明確に位置付けられた」(1(1)項)と、むしろ肯定的とも取れる評価をしている。
 しかし、派遣労働者の保護規定を事実上置き去りにして「スキルを必要とする業務」から「誰でも行える業務」への転換を行った1999年改定こそが、派遣労働者の労働条件低下、権利侵害を劇的に拡大させた元凶なのであり、報告書には、この点の認識が欠如していると言わざるを得ない。
 報告書の、現行派遣制度の持つ問題点に関する認識の甘さは、「制度検討に当たっての基本的な視点」にも現れていると言わざるを得ない。
 報告書は、「労働者派遣制度について上記(2)でみたように一定のニーズがあることを踏まえると、事業規制の強化は必要なもののみに止め、派遣労働者の保護と雇用の安定を充実させる方向で検討することが望ましい。」(1(3)項)とする。
 しかしながら、これまでの事業規制の緩和に伴う労働者保護の強化があまりに不十分であったことが現在の問題の原因であるのに、今後の制度検討についても、まずもって「事業規制の強化は必要なもののみに止め」と、事業規制を限定的にしか行わないこととしているのは、状況認識が甘すぎると言わざるを得ない。事業規制のありようと派遣労働者の保護は不可分一体であり、事業規制の緩和がそのまま派遣労働者保護の後退に結びついてきたのがこの間の派遣労働の実態である。
 また、労働者の保護と雇用の安定、中間搾取の弊害防止などが実効性あるものとして機能してこなかったという現実があるにもかかわらず、単に「派遣労働者の類型、希望等様々なニーズに配慮(する)」とか「派遣労働者の保護と雇用の安定を充実させる」(1(3)項)などの「趣旨」を羅列するのみでは到底実効性ある規制はなしえない。
 現行制度は、派遣労働者保護に関する制度の大半が行政指導を通じて行われるというものであり、なおかつその実効性も乏しいものであった。それに加えて、派遣労働者の私法上の権利に関する規定もほとんど存在しなかったことと相まって、派遣労働者の実効性ある保護が図られずに現在に至っているのである。
 報告書が、「長期雇用を基本とした雇用慣行との調和に配慮しつつ、常用雇用代替防止を前提とし、臨時的・一時的な労働力の需給調整のシステムとしての制度の位置付けは維持する」(1(3)項)と考え制度検討を行うのであるなら、単なる行政指導にとどまる制度改革ではなく、派遣労働者の私法上の権利にも踏み込んだ保護規定の創設を避けて通るべきではない。

3 「派遣労働者の雇用形態別にみた労働者派遣事業の在り方」について

登録型派遣の在り方について

 報告書は、登録型に関し、「雇用の安定という観点からは問題があるという指摘がある」「労働力需要の予測についてのリスクを派遣労働者が負う事となっていることは問題」「能力開発の機会が得にくいことや、就業経験が評価されないといった問題も指摘されて(いる)」としつつも、その結論において、「これを禁止することは適当ではな(い)」とする(2(2)項)。
 これは「はじめに」で指摘した現状追認の最たるものであると言わざるを得ない。
 そもそも登録型は、派遣元が派遣契約を締結した期間中にのみ派遣労働者との雇用関係を結び、派遣の終了と同時に派遣労働も終了するという、雇用責任という点においては極めて問題の多い形態であり、派遣法制定時も、本来は認められるべきでないということが当然の前提とされた上で、専門業務に限るということで成立したという経緯を持つ。
 現在問題となっている派遣労働者を巡る労働条件低下、権利侵害も、その多くが登録型の派遣契約において生じているのであって、結果として登録型派遣で働いている労働者が多いということは、いかなる意味においてもこれを容認する理由にはならない。登録型派遣で働いている労働者が多いから禁止すべきではないという論理は、あたかも、利息制限法を上回る高金利で借りている消費者が多いから金利の規制をすべきではないという論理と同じ類のものである。弊害が現に生じ、その原因がはっきりしている時はそれを規制するのは当然のことなのである。
 しかも、報告書が述べている登録型派遣労働者の保護策、即ち「派遣労働者の待遇改善のための措置」や「派遣先への常用就職の促進」(2(2)項)などということが絵に描いた餅であることは既にこの間の経過が証明していると言って良い。さらに、「国の支援策」についても、登録型の派遣労働を容認しているままでは、実効性あるものとすることは不可能である。なぜなら、スキルのいらない使い捨て労働者が大量に存在する限り、どんなに国が「支援策」を講じようとも、企業はそれらの安価な使い捨て労働者を利用することは必定だからである。
 登録型については、派遣法制定当時の専門業務に限り、それ以外については禁止すべきである。ましてや1999年改定時の26業務を超える業務について登録型が認められるなどということがあってはならない。

日雇派遣の在り方について

 報告書は、日雇い派遣については、「派遣元事業主の教育訓練が不十分である場合に労働災害が発生するおそれがあるような危険度が高く、安全性が担保できない業務、雇用管理責任が担い得ない業務」について日雇派遣を禁止すべきであるとする(2(1)項)。
 しかし、そもそも登録型派遣は専門業務に限り、原則禁止とすべきであることは前述した。
 雇用は、長期・直接が原則であるにもかかわらず、いわゆる日雇い派遣あるいは超短期派遣は、その2つの原則のいずれも甚だしく逸脱している。このような、雇用の原則を踏みにじる短期・間接雇用は、本来認められるべきではないのである。同時通訳のような、高度なスキルを要し、かつ業務の性質上短期であることが多い職種をもって日雇い派遣の必要性を説く向きもあるが、このような例外的な業務については例外的な対応をもって対処すればよいのであって、このような例外的業務を、日雇い派遣の是非という、雇用の原則に関わる問題を検討する際のケースとして論じてはならない。
 なお、研究会報告には、「学生など、短期で臨時的に働きたいというニーズもある」と記載されているが、そもそも、労働者派遣法が制定される以前には、大学の学生課や学徒援護会その他の組織が短期的臨時的なアルバイト斡旋を行ないこれが有効に機能していた。である以上、「学生など、短期で臨時に働きたいというニーズ」に応えるためには、登録型派遣を温存するのではなく、職業紹介制度の充実によることが可能であり、また、そのようにすべきである。

4 「個別の制度の在り方」について

 報告書の現状認識の甘さと、派遣労働者の労働条件改善の姿勢の不徹底は、派遣労働を巡る個別の制度に関する提言にも現れていると言わざるを得ない。そこでまずはじめに、その点が最もはっきり現れている派遣先の直接雇用に関して意見を述べることとし、順次、他の提言にも言及することとする。

違法派遣の是正のための派遣先での直接雇用について

 報告書は、適用除外業務への派遣、期間制限違反、無許可・無届派遣、いわゆる偽装請負がなされた場合の是正方法として、派遣先に対し私法上の雇用契約申込義務を課すとともにこれを行政が勧告する、又は派遣先に対して行政が雇用契約申込みを勧告する、という方法を中心に検討すべきであるとの提言をしている(3(6)①項)。
 しかしながら、現在横行している違法派遣の実態からすれば、これも極めて不十分な提言であると言わざるを得ない。
 雇用は、直接かつ期限の定めのない雇用が本来の在り方であり、間接、短期の雇用は、労働者に与える不利益・危険が大きいが故に、それを有効たらしめる条件を整えたもののみが利用する資格を有する。
 そうである以上、違法な派遣を受け入れたり、本来の期間を超えてそのまま派遣労働者を働かせたり、あるいは偽装請負を受け入れたりした使用者は、間接・短期の労働者を受け入れる資格がない(あるいは資格を失った)のであるから、本来の立場である直接・期限の定めのない労働契約の当事者に立ち返らなければならない。
 そのためには、雇用の申込み義務のみを課すという中途半端な制度ではなく、端的に、みなし雇用制度を法定すべきである。みなし雇用制度については、労働条件をどのように定めるのか不明確であるなどの批判があるが、それまでの派遣労働者の勤務実態が現に存在するのであるから、少なくとも従前の労働条件を下回らないものとすれば不明確となることはない。また、賃金については、直接雇用の対象となるのであるから、それまでの賃金を下回らないことは当然のこととして、派遣先の既存の労働者の賃金との「均衡を考慮(労働契約法第3条第2項)」して決定されるべきである。さらに雇用関係の成立をみなすことについては派遣先での直接雇用を望まない労働者を引き合いに反対する意見もあるが、そのような労働者については直接雇用の拒否権(=民法627条の適用を除外し予告期間なしに即時解約できる)を与えればよいだけのことであって、みなし規定を創設できない理由にはならない。
 以上から、違法派遣(偽装請負を含む)、期間経過後派遣を受け入れた派遣先に対しては、みなし雇用制度を創設すべきである。

均等・均衡処遇について

 報告書は、均等・均衡処遇を実現する場合の「障害」をあれこれ挙げた上で、「現状において課題が多い均等・均衡待遇を導入するのではなく」として、均等・均衡処遇の実現を放棄している(3(1)①項))。
 しかしながら、報告書が指摘するように、我が国においては、企業を超えた産業別賃金は確立しておらず、均等・均衡処遇は、企業が異なる者の間では考えられてこなかったとしても、他方で、各企業は、崩れつつあるとはいえ終身雇用・年功序列賃金という雇用形態をとって、その企業が雇用した労働者の生活をそれなりに支えてきたのである。
 他方、派遣労働という労働の在り方は、本来的に特定の企業との結びつきはなく、企業毎の賃金制度によって派遣労働者の賃金が守られることがもともと期待できない。
 そうであるなら、派遣労働という労働の在り方を新たに法によって創設した以上、派遣労働者の賃金を含む労働条件が守られる仕組みを確保すること、均等・均衡処遇の実現に向けた制度を検討することは、派遣制度の在り方を検討する研究会の責務であるといわなければならない。それは、本年3月1日から施行された労働契約法が第3条2項において「労働契約は、労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする」と定めていることからも明らかである。
 派遣労働者と派遣先労働者の処遇の均衡という重要なテーマについてすら何らの提言もしないというのでは、派遣労働者の労働条件改善について真剣に検討したとは思えない。

いわゆる「マージン」について

 報告書は、いわゆるマージン規制について、「他の事業についてはこうした規制はなく、労働者派遣事業についてのみこうした規制をすることは適当ではない」(3(1)①項)とし、単に現在指針で定めている情報公開を法的義務とすべきことのみを提言する。
 そもそも、派遣労働を含む労働者供給事業は、供給元が中間搾取をする恐れが強いことも理由の1つとして、職業安定法によって禁止されていたのであり、それを派遣法が要求する要件を満たしたものについていわば限定的に解禁したのである。従って、労働者派遣事業には、中間搾取の危険がそもそも内包されているのであり、これを排除するために一定のマージン率規制をすることに何の問題もあろうはずがない。
 現在の有料職業紹介においてもマージン率は規制されているのであって、その例を見るまでもなく、また、データ装備費問題をはじめ、派遣労働者からのあまりに高率の「ピンハネ」が横行している実態からしても、派遣労働についてマージン規制を設けるべきである。

派遣元・派遣先の責任分担の在り方について

 この点についての報告書の結論も、派遣先の重過失によって労働災害が生じた場合に被災労働者の保険給付にかかる費用を派遣先から徴収ができるようにすることの検討を提起するのみ(3(2)項)であって、極めて不十分である。
 派遣労働者の労働条件悪化、派遣労働者に対する権利侵害を招いた一因が、派遣先の責任が極めて不十分であったことにあるのは明らかである。従って、派遣労働者保護の強化をいうのであれば、派遣先の責任を抜本的に強化することが不可欠である。
 例えば労働災害について、報告書は派遣先に故意又は重大な過失があるときに限って労災保険給付の費用を徴収するよう提言しているが、派遣労働者の保護のためには、むしろ上乗せ補償に関して派遣労働者にも派遣先労働者と同等の義務を負わせ、あるいは安全配慮義務違反があったときは、それが派遣元・派遣先のどちらにあったか否かにかかわらず、両者の連帯責任を法定すべきである。さらに派遣期間中の合理的理由なき派遣契約解約における派遣労働者への残存期間の賃金支払義務、派遣元の賃金未払について派遣先も派遣元と連帯して派遣労働者に対する支払義務を負うこととするなど、派遣先の責任強化が具体的に図られなければならない。

期間制限のない業務に係る雇用契約申込義務について

 報告書は、法第40条の5の雇用契約申込み義務については、常用型派遣を対象としないこととすべきであるとする(3(4)項)。
 しかしながら、そもそも派遣は、常用代替を促すこととならないという前提のもとで制度化されていることは報告書も認めるとおりである。報告書は、常用型の場合、派遣元事業主と派遣労働者との間で雇用の安定が確保されているということを理由にしているが、それは常用代替防止の確保とは別問題である。
 常用派遣労働者が、派遣元に常用されているということと、特定の派遣先に長期間派遣されているということは別なのであって、派遣先にすれば、不要になったときに何時でも切れるという点で、同じ労働をさせるなら常用労働者よりも派遣労働者を選ぼうとする誘惑は、常用派遣労働者であっても変わることはない。
 従って、常用型の派遣労働者でについても、これを法第40条の5から外すことには反対である。

特定を目的とする行為(いわゆる「事前面接」等)について

 報告書は、常用型について、いわゆる事前面接が従来禁止されていたのを改め、常用型の定義を「(労働契約の)期間の定めのないもの」に限定した上で、いわゆる事前面接を可能とすべきであるとした(3(5)①項)。
 しかしながら、もともと派遣労働が「その労働者」ではなく、「そのスキル」を提供するものであるとして認められた以上、常用型であるからといって事前面接等の特定行為を認める理由にはならない。
 また、報告書は常用型の場合には「仮に特定を目的とする行為が行われたとしても、これにより雇用関係の存否に影響することはないことから、…………、差し支えない」というが、常用型であっても、派遣労働者のスキルは、実際にそれを発揮できる仕事に就いて磨かれるのであり、派遣元から給与さえもらっていれば問題はないと言わんばかりの議論は机上の空論であると言わざるを得ない。さらに、特定行為の弊害としては、雇用関係上の不利益のみならず、報告書でも指摘せざるを得ない「不当な差別が横行しているとの意見もある」ことや「不要な個人情報の収集」などもあるのである(3(5)①項)。そしてそれらが現に横行していることもまた現実なのである。
 そうである以上、常用型であっても特定行為は引き続き禁止されるべきであり、かつ、現在は法律の条文とされていない特定行為の禁止を条文上も明確にすべきである。

グループ企業派遣について

 報告書は、グループ企業派遣を「一定割合(例えば8割)以下」に規制するとの提言をしている(3(5)③項)。これはグループ派遣の現状を事実上追認するものである。
 そもそも、常用代替防止は、労働者派遣を我が国において認めるときの最重要課題の1つであった。そして、いわゆるグループ派遣は、まさに常用代替の機能を果たしているのである。
 そして、現状は、8割以上ということで線を引くと、いわゆるグループ派遣をしている派遣元のうち、5割程度しか規制の網にかからないのである。換言すれば、常用代替の温床とも言えるグループ派遣の5割を免罪するお墨付きを与えることになるのであって、到底認められるものではない。
 グループ企業派遣については、少なくとも5割以下に規制すべきである。

その他

 報告書は触れていないが、派遣労働者が、その労働条件を改善するためには、個人として交渉するだけではなく、労働組合に加入し、団体交渉(場合によっては争議権の行使)をもってその労働条件を向上させる機会が与えられなければならない。
 そして派遣労働者が現実に働く場所は派遣先なのであるから、派遣労働者の労働条件を向上させるためには、派遣元のみならず、派遣先との間でもその労働条件について労働組合を通じて交渉を行うことができなければならない。
 そのためにも、派遣労働者が就労する派遣先も、その派遣労働者が所属する労働組合と団体交渉に応ずべき義務があることを派遣法の中に明記すべきである。

5 おわりに

 日本社会が直面している貧富の格差とその固定化が、雇用格差・労働条件格差から生み出されていること、とりわけ非正規雇用の拡大、常用代替の進行がその大きな要因となっていることはOECD対日経済審査報告書も指摘しているところであり、労働者派遣法の際限なき緩和が、重要な要因を占めることもまた明かである。
 現在の派遣制度の改正論議は、この問題意識のもとにスタートしたはずである。
 しかしながら、以上指摘したとおり、研究会報告書は、派遣労働の深刻な現状について問題意識が不十分であり、それ故に、派遣法改正の方向性、内容についても現状追認的な域を出ていないと言わざるを得ない。
 日本労働弁護団は、労働者派遣法制定時、改定時と、その都度労働者派遣制度が内包する問題点を指摘し、規制強化こそが必要であるとの立場から、規制緩和を図る改定に反対してきた。現行労働者派遣法の欠陥が明らかになり、日雇い派遣等の問題が社会問題とまでなった今日、派遣労働者の雇用・労働条件・権利を守るためには、これら欠陥だらけの労働者派遣法を、これまでに述べてきた内容に沿って抜本的に改正する緊急の必要があることを改めて強調するものである。