改正高齢法

2005/10/1

1 改正高齢法の枠組み

(1)高年齢者雇用確保措置

 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の改正9条(高年齢者雇用確保措置)が来06年4月1日から施行される。

改正法は、定年年齢の下限60歳(60歳を下回る定年を定めることができない―法8条)と65歳までの安定雇用確保措置の努力義務(旧9条。改正法附則4条2項)というこれまでの法的枠組みは維持したまま、65歳未満の定年の定めを置く事業主に対し、「高年齢者雇用確保措置」を講ずることを義務付けるものである。「高年齢者雇用確保措置」(以下、「確保措置」という)は、(1)定年の引上げ、(2)継続雇用制度の導入、(3)定年制の廃止のいずれかであり、確保措置導入義務の対象年齢は、「特別支給の老齢厚生年金」の定額部分の(男性の)支給開始年齢の引上げに合わせて、06年4月からは62歳、07年4月からは63歳、10年4月からは64歳、13年4月から65歳である。そして、改正法は「確保措置」(制度)の導入を義務づけるものであり、06年から07年3月末までに60歳定年に達する者は62歳となる08年度には確保措置の対象年齢が63歳となるので、その雇用終了(退職)年齢は63歳となる(厚労省見解1Q11。(http://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/kourei2/qa/index.html))。

 「確保措置」は公法上の義務であり、改正法9条を根拠に直ちに雇用義務が私法上(契約上)生じるものではないというのが厚労省の見解である(見解1Q2において、継続雇用制度を導入していない60歳定年制企業で、60歳で定年退職させても「直ちに無効となるものではないと考えられる」としている。なお、法9条違反として助言、指導、勧告は行うとしている――法10条)。しかし、改正法により、「特別支給の老齢厚生年金」の定額部分支給開始年齢を下回る定年制は公序に反すとも考えられ、また、9条に基づきいずれかの措置が採られれば、少なくとも希望者は上記年齢までの雇用が確保されるべきものであるから、いずれの措置も採らないことは信義に反し、あるいは労基法18条の2の類推適用により無効とも考えうる。いずれにしても何ら「確保措置」が採られない企業における定年到達者の身分の得喪が争いになることが予測される。

(2)継続雇用制度

 「確保措置」の1つであり、最も利用が予測されるのが、継続雇用制度(法9条1項2号)である。継続雇用制度とは、「現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度」であり、要は、希望者全員を雇用する制度である。雇用の方式は労働契約の延長でも定年退職後再雇用でもよく、雇用の形態も常用雇用に限らず、短時間勤務、有期雇用等でもよいとされている(04.11.4職高発第1104001号。以下、通達という)。但し、有期雇用については、法改正の趣旨(安定雇用の確保)に則り、原則として65歳まで更新されるものでなければならない(見解1Q3)。また、「確保措置」導入義務を負うのは現に雇用している企業(事業主)であるので、子会社等への転籍による雇用継続は、両者が一体として一つの企業と考えうる緊密性と明確性を有さない限り、9条違反となる(見解1Q4)。

 しかし、最大のミソは、過半数代表との労使協定により、「継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、前(9条1)項第2号に掲げる措置を講じたものとみなす」(法9条2項)とされている点である。要は、労使協定による「基準」に基づけば希望者全員を継続雇用する義務はないのである。しかも、09年3月末(300人以下の企業では11年3月末)までは、労使協定ではなく、就業規則で「基準」を定めうるとされている(附則5条)。

 但し、通達は、法改正の趣旨から「事業主が恣意的に継続雇用を排除しようとする」ものは、たとえ労使合意によるものであっても適法な「基準」とは認めないとして、「会社が必要と認めた者」、「上司の推薦がある者」等を不適法な例に挙げ、「基準」に具体性と客観性を求めている。これにかなう例として、『社内技能検定レベルAレベル』『営業経験が豊富な者(全国の営業所を3箇所以上経験)』『過去3年間の勤務評定がC以上(平均以上)の者』(勤務評定が開示されている企業の場合)が挙げられている(なお、見解2Q3。見解2Q9は、「協調性ある者」「勤務態度良好な者」との「基準」は法違反とまではいえないとするが、不当である)。また、職種、職位等により異なる「基準」を設定することは法違反とはならないとしている(見解2Q12。なお、2Q11)。

 翻って、「基準」がいかに客観的かつ具体的であったとしても、希望者全員雇用とみなす効力に見合うだけの水準が確保されねばならず、極く一部の者しか継続雇用されない「基準」は、法の趣旨に反し、9条違反である(同旨「第96回日本経団連労働法フォーラム」における仲井敏治弁護士発言。「経営法曹」144号54頁)。

 また、就規による「基準」は、「事業主が協定をするため努力したにもかかわらず協議が調わないとき」(附則5条1項)に限り認められるものであり、「例えば、使用者側が労働者側に一方的に提案内容を通知しただけといった場合などは該当しない」(通達)としている。

いずれにしても「基準」を巡っては、様々な点から紛争となることが予測される。

(3)有期雇用労働者

 有期雇用労働者には、改正法9条は直接には適用されない。但し、当然のことながら、有期雇用の実態が期間の定めのないものと評価される場合は適用される(見解1Q9)。

2 改正高齢法施行に伴う労働条件

 「改正高年齢者雇用安定法が求めているのは、継続雇用制度の導入であって、事業主に定年退職者の希望に合致した労働条件での雇用を義務づけるものではなく、事業主の合理的な裁量の範囲の条件を提示していれば、労働者と事業主との間で労働条件等についての合意が得られず、結果的に労働者が再雇用されることを拒否したとしても、改正高年齢者雇用安定法違反となるものではない」というのが厚労省見解である(見解1Q8)。再雇用の方式が主流となると予測され、労働条件は事実上、使用者が一方的に定めることとなる。雇用形態や所定時間の問題もあるが、何よりも重要なのは賃金であるところ、この点については年金や公的給付との関係も、押さえておかざるをえない。

 65歳未満の高齢者には、「特別支給の老齢厚生年金」(定額部分と報酬比例部分から成る)が支給されるが、在職中の場合には、「在職老齢年金」としてとして賃金との調整がなされる。賃金(正確には「総報酬月額相当額」)と年金額との合計額が28万円以下の場合は調整(支給停止)はないが、28万円を超えるとその2分の1が支給停止となり、さらに、報酬月額相当額が48万円を超える場合は48万円を超える部分は別途全額支給停止となる。他方、雇用保険法61条に基づき、高年齢雇用継続基本給付金が、継続雇用による賃金月額が定年退職時の賃金日額の30日分の75%未満の場合に、一定の割合で支給される(61%未満の場合、支給賃金の15%)。また、社会保険等の加入資格により保険料も変化する。

 これらの諸事情をふまえての賃金決定になると思われるので、単純な額面賃金の比較だけでは不十分な場合もあり、また、実質的に損をすることもあるので、正確な知識に基づく十分な検討が必要である(厚労省は「高年齢者雇用アドバイザー制度」を設けている)。また、繁雑さを避けるための固定残業代制度、成果主義賃金制度、さらには年金の調整を避けるための請負契約など、年金制度とも絡んだ様々な契約・条件が設定されうるので、十分な研究が必要である。

 60歳定年法制時の事案であるが、「高年齢者雇用安定法は、従前の定年から60歳までの間における賃金その他の雇用条件をどのようにするかについては、明文の規定を設けておらず、労使の交渉に委ねる趣旨と解されるので、同法の改正法の施行後における旧定年時から60歳までの間の労働者の雇用条件は、特段の事情がない限り、旧定年時の直前の雇用条件が継続し、労働者は、使用者に対し、旧定年に達する直前の月の賃金と同額の賃金請求権を有すると認めるのが相当である」とした例(一橋出版事件・東京地裁判決平15. 4. 21労判850号)がある。

(担当 鴨田哲郎)

以 上