「労働者派遣事業と請負による事業との区分に関する基準」(37号告示)に関する疑義応答集についての意見書

2009/6/19

「労働者派遣事業と請負による事業との区分に関する基準」(37号告示)
に関する疑義応答集についての意見書

2009年6月19日

厚生労働大臣

日本労働弁護団
幹事長 小島 周一

1 はじめに

厚生労働省が本年3月31日に明らかにした「労働者派遣事業と請負による事業との区分に関する基準」(37号告示)に関する疑義応答集は、以下に詳しく述べるように, 告示の趣旨・内容に反する重大な記述があり, 読む者に告示の趣旨・内容を正確に伝えるどころか大きな誤解を生じさせるものである。
これがそのまま放置されるとすれば, 「偽装請負」をなくし労働者派遣法に基づく適正な行政を執行する責任のある厚生労働省の姿勢に重大な疑問を持たざるを得ない。上記の疑義応答集は, 直ちに見直され, 修正または撤回されるべきである。

2 告示の趣旨・内容

昭和61年4月17日労働省告示第37号は, 労働者派遣法の施行に伴い, 労働者派遣事業に該当するか否かの判断を的確に行う必要があることから, 労働者派遣事業と請負事業との区分を明らかにするために定められた基準である(第1条)。
 告示は, 請負の形式による契約により行う業務に労働者を従事させる事業主であっても, ①「次のイ, ロ及びハのいずれにも該当することにより, 自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。」(労働力の直接利用), 及び, ②「次のイ, ロ及びハのいずれにも該当することにより, 請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。」(請け負った業務の独立処理), この2つの要件のいずれにも該当する場合(2つの要件に該当するために, さらに, それぞれ, イ, ロ, ハの計6の項目(細目を含めれば10の項目)のいずれにも該当する場合)でなければ, 労働者派遣事業を行う事業主とする(第2条)。さらに, 前記2つの要件のいずれにも該当する事業主であっても, 法違反を免れるために故意に偽装されたもので事業の真の目的が労働者派遣を業として行うことにあるときは, 労働者派遣事業を行う事業主であることを免れることはできないとする(第3条)。
 この告示は, 従前からも, 請負事業主の労働者が注文者の事業場で業務に従事する場合には, 請負の形式をとっていても職安法が禁止する労働者供給事業に該当することが多いため, 職安法施行規則4条で労働者供給事業と請負との区分の基準を定めていたところ, 労働者派遣法の施行に伴い, 労働者派遣事業と請負との区分の基準を定める必要があるとして, 職安法施行規則4条の考え方に則り, 定められたものである。
上記告示の基本的内容は, 請負の形式でも, ①労働力の直接利用, ②請け負った業務の独立処理, という2つの要件をすべて満たさなければ, 労働者派遣事業とする。また, 上記2つの要件を満たすためには, 6項目(細目を含まれば10項目)のすべてに該当することが必要となる。そして, 上記2つの要件を満たしていても, 故意により偽装されたもので真の目的が労働者派遣である場合も, 労働者派遣事業とする, というものである。
したがって, 請負の形式をとっても, 上記2つの要件とそれを満たすための項目のすべてに該当することが明らかにならない限り, 労働者派遣事業(いわゆる「偽装請負」)とされる。1項目だけでも疑わしい場合や該当するかどうか判断できない場合は, 労働者派遣事業とされるのである。すなわち, 請負事業主の労働者が注文者の事業場で業務に従事するような場合には, 原則として労働者派遣事業と推定され, 上記2つの要件とそれを満たすための項目のすべてに該当することが明らかな場合に限り, 労働者派遣事業とはされない, というのが告示の趣旨である。

3 疑義応答集の基本的問題点

告示についての疑義応答集を作成するのであれば, 請負事業主の労働者が注文者の事業場で業務に従事する場合を念頭にして「偽装請負」をなくすために前記の内容の告示が定められているのであるから, 「このような場合には, 告示のこの要件または項目に該当するといえず, あるいは該当するかどうか疑いがあるので, それだけで「偽装請負」とされる」旨を説明することが重要である。そして, 「例外的にこのような事情が明らかになれば, そのことだけでは「偽装請負」とはされない」という事情が考えられる場合には, その旨を付加して説明することもありえるであろう。
しかし, 今回発表された疑義応答集のQ&Aは, 「このような場合は偽装請負になるか」という質問に「そのような場合は偽装請負にならない」, とか「それだけをもって偽装請負とは判断されない」と最初に答える内容が少なくない。前記の告示の内容からすれば, ①労働力の直接利用, ②請け負った業務の独立処理, この2つの要件とそれを満たすための項目のすべてに該当しなければ, 「偽装請負」(労働者派遣事業)となる。したがって, 「このような場合は偽装請負になるか」という質問に対し, 「そのような場合は偽装請負にならない」とまず答えること自体が誤りである。その点で, 疑義応答集のQ&Aは, 告示の趣旨・内容を取り違え, 原則と例外を逆転させているものが少なくない。
また, 疑義応答集のQ&Aの答えの中には, 外形上, 偽装請負の強い疑いがあるものとされてきた問題(発注者の労働者と請負労働者の混在など)について, 「それだけでは偽装請負と判断されない」と記述するものがあり, これは告示の趣旨・内容に反する重大な問題である。
さらに, 疑義応答集のQ&Aの質問の中には, 前記の2つの要件のうち②請け負った業務の独立処理の要件を満たすのか問題となるはずの事例を取り上げておきながら, 答えでは, ①労働力の直接利用の要件との関係のみを述べて「偽装請負にはあたらない」と記述するものがあり, これも大きな問題である。
以下, 疑義応答集のQ&A15項目のうち, とくに問題の大きい項目について, 具体的に述べる。

4 「発注者からの注文(クレーム対応)」について

Q&A2項は, 「発注者からの注文(クレーム対応)」と題し, 「欠陥商品が発生したため発注者が請負事業主の作業工程を確認したところ, 作業工程に原因があることがわかった場合, 発注者が請負事業主に作業工程の見直しや欠陥商品を製作し直すことを要求することは偽装請負となるか。」旨の質問を設定する。
その答えは「発注者から請負労働者への直接の指揮命令でないので, 労働者派遣には該当せず偽装請負にあたらない。ただし, 発注者が直接請負労働者に指示した場合は偽装請負と判断される。」旨を述べる。
 前記のように, 告示では, ①労働力の直接利用, ②請け負った業務の独立処理, の2つの要件を満たさなければ, 「偽装請負」(労働者派遣事業とされる請負形式)と判断される。ところが, Q&A2項では, 発注者から請負事業主への要求は, (直接請負労働者に指示しない限り)「発注者から請負労働者への直接の指揮命令でない」というだけで, ①労働力の直接利用の要件を満たすことを当然の前提としてしまっているばかりか, ②請け負った業務の独立処理の要件も問わずに, 「偽装請負にあたらない」と断言している。
 しかし, 請負とは仕事の完成を契約の目的とするものであり, 仕事の完成以前の作業工程は請負事業主が自ら決定し管理するものである。前記告示でも, ②の「請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。」という要件を定め, それに関する事項の一つは, 「自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて, 業務を処理すること。」としている。Q&A2項では, 質問で, 「発注者が請負事業主の作業工程を確認したところ」, 「欠陥商品の原因が作業工程にあることがわかった」としているが, 発注者が請負事業主の作業工程に介入して調査していること, 欠陥商品の原因は作業工程にあると発注者が判断していること, その判断による作業工程の見直しを請負事業主に要求していることを, 前提としている。そのこと自体, ②の要件に照らして問題が生じる。発注者が作業工程に介入して管理する権限があり, その権限にもとづいて作業工程の変更を要求することができるという関係にあるのであれば, ②の要件は満たさない疑いがある。しかし, Q&A2項では, ②の要件に何も触れず, 「偽装請負にあたらない」と断言しているのであり, 告示の考え方に反する内容になっている。

5 「発注者の労働者による請負事業主への応援」について

Q&A3項は, 「発注者の労働者による請負事業主への応援」と題し, 「発注者から大量の注文があり, 請負労働者だけでは処理できないときに, 発注者の労働者が請負事業主の作業場で作業の応援を行った場合, 偽装請負となりますか。」との質問を設定し, 「発注者の労働者が請負事業主の指揮命令下で請負事業主の請け負った業務を行った場合は, 労働者派遣(発注者が派遣元, 請負事業主が派遣先)に該当する。」旨を答える。
 しかし, ここで最も問題となりえるのは, 前記の②「請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。」という要件である。発注者からの注文を処理できずに発注者の労働者による作業の応援を受けるというのは, 注文主から独立して業務を処理する状況といえるのか, 前記②の要件を満たさない疑いが生じる。告示によれば, その問題を指摘すべきであるのに, Q&A3項はそれについて何も述べていない。

6 「管理責任者の兼任」について

Q&A4項は, 「管理責任者の兼任」と題し, 「請負事業主の管理責任者が作業者を兼任する場合, 管理責任者が不在になる場合も発生しますが, 請負業務として問題がありますか。」との質問を設定する。
その答えは, 「管理責任者が作業者を兼任して通常は作業していたとしても管理責任を果たせるのであれば, 特に問題はなく, 管理責任者が休暇等で不在の場合は代理の者が管理責任者の権限を行使できるようにしておけば, 特に問題はない。ただし, 作業者兼任の管理責任者が当該作業の都合で事実上は管理ができないのであれば, 偽装請負と判断される。さらに, 請負作業場に作業者が一人しかいない場合で管理責任者を兼任している場合は, 偽装請負と判断される。」旨を述べる。
 しかし, 答えに登場する「管理責任者が作業者を兼任して通常は作業していた」という状況自体が, 管理責任者としての実態がない外形を示している。そのような外形がある場合は, 偽装請負の疑いがあるから, 原則として偽装請負と判断されるが, ただし, 作業者兼任の管理責任者でも他の請負労働者の管理が実態としてできていると認められる場合には, その点では, 前記①の「労働力の直接利用」の要件を満たさないとはいえない, とするのが告示の内容に合致する。

7 「発注者の労働者と請負労働者の混在」について

Q&A5項は, 「発注者の労働者と請負労働者の混在」と題し, 「発注者の作業スペースの一部に請負事業主の作業スペースがあるときに, 発注者と請負事業主の作業スペースを明確にパーテーション等で区分しないと偽装請負になりますか。また, 発注者の労働者と請負労働者が混在していると, 偽装請負となりますか。」との質問を設定する。
その答えは, 「自己の労働者の管理を自ら行っていること, 請け負った業務を契約の相手方から独立して処理することなどの要件が満たされているのであれば, 両事業主の作業スペースがパーテーション等により物理的に区分されていなくても, 発注者の労働者と請負労働者が混在していたとしても, それだけをもって偽装請負と判断されるものではない。ただし, 発注者と請負事業主の作業内容に連続性がある場合で, 物理的に区分されていないことや混在していることが原因で, 発注者が請負労働者に必然的に指示を行ってしまう場合は, 偽装請負と判断される。」旨を述べる。
 この答えは, 次に述べるように, 告示の考え方に反する恣意的な内容である。
前記のように, 告示によれば, ①労働力の直接利用, ②請け負った業務の独立処理, この2つの要件を満たすための諸事項のすべてに該当しなければ労働者派遣事業(いわゆる「偽装請負」)と判断される。質問の「発注者の作業スペースの一部に請負事業主の作業スペースがある」状況も, 「発注者の労働者と請負労働者が混在している」状況も, 請負労働者は請負事業主独自の作業場で作業するのではなく, 発注者の作業場の中で発注者の労働者と請負労働者が作業するものであるから, 請け負った業務を独立処理しているといえるのか, 労働力を直接利用しているといえるのか, という2つの要件を満たすのかどうか問題となる。まして, 発注者の労働者の作業場所と請負労働者の作業場所が物理的に区分されていなければ, さらに, 発注者の労働者と請負労働者が混在しているのであれば, 請負事業主が独立して業務処理しているのか, 発注者から請負労働者への業務指示がされていないといえるのか, 強い疑いが生じるのは当然である。
 したがって, 発注者の労働者の作業場所と請負労働者の作業場所が物理的に区分されていないという外形, まして, 発注者の労働者と請負労働者が混在しているという外形があれば, 偽装請負と判断される可能性は強い。これらの外形は, 前記の2つの要件を満たすかどうかの判断にあたっての重要な手がかりである。ただし, 作業場所が物理的に区分されていなくても, 混在していても, 発注者の作業内容と請負事業主の作業内容が互いに独立していて連続性もなく, また, 発注者から請負労働者への業務指示がされないことが明らかであるなどの事情があるとして, 前記2つの要件を満たすと認められる場合に限り, 偽装請負と判断されないことになる。
 しかし, Q&A5項の答えは, 「(前記2つの)要件が満たされているのであれば, 両事業主の作業スペースがパーテーション等により物理的に区分されていなくても, 発注者の労働者と請負労働者が混在していたとしても, それだけをもって偽装請負と判断されるものではない。」旨を述べる。前記2つの要件が満たされているのであれば, 告示第2条により偽装請負と判断されることはない。しかるに, Q&A5項が, 「要件が満たされているのであれば」と書きながら, それに加えて, わざわざ「物理的に区分されていなくても, 混在していたとしても, それだけをもって偽装請負と判断されるものではない。」旨を書くのは, 極めて恣意的である。「物理的に区分されていないこと」, 「混在していること」は, 前記2つの要件に照らし偽装請負と判断される可能性が強い重要な手がかりである。これについて, 偽装請負と疑われる重要な外形となると説明するのではなく, 逆に「それだけをもって偽装請負と判断されるものではない。」旨を強調するのは, 告示の考え方に反し, 告示の内容を誤解させる重大な問題がある。
そもそも, 発注者の作業場の中で発注者の労働者と請負労働者が作業し, まして発注者の労働者と請負労働者が混在する場合は, 作業内容に連続性がないという状況は想定し難く, 作業内容に連続性があって発注者が請負労働者に業務指示を行っていることが推定される。にもかかわらず, 作業内容に連続性がある場合でも, 物理的に区分されていないことや混在していることが原因で発注者から請負労働者へ必然的に指示を行ってしまう場合のみ, 偽装請負と判断されるかのように, 偽装請負と判断される場合を狭く限定するかのような内容となっているのは極めて重大な問題である。

8 「中間ラインで作業する場合の取扱」について

Q&A6項は, 「中間ラインで作業する場合の取扱」と題し, 「製造業務において, 発注者の工場の製造ラインのうち, 中間ラインの一つを請け負っている場合に, 毎日の業務量は発注者が作業しているラインから届く半製品の量によって変動します。この場合には, 偽装請負となりますか。」との質問を設定する。
その答えは, 「自己の労働者の管理を自ら行っていること, 請け負った業務を契約の相手方から独立して処理することなどの要件が満たされているのであれば, 発注者の工場の中間ラインの一つを請け負っていることのみをもって偽装請負と判断されるものではない。具体的には, 一定期間において処理すべき業務の内容や量の注文に応じて, 請負事業主が自ら作業遂行の速度, 作業の割り付け, 順番, 労働者数等を決定しているのであれば, 偽装請負と判断されるものではない。ただし, 一定期間において処理すべき業務の内容や量が予め決まっておらず, 他の中間ラインの影響によって, ラインの作業開始時間と終了時間が実質的に定まってしまう場合など, 請負事業主が自ら業務の遂行に関する指示その他の管理を行っているとはみなせないときは偽装請負と判断される。」旨を述べる。これも, Q&A5項と同様に, 前記2つの要件が満たされているのであれば, 告示第2条により偽装請負と判断されることはないのに, 「要件が満たされているのであれば」と書きながら, それに加えて, わざわざ「発注者の工場の中間ラインの一つを請け負っていることのみをもって偽装請負とは判断されない」と強調しており, 極めて恣意的である。
工場の製造ラインの中間ラインであれば, 「一定期間において処理すべき業務の内容や量が予め決まっておらず, 他の中間ラインの影響によって, ラインの作業開始時間と終了時間が実質的に定まってしまう場合」が通常である。このため, 中間ラインの請負という形式は, 請け負った業務を注文者から独立して処理し, 労働者に対する業務遂行や労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うという要件を満たさないことが疑われる。したがって, 原則として偽装請負と判断されるが, ただし, 「一定期間において処理すべき業務の内容や量の注文に応じて, 請負事業主が自ら作業遂行の速度, 作業の割り付け, 順番, 労働者数等を決定」することにより, 業務を注文主から独立して処理し, 労働者に対する業務遂行や労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行っていると認められる場合に限り, 偽装請負とは判断されないということになる。
しかし, Q&A6項では, 上記の原則と例外を逆にするかのような書き方をし, 中間ラインの請負というだけでは原則として偽装請負とは判断されないかのような誤解を与える内容になっており, 極めて重大な問題がある。

9 「請負業務において発注者が行う技術指導」について

Q&A10項では, 「請負業務において発注者が行う技術指導」と題し, 「請負労働者に対して, 発注者は指揮命令を行ってはならないと聞きましたが, 技術指導等を行うと, 偽装請負となりますか。」との質問を設定する。
その答えは「発注者が(2つの)要件を逸脱して労働者に対して技術指導等を行うことはできないが, 発注者が請負労働者に対して行う技術指導等とされるもののうち, ア 請負事業主が発注者から新たに設備を借り受けた場合等に, 請負事業主の監督の下で, 労働者に設備の操作方法等の説明(実習を含む)を受けさせる場合, イ 新製品の製造着手時に, 請負事業主の監督の下で, 労働者に請負契約の内容である仕様等の補足的説明(実習を含む)を受けさせる場合等については, その行為が行われたことをもって偽装請負と判断されるものではない。」旨を述べる。
しかし, 発注者が請負労働者に対して技術指導等を行うことは, ①労働力の直接利用, ②請け負った業務の独立処理, の2つの要件を満たさず, 偽装請負とされるのが原則である旨をまず明記すべきである。
また, 技術指導等のうちでも, 「請負事業主の監督の下で」という条件があれば, 偽装請負と判断されないものがあると述べるのであるが, 「請負事業主の監督の下で」というのは抽象的な内容であり, 具体的にどのような場合を想定しているのか明らかにし, 偽装請負と判断されない範囲はそのような場合にのみに限定されることを明記すべきである。

10 「請負業務の内容が変更した場合の技術指導」について

 Q&A11項では, 「請負業務の内容が変更した場合の技術指導」と題し, 「製品開発が頻繁にあり, それに応じて請負業務の内容が変わる場合に, その都度, 発注者からの技術指導が必要となりますが, どの程度まで認められますか。」との質問を設定する。
 その答えは, 「請負業務の内容等について日常的に軽微な変更が発生する場合に, 直接発注者から請負労働者に対して変更指示をすることは偽装請負にあたる。ただし, 新製品の製造や新しい機械の導入により従来どおりの作業方法等では処理ができない場合で, 発注者から請負事業主に対しての説明, 指示等だけでは処理できないときには, Q&A10のア, イに準じて, 変更に際して発注者による技術指導を受けることは, 特に問題はない。」旨を述べる。
 しかし, Q&A10項と同様に, 発注者が請負労働者に対して技術指導を行うことは, ①労働力の直接利用, ②請け負った業務の独立処理, の2つの要件を満たさず, 偽装請負とされるのが原則である旨をまず明記すべきである。
そもそも, 新製品の製造や新しい機械の導入による作業方法等の変更について, 「発注者から請負事業主に対しての説明, 指示等だけでは処理できないとき」というのは, 請け負った業務を注文者から独立して処理することができないことを示し, ②請け負った業務の独立処理の要件(その中でも, 自己の責任と負担で準備, 調達する機械等により業務を処理するという項目及び自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて業務を処理するという項目)に該当しない疑いがある。