労働法制に関する声明

2007/2/7

 

労働法制に関する声明

2007年2月7日

日本労働弁護団
幹事長 鴨 田 哲 郎

  1. 本通常国会に上程される労働法制の概要が固まったと報じられている。報道によれば、焦点である労基法改正(労働時間法)については、日本版エグゼンプションの導入及び企画型裁量労働制の対象者拡大については秋以降に先送りし、当面300人超の大企業に限って残業の割増率の向上策を講じるとし、また、労働契約法を新設し、パート法改正により正社員と同等のパートに限り正社員との差別を禁止するとされている。
  2. エグゼンプション等
    エグゼンプション等が今回上程されないことは、8時間労働制を守れ、長時間労働の抑制策を講じろとの反対運動の一定の成果であるが、政府・与党や経済界がこれを諦めたわけではなく、完全に目論見を阻止すべく今後とも強力に運動を展開する所存である。
  3. 長時間労働抑制
    他方、長時間労働抑制策としての割増率向上策については、レベルが極めて低く、実効性もほとんどなく、有意な抑制策とは到底評しえない。報道によれば、50%の割増率が法的義務として課されるのは、月80時間を超える残業に限られるが、月80時間の残業は厚労省も認める過労死ラインである。本来このラインを超える残業は禁止されるべきであるにも拘らず、わずか50%の割増賃金でこれを容認することは許されない。また、基準時間である月45時間から80時間までの間の残業については労使協定で、25%を超える率を定める努力義務が課されるにすぎない。そもそも、36協定の締結率は何と27.2%にすぎず(301人以上でも69.9%)、努力義務にすぎない労使協定が締結される可能性は低いと言わざるをえず、労使協定が締結されなければ民事上は25%の請求権しかないのであるから、民間労働者の7~8割を占める300人以下の企業が適用猶予される点も含め、実効性のほとんどないことは明白である。しかも、猶予措置については3年後に導入の有無も含め検討というのであるから、政府・与党の長時間労働抑制へ向けた意欲を疑わざるをえない。これでは、まさに選挙向けの厚化粧を施した政策の安売りである。本国会では、長時間労働抑制の方策についての真剣な論議を強く望むものである。
  4. 労働契約法
    2月2日に答申された要綱によれば、上程される労働契約法は契約法とは名ばかりのものにすぎず、長年にわたり労働契約法の制定を要求してきた我々の期待を大きく裏切るものである。
    ことに、企業社会を「法化」していくための重要なアクターである過半数代表者制度について何らの整備も図られないことは極めて遺憾である。
  5. パート法
    改正法案により正社員との差別が禁止されるのは、実質的な短時間正社員に限定されており、ほとんど対象者はいないと言っても過言ではない。
    三分の一を超える非正規労働者(パート、契約、派遣等)のほとんどは有期雇用労働者であり、身分が不安定なるが故に正当な権利主張すらままならない状況に置かれている。非正規労働者の労働者としての権利を保障するためには有期契約の規制が不可欠であるにも拘らず、契約法においてもパート法においても何らの対策も採られていない。いわゆる御手洗ビジョンは、当面の対応として、裁量労働制拡大やエグゼンプション導入の前に非正規労働者の活用を掲げている。この点の是非、対策について労働国会、格差国会といわれる今国会で、十分かつ真摯に建設的な論議がなされることを強く望むところである。