倒産法制・新会社法

2005/10/1

第1 沈静化する企業倒産

1 倒産件数の推移と負債総額

 1991年のバブル経済崩壊後、デフレを伴う構造不況と銀行の不良債権処理などによって、戦後最悪の高水準の企業倒産が続いていたが、2003年、2004年と沈静化してきている。

 2002年は全国の企業倒産件数は19,458件でバブル崩壊後では前年を抜いて最悪の水準となり、84年の20、841件に次ぐ戦後2番目の件数を記録した。ところが、翌2003年は16,624件(前年比2800件減)と減少し、2004年には、13,837件と2年連続で減少し(前年比2787件減)、10年ぶりに1万4000件を割り、戦後24番目の水準にとどまって、企業倒産は全国的に沈静化の傾向となっている。倒産減少の要因としては、「借換え保証」などの公的支援や再生メニューなどが推測されているが、構造的不況に苦しむ企業は依然として多く、自律的回復によって倒産を回避しているとは言いがたい状況だとみられている。

 負債総額も、2004年は7兆9273億円で、前年比32.6%減、4年連続の前年比減が続き、8年ぶりに10兆円割れを記録した。負債1000億円以上の大型倒産は富士カントリー㈱(負債1800億円)など4件にとどまり、倒産件数の減少とともに、倒産企業規模の小型化も負債減少の要因となっている。上場企業の倒産は、大木建設㈱など12件であり、2年連続で前年比減である。

 とはいっても、バブル経済崩壊以後現在も依然として1万3,000件を超える高い水準の倒産が続いているので、引き続き警戒が必要である。担保法制の改悪もあり、倒産した後の労働債権の回収もますます難しくなっている。

2 倒産の主因と業種、地域別動向

 倒産の主因別に見ると、販売不振が最も多く(9255件)、2位が放漫経営(1002件)、3位が業界不振(613件)、経営計画の失敗(298件)、売掛金回収難(294件)と続き、不良債権の累積(161件)などとなっている。不況型倒産が依然として多く、10,325件にのぼり、構成比は74%を占めている。

 業種別では、全ての業種で前年比減となり、特に建設業や製造業の減少が目立っている。

 地域別には、全ての地域で前年比2桁の減少率となり、特に北海道、北陸、四国、九州などが低水準となっている。

3 倒産態様の特徴

 10年以上前は、倒産処理の方式として、法的な倒産処理(破産、会社更生、和議など)は少なかったが、現在では法的倒産処理が増えている。90年には490件と全体の7.6%に過ぎなかったのが、2003年には全体の約40%を占め、2004年には43.5%を占めるまでになっている。

 その内訳は、破産が5053件(前年比6.1%減)で過去最高の昨年5384件から5年ぶりの前年比減少となったが、依然として一番多い。民事再生は661件(前年比22.5%減)と大幅に減少しており、3年連続して前年を下回り、同法施行1年目の2000年(550件)以来4年ぶりの700件割れとなった。特別清算は276件で前年(261件)から5.7%増加した。これに対して、任意整理は7808件で前年(10、077件)比22.5%減、4年連続して前年を下回り、14年ぶりの8000件割れとなり、減少が目立っている。不渡り倒産が少なくなっている。(以上、帝国データバンク「2004年報全国企業倒産」

第2 迅速化する法的倒産処理

 政府は、不良債権処理の抜本的な解決のために産業再生を重要な政策課題とし、産業再編・事業の早期再生を図るための施策として、民事再生法の活用や会社更生法の改正など倒産法制の改正を挙げ、90年代後期以降次々と企業再編法制と倒産法制の立法・改正を実施してきた。いわば、倒産法制を産業再生のための「道具」とする戦略を強力に推進している。その眼目は、「倒産処理に早期に着手し、迅速に『事業』を再生する」という点にある。

 例えば、家電小売業・卸業のマツヤデンキ(03年9月)は、まず民事再生を申立て、その直後に産業再生機構の支援決定がなされ、その2ヵ月後に買取決定がなされて、それからわずか数週間のうちに事業再生ファンドが支援者として決まった。法的手続きに入ってから2ヶ月余りの出来事である。

 民事再生手続きにおいては、旧和議法の時代には5ヶ月かかっていた開始決定までの期間がわずか2週間に早まり(東京地裁)、9割以上が開始決定されている。申立から再生計画の認可・可決まで8ヶ月程度に早まっている。

第3 倒産法制改正の仕上げ

1 会社更生法の改正

 会社更生法は、企業倒産事件を迅速かつ円滑に処理することを目的として全面改正され、改正法が2003年4月から施行された。事業継続を内容とする更生計画案が作成、可決、認可される見込みがないとの棄却事由がない限り、原則として手続が開始される。労働組合の関与についても大幅に拡充され、旧法では更生計画案の意見聴取しか規定されていなかったが、改正法では手続の各段階で意見聴取や通知がなされるようになった。労働債権の取り扱いについては、社内預金は旧法では全額共益債権と解されていたが、改正法では更生手続開始前6ヶ月間の給与の総額に相当する額又はその預かり金の額の3分の1に相当する額のいずれか多い額を共益債権とする旨規定された。

「企業」自体の更生(存続型)だけでなく、事業を切り売りすることによって当該「事業」(の一部)のみ生き残らせることを意図する更生(再編型)も想定強化されている。既に民事再生法では、再生計画認可前の営業譲渡が制度化されていたが(同法42条・43条)、改正会社更生法も、更生計画認可前の営業譲渡を制度化し(改正法46条2項~9項)、民事再生法と同様の仕組みとされた。本来は再建計画に基づいて行われるべき営業譲渡が、手続開始後再建計画によらないで、裁判所の許可のみで可能となった。その理由として、営業価値の劣化を避け迅速に営業譲渡を実施する必要性があるとされている。会社更生や民事再生など法的な再建手続開始前の段階でスポンサー(企業もあれば、再生ファンドもある)が選定され、債務者とそのスポンサーとの間で取り決められたアレンジメントに基づき、手続開始後速やかに営業譲渡がなされる事例が多い。

 また、更生を目的とするよりも、将来的に事業を停止することを前提に、急激な事業停止によるショックを避けるために会社更生が利用される場合(解体清算型)もある。

 管轄については、本店所在地を管轄する地方裁判所のほか、これに加えて、親会社や連結子会社のいずれかに更生事件が係属している裁判所や、東京地方裁判所、大阪地方裁判所にも管轄が認められることになった。労働組合にとっては、全国的な対応が必要となるケースも想定される。

2 破産法の大改正

 破産手続の全般的な迅速化・簡素化、個人破産・免責手続の見直し等大改正がなされた。労働者・労働組合に影響のある改正事項としては、従来、租税債権が全面的に優先していたのが一部修正され、①破産手続開始前3ヶ月間の給料、②破産手続の終了前に退職した者の退職手当の請求権のうち3ヶ月間の給料に相当する額について、財団債権に格上げされた(149条)。これに対し、租税債権は優先範囲が縮小され、破産手続開始時点で納期限が到来していないか又は納期限から1年を経過していないものに限定して財団債権とされる(148条)。

 また、配当を受けるまでには時間がかかるので、住宅ローンの支払い等による困窮に対応するため、優先的破産債権である賃金、退職金について、届出をした労働者がその弁済を受けなければ生活の維持を図るのに困難を生ずるおそれがあるときは、裁判所が随時弁済を許可する制度(弁済許可制度)が設けられた(101条)。

 改正法では、旧法ではなかった労働組合の破産手続きへの関与と意見聴取が規定された。すなわち、破産手続開始決定の労働組合への通知(32条3項4号)、営業譲渡についての労働組合の意見聴取(78条4項)、債権者集会期日の通知(136条3項)などである。また、破産管財人は「給料の請求権や退職手当の請求権を有する者」に対して情報提供努力義務があることが規定された(86条)。労働者と労働組合は、この規定を根拠にして破産管財人に破産情報の提供を求めることができる。

3 特別清算規定の改正、会社整理の廃止

 次の項で述べる新「会社法」の制定に伴い、民事再生法の制定によって存在意義を失っていた「会社整理」は新会社法には盛り込まれず、廃止された。特別清算の規定も大幅に改正された。

  特別清算とは、解散して清算中の会社が、清算の遂行に著しい支障を来たすべき事情がある場合や債務超過の疑いがある場合に(会社法510条)、清算人等が申し立てて、裁判所の監督の下に行われる清算手続である。破産と同じく清算型の倒産処理手続であるが、破産と異なり、事前の債権確定手続が不要で、債権者集会において法定多数の同意(4分の3から3分の2に改正)を得た協定に基づいて清算手続を進めることにより、厳格な破産手続きと比べて手続に要する費用と時間とを節約でき、債権者の合意を中心に進められるという利点があるとされる。そこで、親会社が子会社を清算する場合に多用され、近年特別清算事件は増加している。

  特別清算開始命令後の労働債権の取扱については、旧法下では、労働債権も、裁判所の許可がない限り、弁済を禁じられていた(旧商法438条)。しかし、新法では、開始の効力を受けるのは清算会社の債権者の債権(「協定債権」)であり、「一般の先取特権その他一般の優先債権がある債権」等は協定債権から除かれた(会社法515条3項)ので、労働債権は特別清算手続外の債権として扱われ、随時弁済を受けることができるし、労働債権に基づく強制執行等も失効しない。ただし、その裏返しとして、裁判所は、債権者の一般の利益に適合し、かつ先取特権を実行した労働債権に不当な損害を及ぼすおそれがないものと認めるときは、相当の期間を定めて担保権実行手続の中止を命ずることができると規定された(会社法516条)。

第4 「会社法」の制定等~ 会社法制の大改定

1 新・会社法の制定

 2005年6月29日、「会社法」と「会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(「整備法」)が成立した。この新「会社法」は、現行の商法第2編、有限会社法、株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律などを1つの法典として再編成したものである。これによって、有限会社法等が廃止となり、これまでの商法における会社法関連の規定内容が抜本的に変わった。

 新「会社法」は、会社法制の現代化を図るという目的で制定され、主な改正の内容としては、①株式会社制度と有限会社制度の統合、有限会社型株式会社(取締役会非設置会社)の創設、②最低資本金制度の見直し、③会社組織再編行為にかかる規制の見直し、④株式・新株予約権・社債制度の改善、⑤株主に対する利益の還元方法の見直し、⑥取締役の責任規定の見直し、⑦株主代表訴訟制度の厳格化、⑧大会社における内部統制システム構築の基本方針決定の義務化、⑨会計参与制度の創設、⑩会計監査人の任意設置範囲の拡大、⑪「合同会社」制度の創設など、会社法制全般にわたって広範かつ抜本的な大改正であり、会社実務と雇用関係に与える影響は極めて大きいものとなっている。 

2 合同会社の創設

 合同会社(日本版LLC。リミテッド・ライアビリティー・カンパニー)が創設され、合資会社及び合名会社と共に「持分会社」として内部関係規律等に関する規定が一体化された。新設された「合同会社」は、株式会社と同様に、社員が1人のみでも設立が認められ、出資は金銭その他の財産のみに限られ(労務出資を認めない)、全額払込み主義が取られるが(会社法578条)、社員(出資者)は債権者(会社の債務)に責任を負うことはない(間接有限責任)。持分会社の社員は、定款の規定に関わらず「やむを得ない事由があるときは、いつでも退社することができる」(同法606条3項)。しかも、持分全額の払い戻しを保障するものであり、退社員は会社財産に強制執行をかけてでも持分全額の払い戻しを受けられる。

  合同会社は、短い存続期間を前提としたプロジェクト・ベースの事業に用いることに適しているとされており、簡便に設立できて、しかも責任もなく、いつでも出資金を全額引き上げて簡単に会社を辞められるということであるから、継続的雇用関係における「使用者」の雇用責任など著しく軽視されている。また、各社員に完全な退社の自由が認められるとすれば、大きな持分を有する社員が退社をした場合、会社を解散しなければならなくなるか、あるいは事実上事業継続が不可能となって倒産閉鎖という事態が続々と起こる可能性も否定できない。現在でも、ベンチャー企業の経営者で雇用責任を負うつもりなど全くないような事例が多数あるが、合同会社の創設によって、ますます「雇用のモラル・ハザード」を招いてしまうことが懸念される。倒産時の労働債権回収はかなりの困難が予測され、後記の改正・債権譲渡特例法がこれに拍車をかけよう(合同会社には、みるべき不動産等存しないのが通例と思われる)。退社を認める「やむを得ない事由」の解釈は厳格に解されるべきである。なお、法人格は有しないが、「実務上は法人に比べて不都合な点はほとんどない」といわれるLLP(有限責任事業組合)は既に、05年8月、スタートしている。

3 改正債権譲渡特例法の施行

 動産及び債権の譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の改正法が05年10月に施行される。改正法は、担保目的の動産譲渡及び債務者不特定の将来債権の譲渡についての登記制度を創設し、登記による対抗要件の取得を認めるものである(04年版白書24頁参照)。一般企業はもちろん、LLCにあっては、かかる財産しか供担保しえないと思われ、増々労働者と一般債権者が害されることとなろう。

(担当 棗 一郎)

以 上