女性活躍推進法及び男女雇用機会均等法の見直しに向けた意見書

2018/12/6

女性活躍推進法及び男女雇用機会均等法の見直しに向けた意見書

2018年12月5日
日本労働弁護団 幹事長 棗 一郎

 本年11月19日に行われた厚生労働省労働政策審議会雇用環境・均等分科会では、厚生労働省の事務局から「女性の活躍の推進及びパワーハラスメント防止対策等の在り方について (取りまとめに向けた方向性)」と題する文書(以下「方向性」という。)が提出された。

 均等法は平成24年改正後6年を経過しての見直しになるが、この間、日本のジェンダー平等指数は世界114位と下がり続けており、とりわけ政治的分野と経済的分野における男女間格差が問題になっている。今回の見直しは、こうした現状を改革するため、女性活躍推進法の3年後の見直しを機会に行うものであるから、産業界・労働市場におけるジェンダー平等を促進する抜本的改革がテーマとされるべきものである。しかるに、この「方向性」は、そうした時代の要請に応えるものではなく、些末な見直しにとどめて肝心要の課題はすべて水に流してしまうという点で、重大な問題を含んでいる。このような内容が「取りまとめに向けた方向性」として取りまとめ、労働政策審議会における論議を、この枠組みのなかに限定するというものであれば、断固たる抗議を表明するものである。

 経済分野におけるジェンダー平等の促進は、何より男女間賃金格差の解消が求められる。政府はこれまで、「仕事の違い」「人事ローテーションの有無や幅」「雇用管理区分」に基づく格差について、ジェンダー差別として是正することにきわめて消極的であった。しかし、国際社会からは、この姿勢が手厳しく批判され、女性差別撤廃委員会やILOからは、性中立的客観的職務評価の手法に基づく男女間賃金格差の解消や、男女の分離を生じさせる「雇用管理区分」などによる間接差別の撤廃に効果的措置を講じるよう求められてきた。また、今般の「働き方」改革は、正規・非正規格差について事業主に「均等・均衡確保義務」とあわせて「説明義務」を課したが、男女雇用機会均等法にはそうした格差解消に向けた労使間での取り組みを促進するツールはいまだ不十分である。そして、女性の活躍促進法は制定されても、職場における具体的な男女間格差を解消する制度の確立は持ち越された形になっており、均等法上ポジティブアクションを義務付けることも課題になっている。これらの課題を全く無視して今回の「方向性」を取りまとめるようなことは到底許容できない。

 さらに、職場における暴力の根絶は、産業民主主義のみならず平和で民主主義的な社会を構築するために不可欠の課題になっている。差別と暴力(暴力も差別の一形態であるが)による連鎖を食い止めるためには、防止のための措置とともに、許容すべきでない暴力の禁止と被害者救済のための具体的な権利保障が不可欠である。
 来年のILO総会では、ジェンダーを含む、仕事の世界におけるすべての暴力・ハラスメントを禁止する条約が採択されようとしている中、消極的な小手先の改正で済ませることは許されない。

 今回の見直しは、日本の法制度がかかえるジェンダー平等に向けての諸問題を明らかにし、差別と暴力の根絶にふさわしい制度を確立することに向けられなければならないことをまずは指摘しておきたい。
本意見書は、労働政策審議会における議論がすでに行われていることに鑑み、「方向性」が示した内容に限って、緊急に意見を述べるものである。

1 女性活躍推進法について
(1) はじめに
 事務局文書では、行動計画策定及び情報公表を義務づける企業の範囲を101人以上300人以下の企業に拡大するとともに、履行確保として、情報公表義務違反や虚偽の情報公表に関して勧告に従わない企業名を公表できるようにすることを提言している。

 しかし、各企業における男女の賃金格差や労働条件格差、女性の就業環境上の問題点を明らかにした上で、企業に自主的な改善を要求するという法の建前の実効性を確保するには、企業に対する状況把握及び情報公開の範囲を思い切って拡大する必要があり、事務局文書の内容は、極めて消極的な見直しに留まっていると言わざるを得ない。

 以下の点についても法改正が必要である。

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