「解雇の金銭救済制度」導入ありきの検討会継続に反対する緊急声明
2020/4/9
現在、新型コロナウイルス感染症から引き起こされている経済活動の停滞により、解雇が急増しています。今後、使用者側から解雇規制の緩和を求める声が強くなることも予想されます。日本労働弁護団はこうした動きには断固反対し、本日緊急声明を発します。どうぞご一読下さい。
【文書ファイル】(PDF)
「解雇の金銭救済制度」導入ありきの検討会継続に反対する緊急声明
2020年4月9日
日本労働弁護団
幹事長 水野 英樹
現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界的に蔓延による経済活動の停滞によって、使用者による解雇等が急増している。いうまでもなく、こういった労働者の責めに帰すべき事由がなく、使用者の経営上の理由による解雇は「整理解雇」であり、通常の解雇よりも厳格に解雇が規制されるところ、使用者側において、経営悪化に対処するため、解雇規制の緩和を求める声が拡がることも危惧される。
今、政府に求められているのは、安易な雇用規制の緩和ではなく、雇用規制の維持と強化である。
しかしながら、厚生労働省は、この間、解雇規制を緩和する「解雇の金銭解決制度」の導入ありきの検討会を着々と進めている。具体的には、2018年6月12日に、「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」(座長:山川隆一東京大学教授。以下、「論点検討会」という。)を設置し、現在、法律実務家を除外し法学研究者6名により、解雇の金銭解決制度に関する議論を進めている。論点検討会の目的は、「解雇無効時の金銭済制度に係る法技術的な論点について議論し、整理を行う」ことにあるとされているが、論点検討会において公開された資料を見ると、解雇の金銭解決制度を導入することを前提にした法的問題点の整理となっており、しかも、論点検討会の目的である論点の整理を超えて、各論点における複数の選択肢から、どの考え方や制度を採用するべきかという議論にまで踏み込んでいる。このことからして、論点検討会は、立法化に向けての土台作りをしているものと容易に推察することができる。そのため、日本労働弁護団は、2019年3月18日、「「解雇の金銭救済制度」導入ありきの議論に反対する緊急声明」を出し、論点検討会における制度導入を前提とした議論を直ちに中止することを求めたところである。
しかしながら、その後も論点検討会における議論は続いており、現在に至るまで、合計9回、検討会が開催されている。直近に開催された2019年12月16日の第9回論点検討会の資料でも、具体的な制度設計のパターンを示すなどしており、このままでは、「法技術的な論点について議論し、整理を行う」ことに止まるはずの論点検討会が、労政審に対して制度の導入を前提としてその具体的な案を示し、労政審においては、制度導入を前提として、論点検討会から示された選択肢に対して決定すればよいような状況となりかねない。
日本労働弁護団は、これまでも、2015年11月7日付「『解雇の金銭解決制度』の法制化に断固反対する決議」、2016年11月4日付「『解雇の金銭解消制度』は不要であり導入に強く反対する」幹事長声明、同月12 日付「解雇の金銭解決制度の導入に強く反対する決議」等において、解雇の金銭解決制度を導入する必要性は全くないこと、仮に同制度が導入されれば、不当解雇が誘発されたり、使用者のリストラの武器として使われたりする可能性が高いこと、経営側の本音は使用者申立権を認めることにあり、ひとたび同制度が導入されれば、いずれ使用者側にも申立権が拡大される可能性が高いことなどを繰り返し指摘してきたところである。
日本労働弁護団は、このような観点から、改めて解雇の金銭解決制度の導入に断固として反対するとともに、論点検討会における制度導入を前提とした議論を直ちに中止することを求める。
以 上
- 2025年(第37回)労働法講座について 2024/11/18
- 第68回全国総会決議について 2024/11/18
- 「非正規公務員制度立法提言」を出しました 2024/11/8
- 労働者の権利357号(権利白書)、358号(秋号)を発行しました 2024/11/1
- 「労働基準関係法制研究会に対する意見書」を出しました 2024/10/31
- 「世界標準のハラスメント防止法制の実現を求める声明」を出しました 2024/10/31