労働者派遣法改正を求めるアピール
2008/3/26
労働者派遣法改正を求めるアピール
2008年3月26日
日本労働弁護団
幹事長 小 島 周 一
労働者派遣は、その実質において労働力のレンタル制度であり、派遣先は派遣労働者に対し、雇用契約において使用者に認められる指揮命令権を派遣元から取得する実質的使用者であるにもかかわらず、雇用主としての責任は負わない。派遣先にしてみれば、派遣契約が商契約である以上、できる限り廉価に指揮命令権を取得しようとするのは当然のことであり、また、派遣契約の解約という形を取れば解雇リスクを負わずに労働者を切り捨てることができるため、同じ仕事をさせるなら自社の常用労働者を派遣労働者に替えていこうという誘惑を受け続けることとなる。派遣契約の締結によって利益を上げる派遣元は、派遣労働者の生活・権利よりも派遣先の要求を優先しがちである。そしてそれらは、派遣労働者の雇用の不安定と労働条件低下を招き、派遣労働者による常用労働代替をいっそう促進させることになる。
1985年に制定された「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律」(労働者派遣法)が、専門性の確立された、あるいは特別な雇用管理の必要に基づく業務のみにしか労働者派遣を認めないという枠組みであったのは、労働者派遣という構造の持つ上記問題点からすれば最低限必要なことであった。しかしながら、労働者派遣法は、それがいわゆる「業法」として成立したことに象徴的に示されるように、この「入り口規制」で事足りるとして、本来同時に定められるべきであった、常用代替禁止の原則、派遣先の実質的使用者としての責任、派遣労働者の権利保護等のあるべき規制については置き去りにされた(但し、特定派遣[常用型]は期間の定めのない契約である場合に限って認められた)。
その後、労働者派遣法は、常用代替防止措置や、派遣先の責任規定、派遣労働者保護規定の不存在乃至不十分という根本的な問題を何ら解消しないまま、1999年改定によって対象業務が原則自由化され、さらに2003年には製造業への派遣が解禁されるなど一層規制が緩和されてきた。
その結果が、労働力の究極的コンビニ化たるスポット派遣・日雇い派遣であり、派遣労働者の雇用・労働条件の劣悪化と派遣労働者に対する無権利状態の広がりであり、常用労働者と派遣労働者の入れ替え(常用代替)の加速であった。
日本社会が直面している貧富の格差が、雇用格差・労働条件格差から生み出されていること、とりわけ非正規雇用の拡大、常用代替の進行がその大きな要因となっていることはOECD対日経済審査報告書も指摘しているところであり、労働者派遣法の際限なき緩和が、重要な要因を占めることもまた明かである。
日本労働弁護団は、労働者派遣法制定時、改定時と、その都度労働者派遣制度が内包する問題点を指摘し、規制強化こそが必要であるとの立場から、規制緩和を図る改定に反対してきた。現行労働者派遣法の欠陥が明らかになり、日雇い派遣等の問題が社会問題とまでなった今日、派遣労働者(ことに登録型の派遣労働者)の生活と権利を守るためには、これら欠陥だらけの労働者派遣法を、下記の観点にもとづいて抜本的に改正する必要がある。
第1に、雇用は本来直接・無期限であることが原則であり、間接雇用、有期雇用は、それを客観的に必要かつ合理的とする特段の事情がある場合に限り許されるものであるという原則を確認しなければならない。
第2に、上記雇用の原則に照らして、労働者派遣の許される範囲・期間を改めて見直し、常用代替が防止でき、派遣労働者の権利が保障できる業務に限定した場合に限って派遣を認めるポジティブリストに戻すと共に、雇用が極めて不安定となる登録型派遣は原則として禁止すべきである。
第3に、派遣労働者の労働条件低下、派遣労働者に対する権利侵害を招く一因として、派遣先の責任が極めて不十分であったことに鑑み、違法派遣を受け入れた派遣先に対する雇用みなし規定の創設、派遣期間中の合理的理由なき派遣契約解約における派遣労働者への残存期間の賃金支払義務、労働災害の補償責任強化、派遣労働者の労働条件に関わる問題についての団体交渉応諾義務などを含む、派遣先の責任強化が図られるべきである。
第4に、派遣労働者の労働条件を確保するため、これまで何ら規制の無かった派遣元のマージン率について規制をすべきである。
第5に、派遣先労働者との均等処遇原則を明記し、派遣労働者に対する不合理な差別禁止を強化すべきである。
日本労働弁護団は、労働者派遣法を以上の観点で直ちに改正することを求めるとともに、派遣労働者を含む非正規労働者の権利拡大・擁護のために、今後も取り組みを強化する。