「物件等提出命令」の発令要件を限定する中労委決定に抗議する決議

2005/11/5

「物件等提出命令」の発令要件を限定する中労委決定に抗議する決議

不当労働行為審査手続の改革を目指した改正労働組合法が今年1月から施行されている。この改正の1つの目玉として、労働委員会が事実認定に必要な証拠を早期に確保することを可能にするため、物件等提出命令制度が導入された(法第27条の7)。

従前の強制権限の制度(法22条)が総会の付議事項とされ、ほとんど発動されることがなかったことと対比すると、公益委員会議の合議により強制的に証拠の提出を命じうるこの物件等提出命令制度は、労働委員会の審査権限を格段に強化したものである。賃金・昇格差別事件などこれまで長期の審査を余儀なくされてきた事件類型においては、この制度の活用が期待されていた。

ところが、中央労働委員会は、9月21日、賞与の差別支給事案において、埼玉県労働委員会が全国で初めて発令した勤務評定表についての物件提出命令(埼労委平成17年6月28日決定)を全部取り消すという逆転決定をなした。

中労委は、法文上「当該物件によらなければ当該物件により認定すべき事実を認定することが困難となるおそれがある」と規定されている物件提出命令の発令要件を、「当該物件が、要証事実の認定のために他に的確な方法を見い出し難いものであるという意味での高度の必要性が認められる場合」と極めて限定的に解釈し、県労委が提出を命じた勤務評定表は、「格差の合理性の有無の判断において高度の必要性がある証拠であるとは必ずしもいえない」として要件該当性を否定した。他の立証方法を尽くし、それでも事実認定が困難な場合に限り物件提出命令の発令を認めるという今回の中労委の解釈に従えば、この制度が利用される余地はほとんどなくなってしまう。賃金・昇格差別事件等の審査遅延の現状も、これでは改善は期待できない。さらに、県労委命令に対する審査手続(法第27条の10第1項)において、物件提出命令申立人が事実上手続に関与できないという実質的な当事者である問題も明らかとなった。

われわれは、中労委の上記決定に強く抗議する。また、中労委が法改正の趣旨と労働委員会の責務を十分に認識し、物件提出命令権限を積極的に活用するとともに審査手続において申立人が十分な主張、反論をなしうる手続を整備するよう強く求めるものである。

2005年11月5日

日本労働弁護団 第49回全国総会