トラック運転者の労働時間基準のさらなる改善を求める緊急声明

2022/8/12

トラック運転者の労働時間基準のさらなる改善を求める緊急声明

2022年8月12日
日本労働弁護団
幹事長 水野 英樹

 現在、労政審労働条件分科会自動車運転者労働時間等専門委員会(以下「専門委員会」という。)において、「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(平成元年労働省告示第7号。以下、「改善基準告示」という。)を改正する議論が行われている。

 当弁護団は、すでに、2022年2月17日付け「自動車運転者の労働時間等の改善基準告示について、さらなる拘束時間の引下げと11時間の休息を入れることを求める声明」を発し、その中で、自動車運転者について、バス・タクシー・トラックいずれの業種についても改善基準告示における拘束時間の上限のさらなる引き下げと休息期間を原則11時間とすることを求めたところである。

 その後、ハイヤー・タクシー作業部会及びバス作業部会の検討結果が取りまとめられ、公表された(2022年3月29日「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準の在り方について(中間とりまとめ)」)。そして現在は専門委員会トラック作業部会(以下「作業部会」という。)において、トラック運転者の拘束時間の上限や休憩時間に関する議論が継続して行われている。

 その中で、休息期間については「タクシーやバスと同じ水準を軸に考えるべきではないか」(同第7回資料1・5頁)との考え方が示されている。タクシー及びバスについては中間とりまとめにおいて、「勤務終了後、継続11時間以上与えるよう努めることを基本とし、継続9時間を下回らないものとする」とされた。これは11時間の休息期間の付与を努力義務にとどめるもので、当弁護団が求めている11時間の休息期間の原則的義務付けとは異なる。令和3年9月14日改定のいわゆる脳・心臓疾患の労災認定基準(基発0914第1号)において「勤務時間の不規則性」として、「勤務間インターバルがおおむね11時間未満の勤務の有無」をみるとされている点からも、上記中間とりまとめが休息期間に関して示した方向性は、労災認定件数が多く、過労死防止大綱において一貫して重点業種として取り上げられている自動車運転者に必要な健康確保につながらず、むしろ、脳・心臓疾患を引き起こすリスクを増加させる要因たる11時間未満の休息期間を容認するものといわざるを得ない。特に、令和3年度の脳・心臓疾患の労災認定件数では、トラック運転者である「道路貨物運送業」が56件で最も多い業種となっている。これらのことからすると、トラック運転者の休息期間について、タクシー及びバスの中間とりまとめにかかわらず、休息期間を原則11時間とすることを明確に打ち出すべきである。

 次に、拘束時間については、使用者側は、年間総拘束時間の3516時間から3408時間への短縮を提案する一方で、1か月320時間の拘束時間を年6回まで認めることを求めている。かかる要求は現行の改善基準告示と変わらないものであるが、月間320時間の拘束時間というのは、125時間の時間外労働を意味するもので、いわゆる過労死ラインを大幅に超える。時間外労働等の上限規制の趣旨は過労による心身等に与える悪影響を排除することにある。月間拘束時間に関する使用者側の上記意見は、自動車運転者の健康と命への配慮に欠けるものであって、容認できるものではない。当弁護団は、過労による心身等への悪影響を排除するに足りる月間拘束時間の引き下げを求めるとともに、自動車運転者の健康を害するような拘束時間の規制に対する例外を容認しないものである。

 最後に、連続運転時間(現行改善基準告示では1回が連続10分以上で、かつ、合計が30分以上の運転の中断をすることなく連続して運転する時間)は、現行では4時間を超えないものとするよう定められているところ、使用者側は「4時間を超えないよう努めることを基本とし、5時間は超えないものとしてはどうか。」(同第7回資料1・8頁)との意見を出している。これは、現行の改善基準告示に比べ、自動車運転労働者の連続運転時間をむしろ引き上げるものであって、トラック運転者の健康確保の観点からは許されないものである。かかる観点から連続運転時間についてむしろ求められるのは、運転以外の業務に従事することが排除されない「運転の中断」という概念を見直し、業務から完全に解放される「休憩」の概念を取り入れて再定義し直すことである。EU規則では、連続運転時間4時間30分に対して少なくとも45分の休憩を求め、休憩を、運転者が運転または他の仕事を行うことなく、もっぱら休養に充てることができる時間としているが、このような「休憩」の概念を改善基準告示も採り入れるべきである。

 当弁護団は、特に、作業部会において、トラック運転者にかかる改善基準告示について、真にトラック運転者の健康確保の視点に立って見直しを進めていくことを求め、さらには、今後、労政審において、改善基準告示全体について、過労による心身等に与える悪影響を排除するという上限規制の趣旨と、自動車運転者の長時間労働とそれが健康に及ぼす影響の実態を十分に踏まえ、さらに議論を深めることを求める。

以上