「不正競争防止法の一部を改正する法律案」に対する意見(要旨)

2009/3/18

「不正競争防止法の一部を改正する法律案」に対する意見(要旨)

日本労働弁護団

1 処罰範囲の大幅な拡大

(1) 使用・開示前の準備段階は処罰しないとの原則を改め、被害が未だ発生していない段階の不正取得行為全般を、法益侵害の危険性や行為態様の違法性の程度に関わらず、広く処罰する(営業秘密不正取得罪を新設)。

(2) 営業秘密を扱っていた従業員が、管理規定に反して媒体を持ち出したり、複製したり、あるいは消去義務を怠った場合に、やはり使用・開示前の段階でも処罰を可能とする(営業秘密不法領得罪を新設)。

(3) 現行法は「不正競争目的」を要件としているが、これを「図利加害目的」に大幅に緩和する。

2 労働者・労働組合への濫用の危険性と正当な権利行使・活動に対する萎縮効果

(1) 「営業秘密」を争うリスクは労働者側が負うことになる
「営業秘密」は、①秘密管理性、②有用性、③非公知性が要件とされているが、「営業秘密」は、技術情報、顧客情報、人事情報等広範なものを含みうる。現実には、使用者がひろく一般の企業内情報を営業秘密として一方的に指定し、労働者に対して労働契約上の義務として管理方法を強制している。労働者にとって「営業秘密」概念を争うことは、懲戒処分、民事上の損害賠償、さらには刑事上の犯罪に問われる覚悟を伴う。

(2) 濫用的に使われる危険性
労働者は、在職中、使用者の人的・物的体制の未整備から、使用者の指定した管理方法によらないで、自宅にコピーして持ち帰って作業を行ったりせざるを得ない場合も少なくない。このような場合、労働者が違反行為を繰り返しているような外観を持つこともある。労働者が「営業秘密」の持ち出しや複製について、情報管理者から黙示ないし口頭の了解を得ていただけの場合、許可を得ていたことを後日証明することは極めて困難である。処罰範囲の拡大は、使用者による濫用的な懲戒、損害賠償請求、刑事告訴や威迫行為を増長する危険がある。

(3) 正当な権利行使に対する萎縮効果
改正案が成立すると、「営業秘密」概念の限定機能が弱いことも相まって、労働者の自由な職業選択、労働者の内部告発、残業代の請求、人事異動や人事考課に関する権利主張、労災職業病の原因解明、労働組合への相談や労働組合の団体交渉等、労働者の正当な権利行使、労働組合の正当な活動に対して、強力な萎縮効果を生む。

以上