石綿(アスベスト)被害の防止と被害者の早期かつ全面的な救済を求めるアピール

2005/11/5

石綿(アスベスト)被害の防止と被害者の早期かつ全面的な救済を求めるアピール

1 深刻な石綿(アスベスト)被害の現状
石綿(アスベスト)は肺に継続的に取り込まれた場合はもとより、微量であっても肺の機能を著しく低下させ(いわゆる石綿肺)、肺ガン、悪性中皮腫などを発症させることはWHO、ILOはもとより、我が国においてもつとに指摘されてきた。
ところが、我が国においては、1960年代から1970年代にかけて20万トンから30万トンもの大量の石綿が輸入され、国内において、製造、販売、使用されてきた。輸入量が減少に転じるのは1988年まで待たなければならなかった。
現在、石綿あるいは石綿含有製品を扱っていた労働者や建設従事者だけでなく、石綿・石綿含有製品の製造・使用工場の周辺住民、あるいは石綿に暴露した労働者の家族にも肺ガン・中皮腫の発症ケースが相次いで報告されている。今後、建築物から飛散した石綿による健康被害発生の危惧もぬぐえない。
本年10月、厚生労働省は、中皮腫の診断名で亡くなった方が2004年には953名に達し、前年に比し75名増加したと発表した。石綿への暴露から肺ガン・中皮腫発症までの潜伏期間は長いため、我が国においても、これから大量の患者が発生することは明らかである。環境省は、2005年から2010年までの今後5年間で、最大で1万5000人を超える石綿を原因とする肺ガン・中皮腫の死亡者が発生するとの試算を発表している。
   
2 遅れた国の対策
国は1975年に、石綿の吹き付け作業を原則的に禁止したものの、企業による石綿・石綿含有製品の製造、輸入、譲渡、提供あるいは使用を放置してきた。ようやく1995年に発ガン性が極めて高いとされる青石綿(クロシドライト)と茶石綿(アモサイト)の製造、輸入、譲渡、提供または使用の禁止に踏み切り、2004年10月には、建材、摩擦材などの石綿含有製品の製造、輸入、譲渡、提供または使用を原則的に禁止したが、今なお白石綿(クリソタイル)の製造、輸入、譲渡、提供あるいは使用を禁止していない。現在、国は、石綿・石綿含有製品の製造、輸入、譲渡、提供または使用の全面禁止を2008年度の目標とするにとどまっている。
   
3 石綿被害の発生の防止と被害者の早期かつ全面的な救済の必要
石綿・石綿含有製品の危険性を知りながら、抜本的な対策を講じてこなかった国及び石綿・石綿含有製品の製造、輸入、譲渡、提供あるいは使用を継続してきた企業の責任は重大である。
以上の状況を踏まえ、我々は次の施策が速やかに採られるよう訴える。

(1) 石綿被害発生の防止

a. 早急な石綿・石綿含有製品の全面禁止
国は、直ちに石綿・石綿含有製品の製造、輸入、譲渡、提供あるいは使用を全面禁止すること。
b. 新たな被害の防止
国は、石綿含有製品を調査し、その危険性も含めて、製品名を公表すること。
また、国は、石綿暴露の危険を生じさせる建築物解体作業や石綿除去作業について、事前公示、飛散防止対策の徹底、資金の無償供与その他の適切な措置を早急に講じること。
c. 石綿対策基本法の制定
国は、石綿・石綿含有製品の把握・管理・除去・廃棄などを含めた総合的対策を推進するための基本となる石綿対策基本法を制定すること。
(2) 被害者の早期発見と全面的救済

a. 健康管理体制の確立・拡充

国は、石綿・石綿含有製品を製造あるいは使用した事業場に関し、その作業に従事した労働者・事業主やその家族、周辺住民ら石綿に暴露した可能性のある全ての者に対する健康管理体制を確立・拡充すること。
国は、肺ガン・中皮腫の早期発見・治療を可能とするため、専門医を大量に養成し、専門的医療スタッフをそろえた拠点医療機関を全国各地に早急に整備し、全ての被害者あるいは被害者となる可能性のある労働者・市民がこれらの医療機関において通院費も含め無償で受診、治療、定期的健康診断を受けることができるようにすること。
b. 被害の早期かつ全面的な救済制度の創設
国及び石綿・石綿関連企業が、石綿被害発生に責任を負うことを前提に、国は、その責任において、被害者の早期かつ全面的な救済制度を創設すること。制度は、以下の点を充たすべきである。

救済対象者を限定しないこと
暴露の形態を問わず、全ての被害者を対象とすること。
救済資格の認定においては、石綿暴露の厳格な証明は不要とし、「疑わしきは救済へ」との観点から、アスベストによるものではないことが明らかな場合以外は、被害者を救済することを第一義とすること。
救済の内容とその水準
救済の内容及びその水準は、労災保険法による補償給付を基準とすること。なお、その財源については、石綿関連企業に相応の負担をさせること。
c. 労災保険制度の拡充・見直し
労災保険制度による給付についても、被災者の全面的救済の観点に立った制度の見直しを図ること。具体的には、従来の石綿による肺ガン、中皮腫の労災認定基準の緩和、保障の内容、水準の引上げ、消滅時効の特例の設置など。

2005年11月5日

日本労働弁護団 第49回全国総会