技能実習制度に替わる新制度において無用な転籍要件を設けることに対して断固として反対する緊急声明

2023/11/16

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技能実習制度に替わる新制度において無用な転籍要件を設けることに対して断固として反対する
緊急声明

2023年11月16日
日本労働弁護団幹事長 佐々木 亮

政府は、2022年11月22日、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」(以下、「有識者会議」という。)を設置し、技能実習制度及び特定技能制度の在り方について、技能実習制度を廃止し新たな制度を創設する方向性で検討を行っている。当弁護団は中間報告書が公表された際に、技能実習廃止後の新制度において人材育成目的を理由として転籍制限を残すこと、及び、来日する労働者に負担を課すことになる民間の送出し機関を通じた監理団体による団体監理型の受入れのあり方を存続させることについて批判をしたところである。

本日時点において公表されている最終報告書のたたき台においてはこれらの点について抜本的な見直しがなされていない。そのため、技能実習制度において問題になったように、来日する労働者に対して、債務労働に陥らせ、声を上げることができずに我慢して働き続けることを強いる危険性がある。早急に見直しが図られるべきである。

ところで、転籍制限について、有識者会議の事務局案は、2023年11月8日に開催された第14回会議において、本人の意思に基づく転籍について、就労期間が1年を超えた場合に、技能検定試験基礎級等及び日本語能力A1相当以上の試験に合格していて、転籍先となる受入れ機関が、例えば在籍している外国人のうち転籍してきた者の占める割合が一定以下であることなど、転籍先として適切であると認められる一定の要件を満たすものであれば認めるものとしていた。そもそも、憲法上保障されている労働者の職業選択の自由(憲法22条1項)を制限するこのような要件について当弁護団としては異論があるところであるが、現在の技能実習制度よりも前進する制度設計ではありうる。

しかしながら、有識者会議の事務局は、2023年11月15日に開催された第15回会議において、突如として、何の理由付けもなく、受入れ分野の業務内容に照らして計画的な人材育成の観点から1年を超える期間、同一の受入れ機関での育成を継続する必要があると認められ、かつ、受入れ機関に対して就労開始後1年を経過した後には昇給その他待遇の向上等を義務付ける場合には、最大2年間、本人の意思による転籍を認めないという案を示した(同会議資料)。

すでに報道されているとおり、第14回会議までに示された案に対しては、自民党の外国人労働者等特別委員会において、複数の出席者から「地方から人材が流出する」、「転籍を認めるのが早すぎる」、(転籍制限期間として)「2年は必要」などの意見が上がったという(朝日新聞デジタル2023年10月20日https://www.asahi.com/articles/ASRBN5VVBRBNUTIL012.html)。このような意見は、現在の技能実習制度が原則として3年間転籍することができないことを前提にして、地方や中小企業において低賃金による人材確保のために活用されているのであるからそれを無理に変える必要はない、ということを根拠にしているものと思われる。

もっとも、そのような意見は労働者の転籍の自由を制限するための合理的な根拠とはなり得ない。第15回会議において有識者会議の事務局が示す案は、このような自民党関係者の声に押しきられてしまったものと言うほかない。また、本人の意思による転籍についてこのような要件を追加して制限する根拠は何ら存在しない。

労働者受入れにおける制度設計において重要なのは、労働者の権利が不当に制限されないことである。これまでに示された案もさることながら、第15回会議において示された案は、技能実習制度が技能実習生の転籍を制限してきたために、数々の人権侵害の温床となってきたことを省みない無謀な提案だと言わざるを得ない。

当弁護団は、有識者会議事務局に対して、本人の意思による転籍について第15回会議において示した案を早急に撤回し、転籍に関する無用な要件を設けないような制度設計をすることを求める。

以上