厚労省「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」の実施にあたり、世界標準のハラスメント防止法制の実現を求める声明
2024/4/18
厚労省「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」の実施にあたり、世界標準のハラスメント防止法制の実現を求める声明
2024年4月19日
日本労働弁護団幹事長 佐々木亮
厚生労働省は、2024年2月より「雇用の分野における女性活躍推進に関する検討会」を実施し、ハラスメントの現状と対応の方向性についての検討が行われる予定となっている。
日本労働弁護団は、ハラスメント法制に関し、①ILO第190号条約「仕事の世界における暴力とハラスメントの撤廃に関する条約」を速やかに批准すること、②ハラスメント行為を明確に禁止する法律を制定すること、③カスタマーハラスメントなど第三者からの労働者に対するハラスメントについて事業主に防止措置を義務付けること、④フリーランス・就活生・求職者などに対するハラスメントについて事業主に防止措置を義務付けること、⑤より実効的なハラスメント防止措置を講じることを求める。
2019年6月に採択されたILO190号条約は、2021年6月に発効し、現時点で39カ国が批准し、G7で批准していないのはアメリカと日本だけである。同条約は、労働者に加えて求職者やインターン等も広く保護対象とし、加盟国に対して、あらゆる暴力とハラスメントを法律で禁止し、被害者を救済・支援することを求めるものであり、いわば、世界標準のハラスメント防止対策を定めたものである。日本政府は、同条約の採択に賛成していたにもかかわらず、未だ批准に至っていないことは極めて遺憾である。速やかに批准し、国として暴力とハラスメントを許さない旨の方針を明確化するとともに、同条約の趣旨に沿って国内法の整備を行うべきである。
次に、日本のハラスメント法制は、事業主に対してハラスメント防止措置を義務付けるだけに留まるものであるが、ハラスメント行為を明確に禁止する法律を定めるべきである。企業にハラスメント防止措置を課すのみでは、個人にとって、ハラスメントが違法行為であるとの認識を抱きにくい。また、企業の相談窓口が機能せず被害者が泣き寝入りするケース、相談しても適切な対応がなされないケースも後を絶たない。これに対して行政が指導する場合も、窓口設置などの措置への指導にとどまり、ハラスメント被害そのものの是正、救済が得られないのが現状である。よって、ハラスメント行為禁止を明確に定めるとともに、これに違反した場合の損害賠償請求権、その他救済方法について定めた法律を制定すべきである。
カスタマーハラスメントについては、労働施策総合推進法に基づく「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚労省告示第5号)」では、その対策は「事業主が行うことが望ましい取組」にとどまっている。しかし、厚労省の実態調査をはじめ様々な調査で深刻な被害実態が明らかになっており、裁判では、カスタマーハラスメントから部下を守らず誤った対応を行った上司の行為がパワーハラスメントと認定された判決(甲府地判平成30年11月13日)が出されるなど、企業の責任も問われている。よって、早急に、カスタマーハラスメント等の第三者からのハラスメントについても事業主に防止措置を義務付けるべきである。
同様に、フリーランス、就活生、求職者などに対するハラスメントについても、現行法では「事業主が行うことが望ましい取組」にとどまっている。しかし、厚労省の実態調査では就活セクハラが多数生じている実態が明らかとなり、日本労働弁護団が2022年に実施した就活セクハラ相談会においても深刻な相談が寄せられた。また、裁判では、フリーランスに対するハラスメントについて企業の安全配慮義務違反が認められる(東京地判令和4年5月25日)など、企業の責任も問われている。よって、早急に、フリーランス、就活生、求職者などに対するハラスメントについても事業主に防止措置を義務付けるべきである。
加えて、ハラスメント被害が多発している現状に鑑みれば、現行の各指針に定められた事業主に対するハラスメント防止措置義務は、実効性を有し奏功しているとは言い難い。ハラスメント研修の義務化、適切な相談窓口を担保すること、セクハラ被害者の心理状態への配慮・周知啓発、パワハラに該当する例・しない例の見直しなど、より踏み込んだハラスメント防止措置を検討することが必要である。
日本労働弁護団は、これまで、多数の意見書や声明等を通じて、上記①~⑤を実施するよう求めてきたものであるが、厚労省での新たな検討が行われるにあたり、改めてその必要性を強調するとともに、すべての働く者があらゆるハラスメントを受けることのない職場を実現するため、積極的な施策が検討されるよう要請する。