「緊急事態宣言」期間中の適切な補償を求める緊急声明
2020/4/20
現在、新型コロナウイルス感染症の蔓延により、緊急事態宣言が出され、各事業および労働者は休業を余儀なくされています。感染防止の観点から自粛要請は否定されるものではありませんが、労働者の生活がかなり脅かされているのも現実です。そのため日本労働弁護団は、労働者の生活を守るため適切かつ積極的な補償を求めて、下記緊急声明を出しました。
【文書ファイル】(PDF)
「緊急事態宣言」期間中における労基法26条に基づく休業手当の支払及び
事業者に対する適切な補償を求める緊急声明
2020年4月20日
日本労働弁護団
幹事長 水野 英樹
政府は、2020年4月7日、新型インフルエンザ等対策特別措置法32条1項(同法附則1条の2による読み替え後)に基づき、新型コロナウイルス感染症(以下、「新型コロナ」という)の蔓延防止等のため、緊急事態宣言を発し、同月8日、同宣言は効力を生じた(なお、同月16日、緊急事態宣言の対象区域は全国に拡大された)。そして、同宣言後、対象都道府県の知事は、同法45条1項に基づき住民に対する外出しないことの要請、及び、同法24条9項に基づき事業者等に対する協力の要請を、それぞれ行っている。
この間、上記の各要請や、緊急事態宣言前後における事業者における「自粛ムード」のため、労働者は休業を余儀なくされており、当弁護団が実施しているホットラインには、「自分には休業手当は支給されるのか」「会社が休業手当すら支払ってくれず生活できない」という相談が殺到している。
当弁護団は、新型コロナの感染拡大が続く非常時において、政府及び各都府県による要請を否定しないし、むしろ、当該要請に基づき、外出を自粛するなど、新型コロナの感染拡大防止に積極的に取り組むべきであると考える。
しかしながら、当該要請に基づき労働者が休業を余儀なくされることによって労働者の生活が脅かされるようなことがあってはならず、適切かつ積極的な補償がなされるべきである。
そもそも、緊急事態宣言が効力を有する間における事業者による休業は、法的に強制されたものではなく休業の要請であるから、「使用者の責に帰すべき事由による休業」(労基法26条)に該当するものと考えるべきである。すなわち、労基法26条の定める「使用者の責に帰すべき事由」は、使用者の故意・過失または信義則上これと同視すべきものよりは広く、民法上は使用者の帰責事由とはならない経営上の障害も天災事変などの不可抗力に該当しない限りはそれに含まれるとするのが通説である。そして、都府県知事は事業者に対して「要請」をしていることに止まるものであるから、緊急事態宣言を理由とする事業者における休業期間中も、当該事業者は、同事業者が雇用する労働者に対して休業手当(労基法26条)を支払う必要があるものというべきである。
ところが、企業の休業補償に対する認識不足、急激な経済活動縮小による労働者に対する休業手当を含めた事業者の資金繰りの困難、休業手当を支払い雇用を維持した企業に対する支援である雇用調整助成金の手続の煩雑さ・遅さなどから、労働者に対する休業手当の支払が適切になされていない現状がある。政府はかかる現状を早急に改善するための政策を迅速に実行することが不可欠である。
まず、政府は、休業手当の支払は罰則付で強制され(労基法120条1号)、違反に対しては付加金(労基法114条)という制裁もあるなど、労働者の生活の保障の点から、その支払が極めて重要なものであることを企業に対して更に徹底し、その支払が確実に行われるように周知するべきである。
また、事業者が労働者に対する休業手当を支給することとの関係では、政府が雇用調整助成金(雇用保険法62条、雇用保険法施行規則102条の3)の助成率を休業手当額の100%に引き上げた上で日額上限も撤廃し、事業者に対して雇用調整助成金の判定基礎期間の大幅な短縮による速やかかつ十分な支給を実施することによって、資金繰りが悪化する可能性がある事業者も、労働者に対して休業手当を含む補償を実施することができる。もっとも、報道によると、本年2月から4月3日までの間の雇用調整助成金の支給決定件数は2件に止まっており、迅速かつ十分な支給決定がなされてきたとは到底言えない。これでは十分な手元資金を有している事業者しか利用できない。また、申請は窓口または郵送でしか受け付けられず、休業等実施計画届など面倒な申請書類も複数必要で手続上煩瑣であることも、受給申請を妨げている。より速やかかつ十分な支給をすることができるよう、政府には、さらなる要件の緩和や申請手続の簡素化やオンライン化、そしてこれらによる迅速な支給決定が求められている。
そして、事業者が雇用調整助成金による助成をうけたとしても、固定経費等による支払いは免れず、資金繰りにあえぐ事業者も続出することが予想される。このような事態を避けるために、政府の事業者に対する給付金制度の実行も速やかにかつ確実に事業者に対して行い、必要に応じて制度の要件緩和や給付額の拡張も検討するべきである。
これらのような、政府による積極的な事業者または労働者に対する補償の実施によって、労働者の生活保障がなされることはもちろん、事業者の事業継続性が維持され、それにより労使間の雇用関係が維持されることにもつながるのである。
日本労働弁護団は、全事業者に対して、緊急事態宣言によっても労働者に対して労働基準法26条に基づく休業手当を全額支払うことを求めるとともに、政府にも、いまこそ、迅速かつ積極的に、労働者だけでなく、全事業者に対しても適切な補償をすることを求める。
以 上
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