労働法制に関する見解

2007/2/21

 

労働法制に関する見解

07年2月21日

日本労働弁護団
幹事長 鴨 田 哲 郎

はじめに

「労働国会」「格差国会」と言われる07通常国会には、労基法改正(労働時間法)、労働契約法、パート法など多数の労働関係法案が上程される。昨年末来、日本版エグゼンプションの導入を巡って論議がなされたが、同制度の先送りによって問題が解決するものではない。経済財政諮問会議は「労働ビックバン」(派遣法改正以外、その内容は明らかにされていない)を掲げて更なる規制改革を求め、日本経団連(御手洗ビジョン)は当面の重点方策に有期雇用の拡大と時間法制の改革を求めている。
今日、労働者国民の働かされ方において早急に対策を講じられるべきは、働かされすぎ(正規、非正規を問わない、長時間労働)の問題とまじめに働いても生活できない(ワーキングプア等)問題である。いかなる雇用形態であれ、1日8時間(法定労働時間。年間2000時間)働けば、健康で文化的な生活が保障され、すべての労働者がモノや機械ではなく人間として扱われ尊重される雇用社会が公正な社会であり、これを実現する為に法整備することが立法機関の役割と考える。
今日、労働者は約5400万人であり、その家族を含めれば日本の人口の約8割に及ぶのであって、働かされ方の問題は全国民それぞれの日々の生活を規定する問題である。目先の選挙対策でなく、真摯に、また、省庁間・庁内の縦割行政を超えて総合的・有機的に、「労働国会」にふさわしい建設的な論議が尽くされることを強く要望するものである。
以下、労働時間法、パート法・有期契約、労働契約法を中心に見解を述べるが、これらの前提として極めて重大な問題でありながらこの間審議会等において十分な論議がなされていない過半数代表者制度について、冒頭に触れる。

1 過半数代表者制度の整備は、労働法制に不可欠

(1)過半数代表者の労働法における位置と選出の実情

本項目は、既に現行法において制度として存在している「過半数代表者」(第2順位の過半数代表)を法が想定するように機能させるために必要と思われる事項を指摘するものであり、新たな制度や制度の改訂を求めるものではない。過半数代表者制度の整備は労働法制論議の前提となると思料するので冒頭に述べる。
労働契約関係の展開において労使が「円滑に、自主的に決定」(労働契約法案・目的)できることは望ましいことであり、既に現行法制において労働者側の同意を得る制度(各種労使協定による決定。典型は36協定。なお、個人情報保護法の企業内での運用(モニタリング、非開示情報など)に関し、経産省及び厚労省はその策定したガイドラインにおいて労働組合等との協議をなすよう求めている)、労働者側の意見を聴く制度(就業規則の制改訂)や労働者側も参加する制度(労働安全衛生委員会、労働時間設定改善委員会など)、労働者側の理解、納得を推進すべく労働者側に説明・通知する制度(各種倒産法制など)が取入れられ(最近のものとしては、高齢者雇用安定法による継続雇用制度の基準に関する労使協定がある)、その対象数は約70に及んでいる(00年時点の詳細につき、小蔦典明「従業員代表制」(21世紀の労働法第8巻所収))。
これらにおいて労働者側の代表となる者が「過半数代表」であり、事業場に過半数組合が存在する場合にはその組合が第1順位として過半数代表となる。しかし、事業場に「過半数組合」が存在する事業場はわずか6.7%にすぎない。過半数組合不存在の事業場では、「過半数代表者」をその都度選出することとされている(過半数代表者制度の存在を知る労働者がどれ程いるか極めて覚かない)。過半数代表者は全く1人の個人であり、彼/彼女をサポートする制度は現行法には全く存在しない。過半数代表者の選出については「投票、挙手等の方法」(労基則6条の2第1項第2号)との定めがあるのみで、その選出実態が、使用者の意を受けた従業員が事実上使用者に指名されて選出されていることは厚生労働省の外部機関である労働政策研究所・研修機構(JILPT)の調査によっても明白である。即ち、就業規則変更の意見聴取の場合の過半数代表者の選出方法は、選挙(投票)16.9%、信任16.0%、話合い14.8%、職場代表者等の話合い13.5%、社員会等の代表者17.1%、事業主の指名13.1%である。選挙といっても無記名投票は53.0%にすぎず(挙手42.3%、記名投票4.4%)、選挙権者に部長まで含むが11.8%あり、信任の場合の候補者選定は、従業員会等の代表者36.3%、事業主の指名26.5%であり、信任方法も挙手27.5%、特段の異議申出ない限り信任21.6%、回覧板19.1%、拍手17.0%である。これらの結果、過半数代表者となった者は、係長・主任39.1%、一般従業員33.0%、部課長13.7%、工場長・支店長5.9%である。以上からすれば「選挙」における立候補者の選定にも事業主の意向が相当に働いているとみなければならず、これを度外視しても民主的に選出される者はわずか8%程度にすぎない(JILPT「労働条件の設定変更と人事処理に関する実態調査」04年12月)。

(2)現行法が想定する過半数代表者制度の実現を

過半数代表者制度は、利害が異なる労使において力が圧倒的に強い使用者の一方的決定を排除(労使協定事項)・緩和(意見聴取など)して、「対等決定」(労基法2条1項)に資すべきものとして設計された制度である。従って、過半数組合はともかくとしても、過半数代表者は使用者から独立して真に労働者集団の代表者として労働者集団の支持によって選出されなければ制度としての存在意義が失われる。使用者の意向を受けた者では、かかる者が関与してもその実態は使用者の一方的決定(自己契約)にすぎないからである。
しかし、現状が法が求める、あるいは予定した状況からかけ離れていることは誰の目にも明らかである。労働法制の整備を行うにあたっては、まず、この過半数代表者制度が法の期待に沿って運用される条件・環境を整備することが先決である。9割を超える事業場において実質的には過半数代表者が労働条件を設定している(労使協定内容は就業規則化され、個々の労働者の労働条件となる)からである。具体的には、当面以下の方策が採られるべきである。
① 過半数代表制度それ自体や過半数代表者の選出方法についてほとんど知られていない実態に照らし、当面、少なくとも現行労基則6条の2を労基法本体に移行して広く知られるようにすることが必須である(なお、その際、「等」については明確にすることを要す)。一般の経営者、労働者にとって労基法は比較的容易にその内容を知りうるが、労基則まで知るのは極めて困難だからである。これを放置するとすれば、人たるに価する生活を保障するための手続きについて労働者国民に周知する国の責任を放棄していると断ぜざるをえない。
② 次いで、ILO135号(労働者代表の保護・便宜)条約(71年採択)やEU一般労使協議指令(02/14/EU第7条等)などを参考に、過半数代表者をサポートし、彼/彼女らが労働者集団の代表として何の不安もなく十分に活動できる体制を法的に整備し、これが周知されてから今次各種労働法を施行することである。具体的には、①代表者の選出方法(無記名秘密投票による選出、使用者が選出手続を採らない、あるいは協力しないときの措置など)②活動保障――情報・資料請求権、時間内活動の保障、事務上の便宜供与、誠実協議義務の法定など③身分保障(不利益取扱いの禁止)④恒常的活動の保障(現行の事項毎の過半数代表者制度の改革、複数代表者制、専門的サポートを受ける権利の保障等)が真摯かつ早急に検討されねばならない。

2 働かされすぎ抑制に実効ある労働時間法を

日本版エグゼンプションの導入及び企画型裁量労働制の対象者拡大については、本国会には上程されないと伝えられているので割愛する(これらに対する批判については当弁護団の一連の意見(05.9.30付、06.2.22付、06.5.17付、06.6.26付、06.10.18付、06.11.24付、07.1.17付)及び「労働者の権利」掲載の諸論稿を参照されたい)。
上程される労基法改正法案は、長時間労働抑制のための割増率アップが目玉と伝えられる。報道によればその内容は、①基準時間(月45時間)以内の残業に対しては現行通り25%、②月80時間を超える残業に対しては50%、③その間の残業については労使協定で25%を超える率を定める努力義務を課すという。長時間労働が抑制されるべき現状にあることについては争いがないと思われるので、問題はその抑制策に実効性があるか否かである。

(1)月80時間超の残業は禁止を

まずなによりも、月80時間を超える残業(月間労働時間は240時間以上となり、年間では2880時間以上となる。また週労働時間は60時間以上である。)は、厚労省自ら認める過労死ラインである。ILOは働き過ぎ調査を週50時間を基準に実施しており(日本は週50時間以上労働者の割合が28.1%で先進国では断トツの1位であり、欧州で最も労働時間が長いとされる英国ですら15.5%にすぎない。ちなみにオランダではわずか1.4%である)、EC労働時間指令は週実労働時間の上限を48時間と定めている。このように月80時間を超える残業は厳しく禁止されるべきものであり、これを容認すること自体許されないばかりか、これをわずか50%の割増率で認めるなど言語道断である。そもそも基準時間制度は「労働時間の延長を適正なものとするため」に設けられ(労基法36条2項)、労使当事者には基準に適合した36協定を締結すべき義務が課され、これにつき労基署長には必要な助言指導の権限が付与されている(同条3、4項)のであり、基準時間を超える残業は本来命じえないものである。これを単に「臨時的な」特別事情によって命じうるものとする特別協定制度(平15.10.22厚労省355号「基準」3条但書)は直ちに廃止されるべきものである。また、割増賃金制度はそのコスト負担の重さによって残業を命じるインセンティブを奪おうとする制度であって、それに見合う割増率でなければ意味がない。旧労働省調査によれば、追加的雇用と同一のコスト負担となる割増率は82.9%(500人以上の大企業)であるから(92年版労働白書)、残業を真剣に抑制しようとするならば、割増率は100%でなければならない。

(2)割増率アップの努力義務に期待などできない

次いで、45時間超80時間未満の残業については割増率25%超についての努力義務が課されるのみであり、それ自体から実効がないことは明らかである。即ち、政府・厚労省に抑制に取組む意欲があるとは到底考えられない。最低基準であり、「その向上を図るように努め」ること(労基法1条2項)を求められる割増率が60年経っても25%に張りついている事実(平成17年度労働時間等総合実態調査によれば、89.3%の事業場が25%であり、平均は25.7%(301人以上でも27.4%にすぎない)でしかない)を政府・厚労省はどのように評価しているのであろうか。さらに、もっと問題なのは、36協定の締結率がわずか27.2%だという事実である。36協定すら締結されていないのであるから割増率を定める労使協定など結ばれるはずがないことは火を見るよりも明らかな道理である。割増率アップを図るのも前進ではあるが、その前に、労基法36条を全国津々浦々で遵守させる具体策が提起されるべきである。

(3)休日労働の規制を

長時間労働の抑制と共に、十分な対策が講じられるべきは休日労働の抑制である。しかるに、現行法及び現行「基準」では、休日労働については基準時間と同様の具体的規制は何ら存在しない。36協定(休日労働協定)さえ結べば、年間52日の法定休日全てに休日労働させても、行政は助言指導すら出来ないのである。そして、これを改善する方向は今回、全く示されていない。日本版エグゼンプションにおいて、4週4日以上かつ年104日以上の休日の確保が要件として提示されているように、暦日(継続24時間)の労働からの完全解放は労働者の疲労回復や健康維持にとって、極めて重要な要素である。週休2日制が当然の世の中なのであるから、少なくとも週1日の法定休日は全て休めるよう、休日労働を原則禁止すべきであり、少なくとも「基準」において休日労働回数の上限を設定すべきである。

(4)すぐにできる時短促進策を採れ

① 当面、労基法を改正せずとも、政省令等の改正で、以下の時短促進策が直ちに可能である。

イ 限度基準の改正 基準時間の削減、1日の基準時間の設定、休日労働の基準回数の設定、残業・休出事由の限定
ロ 政令の改正 50%までの割増率の引上げ
ハ 労基則の改正 21条の改正により、ボーナスも割増賃金の基礎賃金とする

② 労基則等の格上げ(立法化)
労政審の「答申」は助言指導をことさら取上げるが、36協定締結率27.2%が端的に示すように、労基法自体が周知されていないのであり、労基則、通達となれば、一般人が購入する「小六法」には掲載すらされていない。労働者の人たるに価する生活を保障するための最低基準の具体的内容が多くの労働者・使用者に知らされていないのである。労基則や通達において、最低基準の具体的内容が定められている条項や通達部分(例えば、基礎賃金に含まれる住宅手当の基準など)あるいは36協定において定めるべき事項は、労基法に取込むべきである。

(5)抜本的な時短策を

1 1日、1週の実労働時間の上限の法定
2 所定外・休日労働の規制強化

(イ)所定外・休日労働の事由の規制
(ロ)延長時間の上限の法定
(ハ)割増賃金の増額(基礎賃金の増額と割増率の向上)
(ニ)代償休日制度の法定、拡大

3 勤務間隔時間制度(休息時間制度)の導入
4 深夜労働、交代制労働に対する規制強化と従事労働者に対する保護の加重
5 週休2日制の法定
6 閉店法・日曜営業法の制定
7 連続休暇としての年休付与義務と付与手続の法定
8 育児介護休業制度の充実

(イ)育児介護休業法の強化
(ロ)育介法における短時間勤務の請求権化

9 病休制度の確立
10 生活上の事由による欠務請求権制度の導入
などが求められる。

3 格差是正に有効な方策を

―パート・有期雇用―

(1)改正法に実効なし

上程される法案として契約上民事的効力が生じうると考えられるのは、パート法改正における差別的取扱いの禁止のみ(但、これも直ちに民事的効力があるものではなく、民法90条等を介してようやく民事的効力が生じるにすぎない)であるが、その対象となるのは、いわば短時間正社員とも言うべき極めて微々たるパート労働者にすぎず、パート労働者全体の地位向上、差別解消に実効あるものではない。この他、行政法規にすぎないパート法における均衡確保の努力義務や労働契約法における「必要以上に細分化された契約期間で反復更新することのないよう配慮」すべき義務が提起されるが、これらは民事上の効力を直ちに生じさせるものではない(例えば、「必要以上に細分化された契約期間を反復更新」した後に雇止めをした場合、上記条文を根拠として地位が確認されるものではなく、雇止めの有効性判断における一要素にすぎず、また、配慮義務違反が直ちに損害賠償(その範囲も問題であるが)を基礎付けるのかも法律上ははっきりしない)。

(2)格差を産む構造

パート労働者の大半は有期雇用であり、有期雇用労働者の1つの主要な雇用形態がパートなのであるから、パート問題と有期雇用問題は無理矢理に分離するのではなく、1つの、あるいは一体の問題として、その格差是正策が講じられねばならない(菅野和夫労政審会長も、パート法改正を着実な一歩とした上、「非正規雇用全体についての議論は労働契約法制で引続き検討すべき」(07.1.15日経)としている)。
今日、有期労働者の置かれている状況の大きな問題点は3つである。1つは、有期なるが故に格下の身分と扱われ、賃金等の労働条件が低く、いつ雇止め・解雇されるかの不安をいつも抱え、従って労基法上の権利――例えば、年休、残業割増賃金等――すらなかなか主張しえず、コミュニケーションシステム――過半数代表の選出や各種労使委員会への参加等――から疎外されていることであり、2つは、有期契約が解雇規制の潜脱として利用されていることである。これら有期労働者の中には、雇用を維持する為――今日の派遣社員など――、あるいはまさに生活の為――シングルマザー労働者が典型――、長時間労働やダブルジョブを余儀なくされている者も多い。3つは、雇用不安の下で団結することが事実上圧迫されていることである。有期雇用労働者の組合加入率は著しく低い(厚労省調査のパート組織率(06.6)は4.3%である)。今なお存在する反組合的な企業風土の下で有期雇用労働者はその立場故に団結を阻害されている。

(3)格差是正に必要な法政策・法制度

有期労働者の多くは、時給又は日給制であり、賞与も諸手当も中には交通費すら支給されず、仮に時給1,000円で年間法定時間を働いても年収200万円にしかならないのであって、この低賃金を抜本的に改善することが格差是正への第1歩である。さらに、各種社会保険の加入及び受給資格(セーフティネット)を抜本的に見直し、安心して働ける状況が整備されなければならない。
契約上の権利保障に関しては、身分差別を解消するためにも、均等待遇原則が明確に定められ、広く社会に浸透させねばならない。差別・区別の存在を容認し、バランスだけを求める均衡待遇は、身分差別を容認・固定するものである。そして、解雇規制の潜脱を許さないためにも、有期雇用契約を締結しうる事由の限定(入口規制)と一定の期間経過による有期契約から無期契約への転換(出口規制)が定められねばならない。

4 労働者保護に資する労働契約法を

(1)契約法としての体をなしていない

労働契約法案は、目的の1つに「労働者の保護を図」ることを掲げる。しかしながら、その内容は極めて貧弱と言わざるをえない。
当弁護団がかねてより主張・要求しているように、労働契約法は雇用の入口から出口まで、労働契約関係の展開として想定される諸事象につき、要件と効果を定め、もって使用者の恣意や一方的決定を排することによって、労働者の保護が図られ、「個別労使関係の安定に資する」のである。法案は、かかる期待を大きく裏切るものである。要件と効果を定めるとは、換言すれば、契約法の条項が労働者の具体的請求権を直接基礎づける、契約法の条項によって裁判で労働者が勝てるということである。この意味で具体的請求権を基礎づける新たな規定は存在しない(強いて挙げれば、合意の不存在による労働条件変更の無効及び転籍の無効があるが、これらは当然のことである)。
出向及び懲戒については、権利濫用による無効が規定されたが、これらは労働契約の原則の1つである権利濫用禁止から当然のことであって、本来、ここにおいて規定されるべきは、いかなる場合に「出向を命じることができ」「懲戒をすることができる」のかにつき、実体的及び手続的要件を定めることである。法案のままの規定では、就業規則に出向や懲戒の規定さえあれば、出向を命じ、懲戒することができるとなりかねない。就業規則の効力要件として合理性が求められるとしても、事象毎に合理性の内容や判断基準は異なるのであるから、権利義務関係を明確にして紛争を防止するためにも可能な限り、個々の事象毎に実体的・手続的要件を定めるべきである。

(2)変更就業規則の効力

就業規則変更による労働条件の変更については、法理論的には集団的・一方的決定と個別合意とは両立しないのであり、労働条件の統一的処理という使用者の利便のために判例法理に沿った立法がやむをえないとすれば、労働条件は本来労働者個人と使用者との間の合意によって決定変更されるものとの原則を可能な限り生かし、労働条件の対等決定の実現に資する実効ある制度や手続が真摯に検討されなければならない。法案要綱では、この点で必要不可欠というべき過半数代表(ことに、過半数代表者)制度の整備がなおざりにされている。就業規則関係においては、その制改定に過半数代表の意見聴取が義務付けられ、不利益変更の場合は、事実上、過半数代表との誠実な協議が求められる。このように極めて重要な位置にある過半数代表者の実状は前記の通りである。今次立法において放置されているこの問題は、直ちに検討が行われるべきである。また、法案要綱は、「判例法理に沿って」との労政審答申を受け、原則や合理性の考え方については現在の判例法理に近い条項とはなっている。しかしながら、次の3点については補充・補強がなされねばならない。
1 有効要件たる「合理的なもの」とは、何に対していかなる基準で評価されるのかを明らかにすること(大曲市農協事件)
具体的には、「就業規則の変更に係る事情に照らして」と「合理的なもの」との間に、『当該労働者に不利益を法的に受任させることを許容しうる』を挿入する。
2 「合理性」の判断要件として、代償措置・経過措置の有無及び内容を加えること
3 労働者個々人それぞれとの関係で合理性がなければならないことを明らかにすること(みちのく銀行事件)
具体的には、「労働者の受ける不利益の程度」を「当該労働者の受ける不利益の程度」に改める。

5 見直し条項の必要

労働契約法、労働時間法、パート法のいずれについても多くの不備や問題点を抱えており、引き続き、より労働者保護に資する立法の実現を図るべく、見直し条項を置き継続的に検討がなされなければならない。

おわりに

今日の雇用状況、労働者の権利状況に照らせば、「労働者が人たるに価する生活を営むための必要を充た」した労働条件の下で、人として尊重されながら、安心・安全に、将来の不安を抱えることなく労働し得る――これによって労働生産性も向上する――条件・環境の整備は、今国会に上程される諸法案のみでは極めて不十分である。
他方、日本経団連は有期雇用の拡大を唱え、「労働ビッグバン」なるものは派遣法改正(派遣の全面自由化)や解雇規制の撤廃・緩和を主張するものと想定され、これらは労働者の非人間的で二極化された貧困状況を固定拡大させるものと指摘せざるをえない。
今国会を出発点として、継続的、総合的に、幅広い国民の意見を吸収しながら、真摯な論議が展開され、労働者の役に立つ立法がなされることを期待する。

以上