労働法制の改悪を許さず、労働者の権利を前進させる法制度の実現を求める決議

2005/11/5

労働法制の改悪を許さず、労働者の権利を前進させる法制度の実現を求める決議

  1. 厚生労働省労働法制審議会労働条件分科会において、労働契約法の制定に向けた論議が始まった。また、労働時間法制の分野でも2005年中に厚生労働省の「今後の労働時間制度に関する研究会」が報告をまとめ、同分科会において審議が始まる予定である。
  2. 労働契約法は、これまで労働者・労働組合が広範な闘いの中で勝ち取ってきた労働者の権利を立法化するとともに、いまだ権利として確立されていない課題についても労働者の権利擁護の立場から明確な法制化がなされるものでなければならず、労使の関係の格差を直視し、適正な労働条件を保障するものとして、強行法規でなければならない。
    ところが、「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」の報告は、労使委員会決議に就業規則不利益変更の合理性推定効を与えるなど、労使対等の基盤を欠いている労使委員会に広範かつ強大な権限を与えようとしている点で、労働者の権利切り下げのための制度に堕しかねない危険性をはらんでいる。さらに、使用者申立による解雇の金銭解決制度、雇用継続型契約変更制度、有期雇用規制をしないままでの雇止め法理の骨抜き化、試行雇用制度の導入など労働条件・雇用の基盤を掘り崩す危険な制度の導入が提案されている。
    われわれは、「在り方研」報告の方向で立法化されるのであれば、かかる労働契約法は、むしろ労働者の権利を後退させるものとして、これに強く反対する。
    労働契約法は、使用者が一方的に労働条件を決定している現状を規制して適正な労働条件を確保するとともに、労使対等の立場で労働条件決定をなしうるシステムを備えたものとして立法されるべきであり、判例法で確立した整理解雇法理、雇止め法理、就業規則不利益変更法理などを法文化するとともに、判例で未解決の現代的な課題についても労働者の権利擁護の観点から立法化されるべきものである。われわれは、真に労働者のためになる新しい時代にふさわしい労働契約法として2005年版立法提言を提起しており、その実現を目指す。
  3. 長時間・過密労働、不規則・深夜労働、不払残業の蔓延、過労死・過労自殺・職場における精神疾患の激増など、わが国の多くの労働者は、物心ともにゆとりを奪われ、人たるに価する生活を保障されていない。
    一方で、資本の都合だけで非正規雇用労働者が増加させられ、使い捨ての安い労働力として、不安定な身分と低劣な賃金・労働条件で、生活に不安を抱えながら働いている。破産者や経済的理由による自殺者も過去最高水準にある。
    正規労働者の長時間労働問題は、非正規雇用労働者の劣悪な労働条件と表裏の関係にある。誰もが人間らしい労働時間で働き、ゆとりをもって生活できる賃金・労働条件を得られるような社会の実現は、少子化に対する歯止めとなり、教育問題や地域社会の再建にもつながる。実効ある労働時間規制を確立し、現実に規制を強化することによって、人間らしい働き方を実現しなければならない。
    ところが、政府・経済界は、これに真っ向から逆行し、裁量労働制の更なる規制緩和や適用除外対象労働者の大幅拡大により、時間管理責任を免れたうえで、成果主義による競争の圧力のもと、人件費の増加を伴わずに労働者を無制限に働かせることができる制度の構築を目論んでいる。
    われわれは、労働時間規制のさらなる緩和・撤廃に強く反対し、人間らしい労働時間規制の実現を強く要求する。具体的にはEC時間指令及びヨーロッパの実情に照らし、遜色のない制度(1日実労働時間規制、勤務間隔時間の導入など)を目指す。所定外労働(残業及び休日出勤)に関し、少なくとも(1)現行「基準時間」を労基法上の上限時間として法定し、特別協定制度は廃止すること、(2)休日労働の上限日数を法定すること、(3)割増率を国際水準に見合うものとすることを求める。年次有給休暇に関し、ILO132号条約を直ちに批准しうる法改正を行うこと、そして、何よりも労使協定等の過半数代表制度を抜本的に見直すことを求める。
  4. よりよい労働契約法・ゆとりある労働時間法制を獲得することは、わが国の圧倒的多数を占める労働者の生活に直接影響するのみならず、わが国の将来を担う子ども達に社会に出ていく希望と勇気を与えるものであり、企業中心社会を人間中心社会に転換し、地域社会を活性化させる。
    成熟した住みやすい社会の構築に向けて、われわれは労働法制の改悪に対して強く反対するとともに、人間らしい労働と生活が保障される制度の実現を強く求めるものである。

2005年11月5日

日本労働弁護団 第49回全国総会