韓国労組法改正を通じた労働者・労働組合の権利の発展を追求する韓国労働界の闘いを積極的に支持する声明
2023/11/20
韓国労組法改正を通じた労働者・労働組合の権利の発展を追求する韓国労働界の闘いを積極的に支持する声明
2023年11月20日
日本労働弁護団幹事長 佐々木 亮
2023年11月9日、韓国の国会(一院制)にて、労働組合法(以下「韓国労組法」という)の改正法案(以下「本改正法案」という)が可決された。
本改正法案は、①労組法上の「使用者」を労働契約締結の当事者に限らず、実質的かつ具体的に労働条件を支配·決定できる地位にある者もその範囲において使用者とみなすこと(本改正法案2条2号後段新設)、②争議行為の対象を「労働条件の決定に関する」事項から「労働条件に関する」事項に拡大すること(同条5号)、③裁判所が労働組合の活動による損害賠償責任を認める場合、各損害の賠償義務者別に帰責事由と寄与度により個別に責任範囲を定めるようにすること(同3条2項新設)、④同損害に対する身元保証人の賠償責任を免除すること(同条3項新設)、などを内容とする。これらの改正はいずれも労働者・労働組合の労働基本権の保障に資するものである。
しかし、現行の韓国憲法では、国会を通過した法案が政府に移送された後、大統領が再議要求権(拒否権)を行使することができ、この場合、当該法案は国会で再議をしなければならず、この時は在籍議員の過半数出席と出席議員の3分の2以上の同意がなければ法律として成立しない(憲法第53条)。
尹錫悦大統領は、この拒否権を行使し、本改正法案の成立を阻止することを示唆しているという。現在韓国の国会の議席分布上、与党が3分の1以上を占めており、再議の結果、本改正法が否決される可能性もある。
韓国社会では、労働者が組合活動や争議行為をするということは、「ラクダが針の穴を通過すること」より難しいと言われてきた。元請会社が下請会社の労働者らの組織する労働組合に対して不当な支配介入をしたことが不当労働行為に当たると判断した判例(大法院2010年3月25日宣告2007ドゥ8881判決など)が存在するにもかかわらず、その後も元請会社が下請会社の労働者との関係で労組法上の「使用者」といえる場合があるか否かについての議論に決着がつかず、また、使用者が労働組合によるストライキその他の争議行為を不適法なものとして損害賠償請求訴訟を提起し多額の賠償金を求め、組合員個人及び身元引受人の財産を仮差押えまでする事案も生じていた。
今回の本改正法案は、労働者保護のために十分な内容であるとまでいえなくとも、下請会社で働く労働者や労働組合の争議権をはじめとする労働基本権を保護するという点で、労働者保護に向けて一定の前進をもたらすものであって、基本的人権たる労働基本権の実現に資するものである。
日本労働弁護団は、2023年8月、韓国の弁護士団体である「民主社会のための弁護士会」(通称「民弁」)が本改正法案の国会通過を求める声明(http://minbyun.or.kr/?p=55126)を発表し、日本全国の法律家に支持・支援を求めことを受け、同声明に賛同した。
尹政権が本改正法案に対して大統領拒否権の発動を示唆していることに対して、本年11月20日、民弁ほか14の法律家団体及び学術団体が呼びかけ人となり、その構成員などの個人が連名する「労働組合法2、3条改正に対する大統領拒否権行使に反対する全国法律家・教授・研究者1000人宣言」(http://minbyun.or.kr/?p=56756)が発表された。
日本労働弁護団は、同宣言に賛同するとともに、改めて、韓国労組法改正を通じた労働者・労働組合の権利の発展を追求する韓国労働界の闘いを積極的に支持する。