労働審判制度運用に関する要望書

2007/11/21

 

労働審判制度運用に関する要望書

最高裁判所事務総局行政局 御中

2007年11月21日

日本労働弁護団
幹事長 小 島 周 一

労働審判制度が昨年4月1日から開始され1年半を経た。この間、日本労働弁護団及び所属弁護士も、この制度の普及および定着のために努力してきたところである。これまでのところ、この制度の利用者である労働者からは、概ね好評を得てはいるが、今後この制度のより適正かつ充実した運用を図るため、下記の点につき、早急に検討されたく要望する次第である。

1 審理・審判の「適正」確保のために

労働審判委員会は、裁判官たる審判官と労使の審判員の合計3名で構成され、それぞれが対等な評決権を持つ合議体である。労働審判手続に関する指揮権は審判官にあるとはいえ、審理の基本は3名の合議によって決せられるべきものである。しかるに、審判官が審判員の意見を十分聞くことなく手続を進めていると思われる例が散見され、また、審判員が書証を十分に検討する時間的な余裕がないなど審判員を対等な合議体の構成員として遇していないと評さざるをえない事態がある。
そこで、労働審判制が労使の審判員の知識・経験を生かし活用する制度として創設された本来の趣旨に則り、以下の点につき、速やかな改善を要望する。

  1. 労働審判規則9条4項改正または運用改善(事前に書証を審判員に送付したり、少なくとも審判員用記録ファイルを用意する等)により、書証を第1回期日前に、審判員が十分検討しうる体制をつくること
  2. 審判官は、手続の進行、調停、審判において審判員の意見を十二分に聞くよう、格段の配慮をすること
  3. 各裁判所は、審判員集団との懇談の機会を定期的に設け、運用改善に向けた審判員集団の要望や意見を聴取すること

2 労働審判手続の利用しやすさの向上のために

労働審判制度の開始により、裁判所に申立てられる個別労働関係民事紛争事件自体が全体として増加したことから明らかなように、この制度に対するニーズは大きいが、当弁護団の相談活動等を通じて、利用者の観点から利用しにくいと感じる点も多々存する。
そこで、利用しやすさの向上のため、以下の点につき速やかな改善を要望する。

  1. 労働審判法附則3条及び民事訴訟費用等に関する法律別表第1の14の改正により申立手数料を減額(例えば仮処分と同額とする等)すること及び民事訴訟上の救助の付与対象とすることについて、関係機関に働きかけること
  2. 労働組合の役員、労働相談担当者等につき、許可代理を広く認めること
  3. 解雇事件、未払賃金請求事件等の典型的な事件につき、チェック方式で完成できる等工夫を凝らした定型申立書を裁判所に備え置くこと。また、家庭裁判所の相談窓口の例を参考に、本人申立につき、事件受付窓口において、書記官が援助をすること
  4. 当事者が外国人である事件について、通訳人を適切に配置するなどの方策を講じ、審判を受ける権利を十全に保障すること
  5. 少なくとも裁判員制度導入予定の地方裁判所の各支部においても労働審判手続を利用可能とすること

3 調停・審判の適正と納得性を高めるために

労働審判手続は、単に調停の成立による解決のみを目指す制度ではなく、「当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判」(法1条)を行う手続であるところ、権利関係を踏まえない調停偏重の例が散見され、また、訴訟に移行し労働審判手続内では終局的な解決に至らない例も散見される。
そこで、以下の点につき、速やかな改善を要望する。

  1. 審判官は、調停偏重と受け取られる言動を慎み、この制度が「当事者間の権利関係を踏まえつつ事案の実情に即した解決をするために必要な審判」(法1条)を行う手続であることを深く自覚し、手続を主宰すること
  2. 労働審判委員会の調停案を提示する前に、当事者の意向を確認すること
  3. 法20条3項は、審判書の作成・送達を原則としているにもかかわらず、これまでは全ての事案で口頭告知の方法が取られているところであるが、紛争の解決にとって審判書の作成が効果的であるなど、必要な事案については、審判書の交付を行うこと
  4. 調停案の提示、審判告知にあたり、認定事実及び法律関係を丁寧に説明するとともに、必要な事案については、定型文言だけでなく、この認定事実及び法律関係を、審判書または口頭告知の場合の期日調書中に、「理由の要旨」として記載すること

4 審判制度の広報について

この間、御庁をはじめとする関係各機関が、労働審判制度の広報に努めてきたところであるが、当弁護団の相談活動を通じて、いまだ同制度の存在が十分に周知されていないことが痛感される。
そこで、労働相談を実施している各機関と連携を図り、同制度の広報を更に充実させることを要望する。

以上