ワークルール教育推進法の早期成立を求める声明

2025/3/10

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ワークルール教育推進法の早期成立を求める声明

2025年3月10日
日本労働弁護団幹事長 佐々木 亮

日本労働弁護団は、2013年10月にワークルール教育推進法の制定を求める意見書を発表、同年11月には当弁護団総会にてワークルール教育推進法の制定を求める決議を挙げ、2015年11月にはワークルール教育の推進に関する法律(第1次案)を公表した。働き方が多様化し、労働組合の組織率が低下する中で、労働者と使用者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差等に起因する様々な労働紛争を防止するともに、労働者が自らの権利の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができるようにするため「ワークルール教育」の必要性は極めて大きいといえることから、当弁護団は同法の早期成立を求めてきた。

当弁護団による立法提案から10年以上が経過したが、労働者が困難な状況に置かれる社会情勢はその後も改善されておらず、各都道府県の総合労働相談コーナーに寄せられる総合労働相談件数は、直近でも4年連続で120万件を超え、当弁護団が実施している労働トラブルホットラインにも、毎回、多数の労働相談が寄せられている。相談の中には、使用者側において労働法制の知識等が不足していることからトラブルとなる事例もあり、適切に労働法制を遵守しない企業が不当に競争力を強めてしまうことで、企業間における健全な事業活動の促進が妨げられている実態もある。また、日本の労働組合の組織率は、約16%にまで低下してしまっており、これが、労働者の労働条件の改善が進まず、個別的労働紛争を増加させる原因になっている。

国政に目を向けると、2016年1月には超党派の「非正規雇用労働者の待遇改善と希望の持てる生活を考える議員連盟」(非正規雇用議員連盟)総会において、ワークルール教育推進法検討チームが結成され、法律案が策定される等、充実した職業生活を営むことができる働き方の実現のためだけでなく、企業の健全な事業活動の促進のためにも、ワークルール教育が資することが共有されてきた。直近では、2025年2月21日に開催された同議員連盟総会においても、ワークルール教育の必要性について議論されたところである。このような点からすれば、労働法制に関する適切な知識は、労働者だけでなく、使用者も有するべきであって、ワークルール教育の実践が、労働者自らの権利の擁護及び増進のためであることはもちろんのこと、事業者の健全な事業活動の促進に資することは立場を超えた共通の認識となっているといえよう。

また、先に指摘したとおり、日本の労働組合の組織率は約16%にまで低下しているところ、労働条件の改善や労働者の権利向上のためにも、労働組合の組織率向上は喫緊の課題である。厚生労働省が2025年1月8日に公表した「労働基準関係法制研究会報告書」においては、過半数代表者に対する研修・教育という文脈において、労働組合を中心とした集団的労使関係の重要性について触れられているところである。労働組合の重要性やその役割を広く浸透させ、労働組合の組織率を向上させていくためにも、労働組合に関する知識や実践的な労使交渉を含めたワークルール教育は不可欠であり、行政は積極的にその支援をすべきである。なお、使用者団体である一般社団法人日本経済団体連合会(経団連)が2024年1月6日に公表した「労使自治を軸とした労働法制に関する提言」においても、ワークルール教育を通じた労働組合の組織率向上に言及していることからすれば、労使双方にとって労働組合が重要な存在であることにも異論の余地はないものといえよう。

さらに、昨今、「ビジネスと人権」の議論の中では、取引関係間で労使紛争を予防するための取組みが進められているが、労働組合には、サプライチェーン全体における労働者の代表としての役割が求められるようにもなっている。そして、サプライチェーンを含めて、労働組合が使用者との関係で健全かつ実効的な労使コミュニケーションを実現し、集団的労使関係を構築するためにも、労使双方が労働組合の役割や位置づけなどの集団的労使関係を含む「ワークルール」の知識を得る機会が必要不可欠である。

以上のように、ワークルール教育は、個別の労使関係を超えて求められるようにもなっている。そのため、ワークルール教育の機会は、学校教育段階に限られず、働き始める段階や事業を開始する段階なども含め、職場や地域などにおいて幅広く提供されるべきである。当弁護団では、2013年に意見書を公表して以降、個別に高校や大学、労働組合や行政機関と連携して、ワークルール教育の実践に取り組み、その必要性について好意的な評価を受けてきた。もっとも、先に述べた社会情勢や、広く全国で同質のワークルール教育を提供するには、これまでのようにワークルール教育を現場の自主的な取り組みだけに委ねているだけでは足りないし、現在長時間労働に悩まされる教育現場や、組織率向上を目指す労働組合の負担なく、専門的知識を有する識者がワークルール教育を実施できるよう、ワークルール教育推進法を制定し、いつでも、だれでも、どこでもワークルール教育を受けられる体制を全国津々浦々に整備していくことが必要不可欠である。

日本労働弁護団は、改めて、速やかにワークルール教育推進法を制定することを求める。

 

以上