与党単独審議入りの暴挙は許されない~4・27緊急院内集会幹事長挨拶より~

2018/4/30

働かせ放題の「高プロ」導入を阻止する4・27院内集会には、180名の方々にご参加いただきました。
院内集会冒頭の、幹事長による与党単独審議入りに対する怒りのあいさつをご紹介します。

 

働かせ放題の「高プロ」導入を阻止する4・27院内集会

~与党単独審議入りに対し、怒りの緊急院内集会あいさつ

 

                              2018年4月27日

                    日本労働弁護団幹事長

                    棗 一郎

 

1 今の内閣は不信任

 政府与党は、野党6党が欠席する中で、昨日の予算委員会での集中審議を一方的に断行、今日も衆議院本会議と厚生労働委員会で働き方改革法案の審議入りを強行した。安倍首相は、「国民の行政に対する信頼回復に向けて必ず全容を解明し、うみを出し切る。」と繰り返しているが、今の内閣の一番のうみは内閣の中枢ではないか。

 国民の安倍政権に対する信頼は地に落ちて泥にまみれているにもかかわらず、今のままでは働き方改革法案の一方的な審議入りは許されない。野党6党の要求する財務大臣辞任要求と柳瀬元首相秘書官の証人喚問は、国民の信頼回復のために必須の条件である。野党の全面審議拒否を断固支持する。

 財務省の福田事務次官のセクハラ発言について、あれがセクハラに該当しないと言うのなら、何もセクハラにはならないことになる。今の政府は、社会通念の常識さえも通用しない人たちの集まりなのか。この内閣はもうすでに終わっている。「お前はもう死んでいる。」と引導を渡してやろう。

2 「高プロ」は労働時間規制の破壊である

 さて、働き方改革一括法案だが、安倍内閣は今の通常国会は“働き方改革国会”だといい、一括法案が最重要法案だという。しかし、この法案の中には「高プロ」という猛毒が入っているので、これと裁量労働制対象業務の拡大がある限り、われわれは一括法案には断固反対である。裁量労働制は削除したが、政府はまだ諦めていない。

 スーパー裁量労働制と批判される「高プロ」は、ホワイトカラー・エグゼンプションの名前を変えただけのものであり、「専門業務型ホワイトカラー・エグゼンプション」というだけのことである。労働基準法の労働時間規制を全く受けない労働者を作り出すものであり、完全な規制の撤廃で、労基法の破壊である。24時間営業のコンビニエンスストアのように、労働者に対し昼も夜もなく24時間働け、年中無休で休みなしで働けという制度である。しかも、高プロが裁量労働制より悪いのは、労働時間に関する何の権限も裁量もない、使用者の業務命令には無条件で従わなければならないという点である。

 先週の東京新聞や今日の毎日新聞でも報道されていたが、労政審の議論で高プロを導入する根拠として、政府が持ち出したのが、JILPTが2014年に公表した裁量労働制のアンケート結果である。このアンケート結果は、原稿の裁量労働制について今のままでよいと答えた労働者が75%もおり、変えたほうがよいと答えたのは2割しかいない。使用者側も7割近くが今のままでよいと答えている。
 
 ところが、「現在の裁量労働制を変えたほうがよい」と答えた2割の労働者に対して、「具体的にどのように変更すべきか」と質問し、(複数回答で)「一定の休日・休暇が確保されるなら労働時間の規制を除外」(つまり、エグゼンプション)を選択した労働者が30.5%、「高い水準の年収が確保されるなら労働時間規制を除外」と答えた労働者が36.7%いたとして、一定のニーズがあることを高プロ導入の根拠としていた。

 しかし、75%もの労働者と約7割の使用者が変える必要がないと回答して、ホワイトカラー・エグゼンプション「高プロ」を導入するニーズなど圧倒的に少ないのに、あたかもニーズがあるかのように装って導入の根拠としたことは全く間違っている。最近の共同通信社の調査でも、主要企業百社のうち、「高プロ」導入への賛成は28%だけである。

 現時点では、具体的にどんな労働者が高プロに該当するのかすら全く不明であり、労政審の建議では、厚労省の省令で決めるとなっているだけで、「念頭にあるのは、金融商品の開発業務、金融商品のディーリング業務、市場アナリスト、コンサルタント、研究開発業務など」とされていた。これは、現在の専門業務型裁量労働制の対象業務とかなり重なるものであり、“屋上屋を重ねる制度”であり、無意味な制度創設である。

 また、健康確保措置として、年104日、4週4日の休日を与えるとしているが、4週28日の最後の4日間休日を与えれば、24日連続で24時間勤務を命じることも合法となる恐ろしい制度である。これでは、“過労死促進法”と言われ、“過労死倍増法”である。しかも、残業代ゼロだから、所定賃金だけで「定額働かせ放題」の制度となっている。

 さらに、長時間労働になるのは目に見えていても、最後の砦である労働基準監督官も使用者に対して長時間労働を是正指導できない。何故なら、是正指導する法的根拠である労基法の適用がない労働者だからである。高プロの労働者はたった一人、丸裸で自分の身を守るしかない。誰も助けてくれない制度である。

 しかも、過労で倒れても、過労死しても、労働時間の管理記録もないので、労災申請すらできない虞が強い。年収要件が少しくらい高かろうが、絶対に容認してはならない。

3 労働時間の上限規制も長すぎる

 労働時間の上限規制も問題である。特例で臨時に許される上限が1月100時間未満、月平均80時間以下というのは、過労死認定基準であり、余りにも長すぎる。これを聞いたサラリーマンは、「残業100時間も働かせられるのか・・」と絶望している。立憲民主党の対案が、1月80時間、月平均60時間までとするようだが、これも一つの案である。もっと上限時間を下げなければならない。

4 安倍内閣は労働者の皆さんのための「働き方改革だ!」と言いながら、一括法案は、こんなに毒が混じっている法案である。これに加えて、他方ではこっそりと、日本の雇用社会を「雇用によらない働き方」つまり、「労働者保護規制のない社会」に変えていこうと画策しているのをご存知だろうか?

 まだまだほとんど国民にも知られていないし、メディアも感度が鈍く、全然報道されていないが、「生産性向上特別措置法」(別名:生産性革命法)は、2013年夏に「解雇自由特区」と激しい批判を浴びた国家戦略特区の再来である。この法案の「プロジェクト型の規制のサンドボックス」制度の具体的スキームは、革新的な技術やビジネスモデルの実証計画について、主務大臣が革新的事業活動評価委員会に意見を聞いたうえで認定するものであり、評価委員会が内閣総理大臣を通じて勧告する仕組みになっている。これでは主務大臣は内閣総理大臣の意向に逆らえない。参加者や期間を限定することなどにより、既存の規制にとらわれることなく実証が行える環境を整備し、必要に応じて、規制の特例措置を講ずるとしており、この規制には、労働法規も入る。認定されたプロジェクトにおいては、労基法や労契法などの労働者保護法規が適用されないこともある。しかも、実証後は、規制の見直しを検討し、全国一律の規制改革を行うとしている。政府は、これによって、白タク・ライドシェアの事業を日本でも解禁する狙いがある。国土交通大臣が道路運送法を盾にとって許可できないとしても、内閣総理大臣が勧告すれば反対できない[1]のである。さらに、この制度によって、シェアリング・エコノミー全般を解放しようとしている。

 これでは、2013年の「解雇自由特区」をプロジェクトごとに認定するものであって、あまりにも法律無視の制度である。いわば、「法律を要らなくする法律」であり、これではもはや法治国家とはいえない。用法理)を適用しないということが構想されたが、さすがに、これでは憲法14条の法の下の平等に反する憲法違反の法律だと激しい批判にさらされた。法治国家では、ありえない法律である。だが、もう衆議院は通過し、参議院でも連休前に成立の見込みである。

 安倍内閣は、一方では、働き方改革だと労働者・国民の耳に心地の良いことを言っておきながら、他方では、こんなとんでもない憲法違反の疑いのある法律を通そうとしている。主権者であるわれわれ国民は、このような暴挙を断じて許してはならない。

 

[1] 【参照】「道路運送法第2条は、この法律で「旅客自動車運送事業」とは、他人の需要に応じ有償で、自動車を使用して旅客を運送する事業であつて、次条に掲げるものをいう。」と定める。「他人を」、「有償で」、「自動車で」、「運ぶ」ことが事業とみなされ、国土交通大臣の許可が必要な事業になる。どのような車でも、旅客を運ぶ以上、運送事業となり、許可を得なければ白タクで違法になる。