賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会に対する申入れをしました
2018/12/30
日本労働弁護団は、12月28日、賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会に対する申入れをしました。PDF
申入書
2018年12月28日
賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会
座長 岩村正彦 殿
日本労働弁護団幹事長 棗一郎
第1 申入事項
1 貴検討会においては、早急に、賃金等請求権の消滅時効の在り方に検討作業を終了させ、結論を示すべきである。
2 今後の賃金等請求権の消滅時効の在り方について、少なくとも、次の事項を明確にすべきである。
(1) 賃金等請求権の消滅時効の期間について、起算点を民法の新たな定めと一致させた上で、消滅時効期間を5年間とすること。
(2) 施行日については、民法改正の施行日と同一とすること。
(3) 新たな消滅時効制度の適用対象に関しては、施行日以降に締結した労働契約に基づく賃金等請求権のみを適用対象とするのではなく、施行日以降に発生した賃金等請求権を適用対象とすること。
第2 申入れの理由
1 申入事項1(早急な検討作業終了、結論提示)について
2017年12月26日に貴検討会の第1回検討会が開催されて以降、間もなく1年が経過しようとしている。
賃金等請求権の消滅時効の変更は、従前、時間外割増賃金の不払いその他の法令に適合しない賃金等支払を行ってきた使用者に対し重大な影響を及ぼすものであるから、その内容を早期に確定させた上で、施行日までに相当な期間を置き、これらの使用者に対し是正のための時間的余裕を与える必要がある。
民法の新たな時効制度の施行日が近づいているにもかかわらず、貴検討会における検討作業は著しく遅滞しており、この遅滞は、時間外割増賃金の不払いその他の法令に適合しない賃金等支払を行ってきた使用者に対し是正のための時間的余裕を与えない結果を生じさせ、混乱の原因となりかねない。
よって、貴検討会においては、早急に、賃金等請求権の消滅時効の在り方に検討作業を終了させ、結論を示すべきである。
2 申入事項2(あるべき消滅時効制度)について
(1) 消滅時効の期間
今次の民法改正においては、現行民法が債権の種類毎にまちまちの消滅時効期間を定めていたため、一般市民には制度内容が判りにくく、市民生活上の支障を生じさせていたことの反省を基礎にして、統一的な消滅時効期間を定めることとされた。
この民法改正の趣旨・目的は、法制審議会民法(債権関係)部会及び国会での審議過程で繰り返し詳細に明らかにされている。この民法改正の趣旨・目的に照らし、賃金等請求権のみが、一般的な民事上の請求権と異なる消滅時効期間を定めることは、著しく妥当性を欠くばかりか、一般国民にとって最も身近な債権である賃金等について特別な例外を設けることになり、民法改正の趣旨・目的(一般市民にとってわかり易い統一的時効制度の創設)を著しく減殺させるものである。
とりわけ、労働者に該当しない請負人等であって労働者と同様に労務を供給する者の労務報酬請求権の消滅時効期間が5年となるにもかかわらず、労働者の賃金請求権等の消滅時効期間を5年より短縮することには、合理性・必要性を見いだすことができない。
よって、賃金等請求権の消滅時効の期間について、民法改正と平仄を合わせ、起算点について民法の新たな定めと一致させた上で、消滅時効期間を5年間とするべきである。
(2) 施行日について
前掲(1)と同じ理由により、賃金請求権等の新たな消滅時効制度の施行日について、民法改正と平仄を合わせるべきである。
(3) 新たな消滅時効制度の適用対象について
第2回検討会においては、事務局から、新たな消滅時効制度の適用対象に関して、施行日以降に発生した賃金等請求権を適用対象とするのではなく、施行日以降に締結した労働契約に基づく賃金等請求権のみを適用対象とすることが可能である旨の説明がなされている。これは、改正民法附則10条1項に「施行日前に債権が生じた場合(施行日以後に債権が生じた場合であって、その原因である法律行為が施行日前にされたときを含む。以下同じ。)におけるその債権の消滅時効の援用については、新法第百四十五条の規定にかかわらず、なお従前の例による。」とあるところ、賃金等請求権の「原因である法律行為」は労働契約であるから、労働契約の締結時点が施行日前か否かを基準として適用対象を決定すべきという考え方に基づくものである。
しかしながら、施行日以降に締結した労働契約に基づく賃金等請求権のみを適用対象とした場合には、施行日直前に新たに労働契約を締結した労働者の賃金等請求権の消滅時効期間は、2年間に据え置かれ、この状態は労働契約が終了するまで長ければ40年間以上にわたり継続されることになる。日本の社会における民事上の一般債権の消滅時効期間が5年間であるのに、労働者の賃金等請求権に限って、代償措置を講じる等の合理的理由なくして、40年以上もの長期間にわたり特別に短い扱いを続けることは、民法の時効制度改正の趣旨・目的(一般市民にとってわかり易い統一的時効制度の創設)を没却させるばかりか、法の下での平等原則(憲法14条)に反するとの判断さえもあり得る。
そもそも、改正民法附則10条の趣旨は、「施行日前に債権が生じた場合について改正後の民法の規定を適用すると、当事者(債権者及び債務者)の予測可能性を害し、多数の債権を有する債権者にとって債権管理上の支障を生ずるおそれもある」(法制審議会民法(債権関係)部会資料85)というものである。
このような趣旨からすれば、「原因である法律行為が施行日前にされたとき」とは、当該法律行為をした時点において請求権の内容、金額等が具体的に決定されており、施行日前に債権が生じた場合と同視できるような場合に限られるというべきである。
賃金等請求権についてこれを見ると、労使間においては労働契約締結時に基本給等の金額について一定の合意はするものの、労働契約締結以降において就業規則または合意に基づいて降給・昇給がなされるのが通常であるし、賞与請求権については毎年の業績によって変動するのであって、労働契約締結時点において請求権の内容、金額等が具体化されているものとは言えない。さらに、雇用契約においては労務の提供が終わらなければ賃金請求権の額は確定せず、このため、民法は「労働者は、その約した労働を終わった後でなければ、報酬を請求することができない。」(624条)と賃金後払い原則を定めており、この条項は民法改正後も維持される。
とりわけ残業代請求権については、労働契約締結以後の個々の残業命令とそれに基づく業務遂行によって初めて請求権の内容、金額等が具体的に決定され明確になり、初めて具体的な賃金請求権が発生するものであって、労働契約締結そのものを「原因である法律行為」とするのはあまりに不自然・不合理な解釈というべきである。
よって、賃金等請求権に関する新たな消滅時効制度の適用対象に関しては、施行日以降に締結した労働契約に基づく賃金等請求権のみを適用対象とするのではなく、施行日以降に発生した賃金等請求権を適用対象とすべきである。
以 上
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