パワハラ防止法を最大限活用した職場のハラスメント防止対策を求める幹事長声明
2020/8/14
パワハラ防止法を活用し、職場からあらゆるハラスメントの撲滅を目指すべく、日本労働弁護団では下記幹事長声明を発表しました。
【文書ファイル】(PDF)
パワハラ防止法を最大限活用した職場のハラスメント防止対策を求める幹事長声明
2020年8月14日
日本労働弁護団
幹事長 水野 英樹
事業主に対してパワハラ防止措置を義務づけた改正労働施策総合推進法が、本年6月1日に施行された(中小企業については、2022年4月1日施行予定)。日本にはこれまでパワハラを法的に規制する法律が存在しなかったが、同法の施行により、事業主は職場で増加し続けるパワハラに対して真摯に向き合い、その防止対策に尽力することが法的に義務付けられたことになる。「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚労省告示第5号・以下「パワハラ指針」という)は、事業主に対して、①事業主の方針等の明確化及びその周知・啓発、②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備、③職場におけるパワーハラスメントに係る事後の迅速かつ適切な対応、④プライバシー保護、相談等を理由とした不利益取扱いの禁止など①~③と併せて講ずべき措置、を講じなければならないとしている。
もっとも、事業主がこれらのパワハラ防止措置を実施するにあたり、例えば、単に就業規則にパワハラを行ってはならない旨の条項を定めて据え置いているものの従業員にその趣旨が十分に説明されていない、相談窓口を定めたものの相談方法がわからない・相談しにくいとの理由で全く利用されないなど、形式的に実施するに留まっていては、パワハラを実効的に防止することはできない。実際、就業規則の制定、パワハラ防止研修、相談窓口の設置等を行っていたにもかかわらず、パワハラ事案が発生し、これらの防止対策が奏功していないとして企業が民事損害賠償責任を問われるケースも起きている。重要なのは、職場でパワハラを防止するために、具体的にどのような施策をとるべきなのかを、業種や社内風土を踏まえ、現実的かつ具体的に検討しながらこれらの措置を実行することである。
そこでは、労働者および労働組合が積極的な役割を果たすことも求められる。パワハラ指針は、事業主の措置義務の履行にあたっては、労働者や労働組合等の参画を得つつ、アンケート調査や意見交換等を実施するなどにより、その運用状況の的確な把握や必要な見直しの検討等に努めることが重要であるとしている。労働組合は、ハラスメントの深刻な被害が存在することを前提に、主体的に、現場におけるハラスメントを調査し、実態を把握すべきである。その上で、労働組合は、事業主が措置義務を履行しているか、その措置内容が実効性のあるものとなっているかをチェックするとともに、積極的に意見を述べて職場のパワハラ防止対策をリードすべきである。
また、性的指向・性自認に関する侮辱的な言動や本人の了解を得ない性的指向・性自認の暴露(アウティング)は、パワハラ指針においてパワハラの一例として挙げられている。すなわち、SOGIハラスメント(Sexual orientation and gender identity〔性的指向及び性自認〕についてのハラスメント)の防止対策についても事業主は法的な措置義務を負うのである。SOGIに関する取組みを行っている企業はまだ少なく、早急な対策が必要である。
さらに、顧客等の第三者からのハラスメント(いわゆる「カスタマーハラスメント」など)、取引先・フリーランスや就活生などの第三者に対するハラスメントの対策について、指針では「行うことが望ましい取組」に留まっている。しかし、UAゼンセン流通部門が2017年に行った調査では回答した労働者の7割が迷惑行為に遭遇したとの結果が出ており、就活生に対するセクハラが社会的に大きな問題となり厚生労働省に対し就活ハラスメントの対策を求める1万筆以上の署名が提出されるなど、すでに生じている被害の深刻さに鑑みれば、積極的な取組みを行うべきである。
日本労働弁護団は、事業主や労働組合がパワハラ防止法の制定を含む今回の法改正を最大限に活かし、職場からすべてのハラスメントをなくすべく尽力することを求める。
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