「今後の労働契約法制について検討すべき具体的論点(2)(素案)」
2006/12/7
「今後の労働契約法制について検討すべき具体的論点(2)(素案)」
労働政策審議会
労働条件分科会 御中
2006年12月7日
日本労働弁護団
幹事長 鴨 田 哲 郎
はじめに
厚生労働省は、11月28日、労働契約法制定に関し「素案(2)」を貴分科会に提示した。本意見は、「素案(1)に対する意見」(11月28日付)に引続き意見を述べるものであるが、労働契約法の基本的性格(総則部分)を中心に意見を述べる。
1 労働契約法は、契約法たれ
「素案(2)」は、総則部分たる「基本的な考え方」と有期雇用に関する部分を主たる内容とするが、合意原則を謳う外は、「配慮」とか「考慮」など民事上の効力を定めたものとは解し難いものとなっている(現行民法628条と同旨の2、①を除く)。
労働契約関係の企業内での日々の展開は、圧倒的な力を有する使用者が一方的な決定・命令をなし、労働者にこれに従うことを強制することが常態である。かかる使用者の対応に納得できない労働者の極く一部が労働局のあっせんや裁判所に異議申立をなしうるにすぎず、個別労使紛争の激増とはいわれるものの、労働契約をめぐるトラブルの大半は、労働者の泣き寝入りで終了している。かかる実態を改善し、職場を「法化社会」とするために労働契約法が必要なのである。また、そのためには前記意見でも指摘した通り、労使対等の実現に資する具体的で実効性のある方策が思い切って取り入れられねばならない。
労働契約法は、契約当事者たる労使の契約上の権利義務関係を、要件と効果を明定するものでなければ制定の意義を失う。「素案(2)」のままでは、労働契約法上の「配慮」や「考慮」については厚生労働省が使用者に対し行政上の指導・監督をなし得るにとどまる。労働契約法は、労働者の使用者に対する民事上の請求権を明確にする法として定められなければならない。
2 均等待遇について
「素案(2)」は、「基本的な考え方」⑥として「雇用の実態に応じ、その労働条件について均衡を考慮したものとなるように」とした上、有期雇用に関しては、「不必要に短期の有期労働契約を反復更新することのないよう配慮」とする(2、②)。要するに、雇用形態に関しては何らの規制もせず、雇用実態に応じた格差(換言すれば、差別・区別)はバランス(均衡)を考慮したものであれば全て許容するというのである。しかし、労働者の労働契約上の基本的権利(いわば権利の質)は雇用形態によって差別されてよいものではなく、提供する労働量によって権利の量が比例的に増減されることが許されるにすぎないという基本的な考え方はILOやEUを中心にグローバルスタンダードである。
「雇用実態に応じた均衡の考慮」と「就業実態に応じた均等待遇」では、民事法としては天と地の差であると共に、「均等」と「均衡」は格差の容認の有様において質的に異なるものである。全ての労働者が安心して契約上の基本的権利を主張しこれを享受しうるよう、雇用形態による不合理な差別を禁止する均等待遇の原則が、労働契約法において示されねばならない。
3 即時解雇制限規定(労基法20、21条)について
「素案(2)」は、労基法20、21条の規定を労働契約法に移行することを提起するが、その理由については何ら説明がない。
「素案(2)」によれば、解雇予告手当を民事上、裁判手続等を通じて請求することは従来通りできるが、解雇予告手当の不払につき労働基準監督署(官)は一切関知せず、その不払は刑罰から解放されることとなる。
理由の説明がない以上、移行の必要性に関してコメントのしようがないが、予告手当不払の相談、苦情は現在でも労基署で相応の割合を占めるものと推認され、労基署の指導・勧告等によって早期に解決(支払)される例も多いものである。これを労基法から外すことは、解雇保護を弱めるものであって、その現実の効果が予告手当不払の使用者を事実上の救済することとなるのは明らかである。極めて不当な提起である。
4 過半数代表者の選出手続きについて
「素案(2)」は、過半数代表者の選出要件中、「民主的な手続にすることを明確にする」と提起するが、その具体的方法は現行労基則6条の2における「等」を明確にするもののようである。
過半数代表者については既に労基則6条の2において、資格の制限(管理監督者でないこと)と「投票・挙手等の方法による手続」が規定されている。
当弁護団は再三にわたり、過半数代表者制度の抜本的改革がまず必要であり、これが労使対等の実現に資するための労働契約法制定の前提であることを強く主張してきた。労基法の内容は小六法等で容易に確認できるが労基則の内容は簡易に確認しえないのであるから、最低限、現行労基則6条の2を明確にしたうえで、労基法に移行すべきである。
以上