ワークルール教育の推進に関する法律(第1次案)

2015/12/25

ワークルール教育の推進に関する法律   第1次案

 

              2015年11月18日

 

                           日本労働弁護団

 

目次

 第一章 総則(第一条第七条)

 第二章 基本方針等(第八条・第九条)

 第三章 基本的施策(第十条第十七条)

 第四章 ワークルール教育推進会議等(第十八条・第一九条)

 附則

 

   第一章 総則

  (目的)

第一条 この法律は、ワークルール教育が、労働者と事業者との間の情報の質及び量並びに交渉力の格差等に起因する紛争を防止するとともに、労働者が自らの利益の擁護及び増進のため自主的かつ合理的に行動することができるようその自立を支援する上で重要であることに鑑み、ワークルール教育の機会が提供されることが国民の権利であることを踏まえ、ワークルール教育に関し、基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、基本方針の策定その他のワークルール教育の推進に関し必要な事項を定めることにより、ワークルール教育を総合的かつ一体的に推進し、もって国民の勤労生活の安定及び健全な労使関係の発展に寄与することを目的とする。

 

  (定義)

第二条 この法律において「ワークルール教育」とは、働くこと(労働者が働くこと、使用者が労働者を働かせることの双方を含む)に関するルール(法令、慣習、規範及び慣行を含む)及びこれらのルールを実現するための諸制度等に関する教育と、これに準ずる啓発活動をいう。

 

  (基本理念)

第三条 ワークルール教育は、労働者と使用者との間の情報の質・量及び交渉力等の格差の存在を前提として、労働者及び使用者がそれぞれの権利・義務について正しく理解するとともに、労働者が自らの権利・利益を守る上で必要な労働関係法制等に関する知識を習得し、これを適切な行動に結び付けることができる実践的な能力が育まれることを旨として行われなければならない。

  2 ワークルール教育は、学齢期から高齢期までの各段階に応じて、学校、地域、職場その他の様々な場の特性に応じた適切な方法により行われるとともに、それぞれの段階及び場においてワークルール教育を行う多様な主体の連携を確保して効果的に行われなければならない。

  3 ワークルール教育の推進にあたっては、労働者の義務や自己責任論が安易に強調されることによって労働者の権利・利益が不当に損なわれることのないよう、特に留意されなければならない。

 

  (国の責務)

第四条 国は、前条の基本理念(以下この章において「基本理念」という。)にのっとり、ワークルール教育の推進に関する総合的な施策を策定し、及び実施する責務を有する。

  2 内閣総理大臣及び厚生労働大臣並びに文部科学大臣は、前項の施策が適切かつ効率的に策定され、及び実施されるよう、相互に又は関係行政機関の長との問の緊密な連携協力を図りつつ、それぞれの所掌に係るワークルール教育の推進に関する施策を推進しなければならない。

 

  (地方公共団体の責務)

第五条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、都道府県労働局、教育委員会その他の関係機関相互間の緊密な連携の下に、ワークルール教育の推進に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の区域の社会的、経済的状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。

 

  (労働組合、使用者団体等の努力)

第六条 労働組合、使用者及び使用者団体は、基本理念にのっとり、ワークルール教育の推進のための自主的な活動に努めるとともに、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場において行われるワークルール教育に協力するよう努めるものとする。

 

  (財政上の措置等)

第七条 政府は、ワークルール教育の推進に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講じなければならない。

  2 地方公共団体は、ワークルール教育の推進に関する施策を実施するため必要な財政上の措置その他の措置を講ずるよう努めなければならない。

 

   第二章 基本方針等

  (基本方針)

第八条 政府は、ワークルール教育の推進に関する基本的な方針(以下この章及び第四章において「基本方針」という。)を定めなければならない。

  2 基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。

   一 ワークルール教育の推進の意義及び基本的な方向に関する事項

   二 ワークルール教育の推進の内容に関する事項

   三 関連する他の労働政策との連携に関する基本的な事項

   四 その他ワークルール教育の推進に関する重要事項

  3 内閣総理大臣及び厚生労働大臣並びに文部科学大臣は、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。

  4 内閣総理大臣及び厚生労働大臣並びに文部科学大臣は、基本方針の案を作成しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議するとともに、ワークルール教育推進会議の意見を聴くほか、労働者、使用者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講じなければならない。

  5 内閣総理大臣及び文部科学大臣は、第4項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本方針を公表しなければならない。

  6 政府は、雇用を取り巻く環境の変化を勘案し、並びにワークルール教育の推進に関する施策の実施の状況についての調査、分析及び評価を踏まえ、おおむね5年ごとに基本方針に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更するものとする。

  7 第4項から第6項までの規定は、基本方針の変更について準用する。

 

  (都道府県ワークルール教育推進計画等)

第九条 都道府県は、基本方針を踏まえ、その都道府県の区域におけるワークルール教育の推進に関する施策についての計画(以下この条及び第一九条第2項第2号において「都道府県ワークルール教育推進計画」という。)を定めるよう努めなければならない。

  2 市町村は、基本方針(都道府県ワークルール教育推進計画が定められているときは、基本方針及び都道府県ワークルール教育推進計画)を踏まえ、その市町村の区域におけるワークルール教育の推進に関する施策についての計画 (以下この条及び第一九条第2項第2号において「市町村ワークルール教育推進計画」という。)を定めるよう努めなければならない。

  3 都道府県及び市町村は、都道府県ワークルール教育推進計画又は市町村ワークルール教育推進計画を定めようとするときは、あらかじめ、その都道府県又は市町村の区域の労働者・使用者その他の関係者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるよう努めるものとする。この場合において、第一九条第1項の規定によりワークルール教育推進地域協議会を組織している都道府県及び市町村にあっては、当該ワークルール教育推進地域協議会の意見を聴かなければならない。

  4 都道府県及び市町村は、都道府県ワークルール教育推進計画又は市町村ワークルール教育推進計画を定めたときは、遅滞なく、これを公表するよう努めるものとする。

  5 都道府県及び市町村は、都道府県ワークルール教育推進計画又は市町村ワークルール教育推進計画を定めた場合は、その都道府県又は市町村の区域におけるワークルール教育の推進に関する施策の実施の状況についての調査、分析及び評価を行うよう努めるとともに、必要があると認めるときは、都道府県ワークルール教育推進計画又は市町村ワークルール教育推進計画を変更するものとする。

  6 第3項及び第4項の規定は、都道府県ワークルール教育推進計画又は市町村ワークルール教育推進計画の変更について準用する。

 

   第三章 基本的施策

  (学校におけるワークルール教育の推進)

第十条 国及び地方公共団体は、幼児、児童及び生徒の発達段階に応じて、学校(学校教育法(昭和22年法律第26号)第一条に規定する学校をいい、大学及び高等専門学校を除く。第3項において同じ。)の授業その他の教育活動において適切かつ体系的なワークルール教育の機会を確保するため、必要な施策を推進しなければならない。

  2 国及び地方公共団体は、教育職員に対するワークルール教育に関する研修を充実するため、教育職員の職務の内容及び経験に応じ、必要な措置を講じなければならない。

  3 国及び地方公共団体は、学校において実践的なワークルール教育が行われるよう、その内外を問わず、ワークルール教育に関する知識、経験等を有する人材の活用を推進するものとする。

 

  (大学等におけるワークルール教育の推進)

第十一条 国及び地方公共団体は、大学等(学校教育法第一条に規定する大学及び高等専門学校並びに専修学校、各種学校その他の同条に規定する学校以外の教育施設で学校教育に類する教育を行うものをいう。以下この条及び第十六条第2項において同じ。)においてワークルール教育が適切に行われるようにするため、大学等に対し、学生に対するワークルール教育、啓発その他の自主的な取組を行うよう促すものとする。

  2 国及び地方公共団体は、大学等が行う前項の取組を促進するため、関係団体の協力を得つつ、学生等に対する援助に関する業務に従事する教職員に対し、研修の機会の確保、情報の提供その他の必要な措置を講じなければならない。

 

  (地域におけるワークルール教育の推進)

第十二条 国、地方公共団体は、地域において高齢者、障害者等を含む地域住民に対するワークルール教育が適切に行われるようにするため、情報の提供その他の必要な措置を講じなければならない。

  2 国、地方公共団体は、公民館その他の社会教育施設等において都道府県労働局等の収集した情報の活用による実例を通じたワークルール教育が行われるよう、必要な措置を講じなければならない。

 

  (労働組合及び使用者・使用者団体によるワークルール教育の支援)

第十三条 労働組合、使用者及び使用者団体は、関係団体との情報の交換その他の連携を通じ、労働者の勤労生活に関する知識の向上が図られるよう努めるものとする。

 

  (教材の充実等)

第十四条 国、地方公共団体は、ワークルール教育に使用される教材の充実を図るとともに、学校、地域、家庭、職場その他の様々な場において当該教材が有効に活用されるよう、ワークルール教育に関連する実務経験を有する者等の意見を反映した教材の開発及びその効果的な提供に努めなければならない。

 

  (人材の育成等)

第十五条 国、地方公共団体は、都道府県労働局の相談員その他の労働相談活動を行う者に対し、ワークルール教育に関する専門的知識を修得するための研修の実施その他その資質の向上のために必要な措置を講じなければならない。

  2 国、地方公共団体は、大学等、研究機関、労働組合、使用者団体その他の関係機関及び関係団体に対し、ワークルール教育を担う人材の育成及び資質の向上のための講座の開設その他の自主的な取組を行うよう促すものとする。

 

  (調査研究等)

第十六条 国、地方公共団体は、ワークルール教育に関する調査研究を行う大学、研究機関その他の関係機関及び関係団体と協力を図りつつ、諸外国の学校における総合的、体系的かつ効果的なワークルール教育の内容及び方法その他の国の内外におけるワークルール教育の内容及び方法に関し、調査研究並びにその成果の普及及び活用に努めなければならない。

 

  (情報の収集及び提供等)

第十七条 国、地方公共団体は、学校、地域、家庭、職域その他の様々な場において行われているワークルール教育に関する先進的な取組に関する情報その他のワークルール教育に関する情報について、これを収集し、及び提供するよう努めなければならない。

  2 国は、その収集したワークルール教育に関する先進的な取組に関する情報等がワークルール教育の内容に的確かつ迅速に反映されるよう努めなければならない。

 

   第四章 ワークルール教育推進会議等

  (ワークルール教育推進会議)

第十八条 厚生労働省に、ワークルール教育推進会議を置く。

  2 ワークルール教育推進会議は、次に掲げる事務をつかさどる。

   一 ワークルール教育の総合的、体系的かつ効果的な推進に関してワークルール教育推進会議の委員相互の情報の交換及び調整を行うこと。

   二 基本方針に関し、第八条第4項(同条第7項において準用する場合を含む。)に規定する事項を処理すること。

  3 ワークルール教育推進会議の委員は、労働者、使用者及び教育関係者、労働組合、使用者団体その他の関係団体を代表する者、学識経験を有する者並びに関係行政機関及び関係する独立行政法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第1項に規定する独立行政法人をいう。)の職員のうちから、内閣総理大臣が任命する。

  4 前2項に定めるもののほか、ワークルール教育推進会議の組織及び運営に関し必要な事項は、政令で定める。

 

  (ワークルール教育推進地域協議会)

第一九条 都道府県及び市町村は、その都道府県又は市町村の区域におけるワークルール教育を推進するため、労働者、労働組合、使用者、使用者団体、教育関係者、労働相談センターその他の当該都道府県又は市町村の関係機関等をもって構成するワークルール教育推進地域協議会を組織するよう努めなければならない。

  2 ワークルール教育推進地域協議会は、次に掲げる事務を行うものとする。

   一 当該都道府県又は市町村の区域におけるワークルール教育の総合的、体系的かつ効果的な推進に関してワークルール教育推進地域協議会の構成員相互の情報の交換及び調整を行うこと。

   二 都道府県又は市町村が都道府県ワークルール教育推進計画又は市町村ワークルール教育推進計画を作成し、又は変更しようとする場合においては、当該都道府県ワークルール教育推進計画又は市町村ワークルール教育推進計画の作成又は変更に関して意見を述べること。

  3 前2項に定めるもののほか、ワークルール教育推進地域協議会の組織及び運営に関し必要な事項は、ワークルール教育推進地域協議会が定める。

 

   附則

  (施行期日)

  1 この法律は、公布の日から起算して6月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。

  (検討)

  2 国は、この法律の施行後5年を目途として、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。