「労働政策審議会労働条件分科会の公益代表委員に関する申入れ」

2006/7/28

 

労働政策審議会労働条件分科会の公益代表委員に関する申入れ

06年7月28日

日本労働弁護団
会長 宮 里 邦 雄

厚生労働大臣 川 崎 二 郎 殿

1.労働政策審議会労働条件分科会の公益代表委員として、「使用者側代理人として多くの労働事件を担当してきた弁護士」を指名したことは、審議の公正の観点から不適切であることを当弁護団は重ねて指摘をし、貴職に申入れを行ってきた(01年11月9日付申入、01年11月27日付申入及び05年10月25日付申入)。
今次労働条件分科会は労働契約法の制定及び労働時間法の大「改正」という極めて重大な事項を審議する役割を負っており、労使の見解の対立も厳しい中、十分に慎重で適切な審議を行うためには公益委員に対する労使双方からの信頼は不可欠であり、公益委員には、真に公益委員にふさわしい役割が求められる。

2.しかるに、「使用者側代理人として多くの労働事件を担当してきた弁護士」(ことに、集団的労使関係事件において労働組合の代理人として活動した事例は皆無と思料される)の下記言動は、公益委員としてふさわしくないことはもとより、労使の信頼を得ることは極めて困難と考えざるをえない内容である。

(1). 登録型派遣労働者の雇用関係終了をめぐる紛争に関し、同弁護士は、派遣会社代理人として、当該労働者が所属する労働組合との団体交渉に臨み、3回の団交の後、具体的な期日として合意の上設定されていた第4回団交期日に先立ち、「団交における和解・合意は著しく困難であるとの結論に至」ったとして団交打切りを通告すると共に、「本件紛争の法的実態は集団的労使関係に基づく紛争ではな」いとして労働審判を申立てる旨を通知し、団交拒否の態度を貫いている(なお、労働審判においては、会社は本人及び組合に対し、本件申立等を理由に団交を中断したことについて遺憾の意を表す旨の調停が成立したとのことである)。
当該労働者が労働組合に所属し、その組合員である以上、当該労働者の雇用をめぐる紛争は個別労使関係の側面と同時に集団的労使関係の側面を有するのであって、使用者として個別労使紛争解決手段として労働審判の申立てをなすのは自由であるとしても、「集団的労使関係に基づく紛争ではない」と一方的に決めつけ、団交を拒否することは、使用者の要望のみに基づく偏頗な考え方であって、使用者代理人弁護士としての職務のあり方のみならず、およそ公益委員たるにふさわしい識見を欠くものといわざるをえない。

(2). 企業年金の改訂に関する訴訟に使用者代理人として関与し、説明経過に関する労働者側証人(労働組合委員長)に対する反対尋問において、同証人に対し「質問を聞いて下さい。シャーラップ」と述べ、裁判長より「黙れなどというのはやめてください」とたしなめられた。
かかる法廷での言動は、弁護士としての品位を疑わせるのみならず、公益委員としての適格を欠くことを明らかに示すものである。

(3). 福祉関係の事業場における、解雇事件(仮処分及び本訴)、退職強要等不当労働行為事件(県労働委員会)に使用者代理人として関与し、さらに団体交渉にも継続して代理人として出席しているが、使用者は、「組合の上部団体が10名出るから弁護士に出てもらうことにした」と虚偽の主張をしている(従来の上部出席者は2名)。なお、解雇の正当性や退職強要事実の不存在について使用者は全面的に争っているが、解雇事件については非違行為が認められないとして解雇無効の判決が、退職強要事件については、不当労働行為であるとして救済命令がそれぞれ出されている。
かかる訴訟活動等は、同弁護士の使用者側代理人としての立場性を明確に示すものである。

3.よって、労働法制の今後の審議にあたり、審議の公正を確保し、労使の信頼を得うる公益委員による適切な審議がなされるよう、同公益委員の更迭を含め、適切な対応をなすことを強く申入れるものである。