改定派遣法労使協定方式の関係省令案要綱等の答申に対する声明
2018/12/11
改定派遣法労使協定方式の関係省令案要綱等の答申に対する声明
2018年12月11日
日本労働弁護団 幹事長 棗 一郎
労働政策審議会の職業安定分科会・雇用環境・均等分科会同一労働同一賃金部会(守島基博部会長)は、2018年11月27日、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備及び経過措置に関する省令案要綱」等についての厚労大臣の諮問を受け、「おおむね妥当」と答申した。
しかしながら、改定された労働者派遣法の労使協定方式に関する関係省令の内容や議論を見ても、派遣労働者の待遇改善に資するとは到底感じ得ない。
まず、改定労働者派遣法は、いわゆる「同一労働同一賃金」を実現するため派遣労働者と派遣先労働者との均等均衡待遇が原則であり(改定派遣法30条の3)、労使協定方式(改定派遣法30条の4)は例外である。このことは参議院厚労委員会附帯決議34の第1項でも明記されている。それにもかかわらず、この原則例外が派遣元指針及び派遣先指針に全く明記されていない点は重大な問題であるので、直ちに明記するべきである。
次に、労使協定方式における派遣労働者の賃金を取り決める際の「同種の業務に従事する一般労働者の賃金水準」について、賃金構造基本統計調査を用いる際に、同調査の勤続0年には中途採用者も含まれるという理由で、学歴計の初任給との差として12%を一律減じる調整を行っている。その結果、職業分類によっては、時給換算した額が最低賃金を下回る職業もあり、労使協定方式における派遣労働者の賃金が現在の賃金よりかえって低下し、最低賃金水準となることが大きく懸念され、派遣労働者の待遇改善のための法改正とは全く矛盾する。また、賃金構造基本統計調査等の政府が示す統計以外の独自統計を用いる場合の標本数は概ね30以上との説明も部会でなされたが、僅か30という標本数で一般の労働者の賃金水準とすることも妥当ではない。
また、公益委員からは労使協定は労使自治に委ねた方がよいという旨の発言もなされた。しかしながら、実際の労働現場では、労働者の過半数代表の選出手続が適正に行われず、その手続が形骸化して労使協定における労使自治が機能していないというのが現実である。また、労使協定方式における派遣労働者の待遇決定について最も関心のある当該派遣労働者の意見や利益を過半数代表者の選出手続に十分に反映させ、派遣労働者の待遇改善を担保できるような仕組みも制度上特段整えられていない中で、単に労使自治と言って労使協定に委ねても派遣労働者の待遇改善には全く繋がらない。
そして、派遣労働者に関する同一労働同一賃金ガイドラインは、有期パート労働者の部分をそのまま派遣労働者に引き写したに過ぎず、派遣労働者の実態を反映したものとなっておらず、派遣労働者の待遇改善に役立つものとなり得るか、大いに疑問である。
なお、働き方改革関連法に関する同一労働同一賃金部会の議論は本年8月より開始されたが、同部会において今般諮問が答申されるまで、各部会の開催日における議事録は公開されていなかった。市民には知る権利(憲法21条)が存し、部会における議論の内容が速やかに議事録により公開され批判を受けることが適切な制度設計に資するものである。よって、議事録は速やかに公開されるべきである。
日本労働弁護団は、同一労働同一賃金部会の議論に先立つ2018年8月29日、「働き方改革関連法『同一労働同一賃金』関連省令等に関する意見」を発表したが、引き続き、今般答申された省令・指針等について、派遣労働者を含め非正規労働者の実効的な待遇改善が実現される内容の改定を求め続けていくものである。