自動車運転者の労働時間等の改善基準告示について、さらなる拘束時間の引下げと11時間の休息を入れることを求める声明

2022/2/17

自動車運転者の労働時間等の改善基準告示について、さらなる拘束時間の引下げと
11時間の休息を入れることを求める声明

2022年2月17日
日本労働弁護団 幹事長 水野英樹

 現在、労政審労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会において、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号。以下、「改善基準告示」という)を改正する議論が行われている。

 自動車運転者にまつわる業種は、過労死防止大綱において、一貫して重点業種として取り上げられている。これは、これらの業種の労災認定件数が多いことに起因する。すなわち、令和2年度の脳・心臓疾患の労災認定件数は、トラック運転者である「道路貨物運送業」が55件で最も多く、またバスなどの「道路旅客運送業」も労災申請件数が20件と、長時間労働等を大きな要因とする過労死の多い業種となっている。いわゆる働き方改革関連法の参議院附帯決議でも、改善基準告示の「総拘束時間等の改善について、関係省庁と連携し、速やかに検討を開始すること」が求められていた。

 労政審における議論では、バス、タクシーについて、それぞれ拘束時間をさらに減らす案が出ており、それ自体は歓迎すべきである。もっとも、それぞれの拘束時間の案は、バスについて月281時間、タクシーについて月288時間とされており、これは法定労働時間と休憩時間(合計195時間)に加えて、時間外・休日労働として、バスについて月86時間、タクシーについて月93時間を加算する、長時間の拘束を認めるものである。自動車運転者については、時間外労働等の上限規制(労基法36条6項5号及び6号)の適用が猶予されるのであるが(労基法附則140条)、上限規制の趣旨は過労による心身等に与える悪影響を排除するためにあることに照らせば、本来的には、これらの総拘束時間のさらなる引き下げが図られるべきである。

 さらに、休息時間について、改善基準告示においては原則8時間とされているところ、第6回検討会において、バス、タクシー(日勤)については原則11時間とする案が示された(同資料1)。もっとも、第7回検討会においては、バス、タクシー(日勤)について原則11時間としつつ、一定の例外を認める案に加え、原則を9時間としつつ、11時間を努力義務とする追加案も示された(同資料3)。

 ところで、令和3年9月14日改定のいわゆる脳・心臓疾患の労災認定基準(基発0914第1号)においては、「勤務時間の不規則性」として、「勤務間インターバルがおおむね11時間未満の勤務の有無」をみるとしている。このことに照らすと、連日の勤務を想定した場合、休息時間11時間を原則としない上記追加案を採用してしまうと、勤務間インターバルも必然的に11時間を切ることとなる。そのため、上記追加案は、脳・心臓疾患を引き起こすリスクを増加させることを容認していると言わざるを得ない。このことは、ILO勧告161号(労働時間及び休息期間(路面運送)勧告)において、休息時間は原則11時間以上、短くとも8時間を下回れないとされており、EUでも24時間に対して休息時間を原則11時間、週3回は9時間に短縮可能と、これに準じた措置をしていることからも明らかである。

 また、トラックについては、現時点においてもなお、休息時間についての案が示されていないが、先に述べたとおりトラック運転者については令和2年度の脳・心臓疾患の労災認定件数が全業種中最も多いことに鑑みれば、脳・心臓疾患のリスクを軽減するために必要な休息時間を11時間以上確保しなくてよいとする理由がない。

 当弁護団として、以上の通り、労働者の健康を守るため、バス・タクシー・トラックいずれの業種についても、さらに拘束時間の上限を引き下げるとともに、いずれの業種についても、休息時間を原則11時間とすることを求める。

以 上