参議院厚生労働委員会おいて棗幹事長が参考人として意見陳述しました
2018/6/12
6月12日(火)の参議院厚生労働委員会にて、参考人として日本労働弁護団幹事長棗一郎弁護士が意見陳述しました。
その原稿は以下のとおりです。
参議院厚生労働委員会
働き方改革関連法案に対する参考人意見
2018年6月12日
日本労働弁護団幹事長
弁護士 棗 一郎
はじめに~法案に対する基本的な立場
非正規労働者の格差是正や労働時間の罰則付き上限規制など戦後初めての労基法の大改正を含む8本もの重要法案を一括して短時間で審議して、まとめて採決しようとする国会審議のあり方が間違っており、一つ一つの法案を丁寧にもっと時間をかけて審議すべきである。
しかし、私は法案すべてに反対の立場ではなく、高度プロフェッショナル制度の導入には反対であるが、同一労働同一賃金法案には賛成であるし、労働時間の罰則付き上限規制法案には条件付きで賛成である。どれも日本の労働者に重大な影響を及ぼし、今後の日本の雇用社会の在り方を左右する極めて重要な法案であるから、個別に切り離して審議し採決すべきである。
1 労働時間の罰則付き上限規制法案について
労働基準法の改正により、罰則付きで労働時間の上限規制を設けることには賛成であるが、上限時間そのものが過労死の労災認定基準を超えるものとなっているのは極めて問題であるから、上限時間をもっと引き下げるべきである。
(1) 罰則付きの上限時間は相当引き下げるべき
国の過労死労災認定基準によれば、脳心臓疾患を発症前1か月間に概ね100時間を超える時間外労働が認められる場合、また、発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合には、業務と発症との関連性が強いと評価され、労災認定される。
ところが、今回の労基法改正法案第36条5項・6項では、時間外労働の上限時間が「1箇月100時間未満」と「1箇月当たりの平均時間80時間を超えないこと」と定められており、過労死の労災認定基準の水準に達する上限時間が設定されている。これでは労基法が過労死認定水準の長時間労働を容認することになり、36協定を締結すれば合法となってしまう。これではいくら何でも上限時間が長すぎるので、もっと過労死の労災事故が起こらないような水準まで下げるべきである。(例えば、一箇月最大70時間未満、月平均50時間以下とするなど。)
(2) 休日労働を含めると「1年960時間」もの時間外労働に!
ほとんどの国民には知られていないが、改正法36条5項と6項によると、休日労働を含めると一月平均80時間以内、年間で合計960時間の時間外、休日労働を命じることができることになる。これだとますます上記過労死認定ラインをはるかに上回ってしまうことになるので、やはり罰則付き上限時間は引き下げるべきである。
(3) 司法判断(判例)にも反する、企業の加害者責任免脱の危険
労働時間の上限時間につき、裁判所も「月95時間分の時間外労働を義務付ける定額残業代」の労使の合意の効力が争われた事件で、「このような長時間の時間外労働を義務付けることは、使用者の業務運営に配慮しながらも労働者の生活と仕事を調和させようとする労基法36条の規定を無意味なものとするばかりでなく、安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するおそれさえあるというべきである」としている(ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル事件札幌高裁平24.10.19 判決・労判1064 号)。
また、月83時間分のみなし残業手当の効力が争われた別の事件では、「月83時間の残業は、36協定で定めることができる労働時間の上限の月45時間の2倍近い長時間であり、・・相当な長時間労働を強いる根拠となるものであって、公序良俗に違反するといわざるを得ず」としている(穂波事件・岐阜地裁平27.10.22 判決・労判1127 号)。
このように、裁判所の判決では月95時間や83時間の時間外労働でさえ、使用者の安全配慮義務に違反し、公序良俗に反するものであり無効である(民法90条違反)とされるのであるから、改正法案に定める「月100時間」「平均80時間」の時間外・休日労働の上限も、裁判所によって公序良俗に違反し無効とされるおそれの強いものである。
したがって、このような懸念のある時間外労働の上限の例外は認めるべきではなく、労働者の命と健康を守り、家庭生活と仕事の調和を図ることができるような労働時間の上限規制をすべきである。
それとともに、上記内容の労基法改正によって、過労死労災認定基準の長時間労働に対する使用者の安全配慮義務違反(労働契約法5条違反)の責任が決して免脱されるものではないことを必ず明示すべきである。そうでないと、今後、使用者側から「一月100時間未満、月平均80時間を超えなければ労基法違反にはならず合法なのであるから、使用者の民事上の責任(損害賠償義務)はない。」という主張を許してしまうことになりかねない。そうなれば、過労死事案を出した企業の民事上の責任を追及できないこととなり、到底、過労死の遺族の方たちと国民の理解は得られない。
(4) あまりにも上限規制適用の例外(業種)が多すぎる
改正法案は、①新たな技術、商品又は役務の研究開発業務については上限規制そのものを適用しないとしており、②工作物の建設その他関連する事業については、5年間上限規制の適用を猶予していること、③自動車の運転業務については、上限規制の適用を5年間猶予し先送りしたうえで、猶予期間経過後も年間の時間外労働時間の規制は960時間を超えない範囲とするとしており、著しい長時間労働を許容するものとなっている。また、④医業に従事する医師についても、5年間適用を猶予したばかりか、猶予期間経過後も限度時間の適用はせず、臨時的特例による規制のみとしたことは極めて問題である。
毎年厚生労働省から発表されている「脳心臓疾患の労災補償状況」(「法律案参考資料」388頁参考)をみても、建設事業に従事する労働者や自動車運転業務に従事する労働者、医師もそれぞれ長時間労働による過労死・過労による精神疾患の多い業種であるにもかかわらず、上限規制の例外を設けるのは労働者の命と健康を軽視するものであって、断じて容認できない。新技術等の研究開発業務と医師については上限規制そのものを適用除外して規制が及ばないものとした。
労働者、国民の一人一人の命と健康は全く平等に保護されなければならず、例外的に保護しなくてよい職種などないはずである。改正法案は、このようにあまりにも上限規制の例外が多すぎて、到底、国民の理解と納得を得られるものではない。
2 「高度プロフェッショナル制度」(高プロ制度)の問題点
(1) 労働時間の裁量権があることは、高プロの適用要件となるのか?
安倍総理大臣は、今年6月4日の参議院本会議において、「①高プロ制度については、その対象業務に関し、働く時間帯の選択や時間配分は労働者自らが決定するものであることを省令に明記する方向で検討している。②したがって、使用者が極端に長時間働くような業務命令を出すような場合は、法令の要件を満たさず、高プロ制度の適用が認められないこととなる。③また、この場合には、法定労働時間に違反するとともに、割増賃金の支払い義務が発生し、罰則の対象になる。」と答弁されている。
ところが、労基法改正法案第41条の2には、高プロ対象労働者に労働時間に関する裁量権、すなわち自ら働く時間と休憩時間を決めることができるとか、出退勤の自由・休む自由があるという法文上の明文の定めはない。法律に書いていないということは、そこから直ちに労働時間についての自由裁量権が高プロ制度の法律上の要件だと解釈することは困難である。
また、職場の実態からすれば、政府が宣伝されているように、「労働者が成果を出せば早く帰れるようになる」という保障はどこにもない。一つの仕事が終われば次の仕事が降ってくるのが職場の現実であり、しかも、高度の専門職の労働者は優秀な労働者で仕事ができる人であり、そういう人にこそ業務が集中する。「業務量が多い」ということが長時間残業の最たる理由であることを忘れてはならない。
したがって、政府が法文には書いていないが、高プロには労働時間に関する裁量権があると言われるならば、その趣旨を明確にするため、同条の条文を修正して「高プロ対象労働者に労働時間に関する裁量権があること」を明示すべきである。そうしないと、法律の適用を受ける一般の国民には分からないし、労働者も使用者も安心して高プロ制度の適用と運用をできないことになってしまう。また、省令は国会の改正手続きは不要なので、いつ変更されても法律違反とはならず、法的安定性を欠くことになる。
高プロ対象者は労働時間に関する裁量権があるということであれば、「使用者は、高プロ対象労働者に対して労働時間や休憩について業務命令を出すことはできない。そのような業務命令が可能な労働者は高プロの要件に当たらない。」ということを確認すべきであり、合わせて仮に使用者が高プロ対象労働者に対して「明日の朝礼や会議に出席しろ」とか「もっと多くの時間働け」とか「この仕事を明日までに仕上げろ」など労働時間について指揮命令をした場合には、高プロの適用要件を満たさず、対象労働者は原則として法定労働時間制、労基法に定める労働時間、休憩、休日及び深夜の割増賃金に関する規定の適用があることを確認すべきである。増してや、使用者は、対象労働者に対して、「24時間働け」とか「休みなしで働け」「深夜まで働け」などという指揮命令はできないことをしっかりと確認すべきである。この点が、全国過労死を考える家族の会をはじめとする国民、労働者の最も懸念するところである。
(2) 高プロ制度の対象業務が具体的に定められていないのは極めて問題である
法案第41条の2第1項1号に定める「対象業務」とは、①「高度の専門的知識等を必要とし、」②「その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして」③「厚生労働省令で定める業務」と規定されている。
しかし、特に②の業務の性質上従事した労働時間とその成果との関連性が通常高くない業務とはいったい何を意味するのか不明であり、国民にとってどういう業務が高プロに当たるのか全く分からないものとなっている。法律を作る際に対象業務が具体的に明らかになっていないというのは異常であり、「導入ありき」と言われても仕方がない。
時給制のパートタイムやアルバイトの場合を除いて、通常一箇月の所定内労働賃金は一箇月の労働時間に比例して金額が決められているわけではない。基本給でも当該労働者の勤務年数や資格に応じた資格給や能力に応じた能力給、成果に応じた成果給などで構成されているし、その他に職務手当や管理職手当、専門職手当、家族手当、住居手当などなど様々な賃金の要素・種類で決められていて、労働時間と得た成果で賃金が決められている業務などほとんど想定できない。現に、多数の企業が事務職や生産の現場であっても成果主義賃金制度を取り入れている。
したがって、この法案のままでは対象業務の範囲が極めて不明確であり、広範な業務が該当するのではないか、将来どんどん拡大されていくのではないかという懸念は払しょくできないから、厚生労働省令で、例えば労政審の建議の段階で例として挙げられていた「金融ディーラー、アナリスト、コンサルタント、研究開発業務」と限定列挙して、「等」はつけないこととすべきである。
(3) 高プロの適用要件を満たしていない場合処罰できるのか?また、高プロ対象労働者が過労死した場合労災認定できるのか?
前述の安倍総理の答弁では、「高プロの法令の要件を満たさず、高プロ制度の適用が認められないこととなった場合には、法定労働時間に違反するとともに、割増賃金の支払い義務が発生し、罰則の対象になる。」とされているが、本当に労基法32条(法定労働時間制)・37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)違反で罰則を科すことができるのか?残業時間の割増賃金の支払いを命じることができるのか?という疑問点について、現場の労働基準監督官は、「高プロは労働時間の記録がないのに、立件しようがない。処罰できなくなるのではないか。また、実際の労働時間の記録が残っていないので、労災認定することは難しい。」と言っている。
これに対し、加藤大臣は、労働基準監督官がPCのログイン記録等を調べるから労災認定もできるし、罰則も適用できると答弁された。
ア しかし、労災認定の実務でも、裁判実務でも、「いつからいつまで何時間」などというざっくりの事実認定ではなく、毎日々々の始業・終業時刻、さらには休憩時間を明らかにしていくことが求められるから、法案に定められているような「健康管理時間」(法案41条の2第1項3号)では労災認定されないし、割増賃金の支払いも命じることはできない。なぜなら、健康管理時間とは「事業場内にいた時間」(すなわち、在社時間)と事業場外で労働した時間の合計をいうので、実際に労働した時間ではないからである。
このように、健康管理時間=労働時間ではないので、労災の行政実務でも裁判実務でも業務上の判断は困難化することは容易に推測される。現場の労働基準監督官によれば、業務上外の決定は、グレー部分は業務外となるので、影響は大きいとのことである。
イ しかも、使用者は高プロの対象労働者の労働時間把握義務が免除されるため、仮にPCのログ記録を毎日破棄していたとしても労基署は文句を言えない(他の方法で健康管理時間=滞在時間のみ把握していればそれでOK)。
ウ 労働基準監督官の捜査の実務から言えば、当該労働者が高プロの要件を満たさない場合、労基法の原則に戻って1日8時間、週40時間を超える労働について労基法32条違反が成立することになるが、32条違反は1日1罪で、一日一日の実際の労働時間と休憩時間を特定して厳格な証明ができないと処罰できない。
さらに、使用者からの当該労働者に対する毎日の具体的な指揮命令の事実が立証できないとやはり、立件は難しい。換言すれば、労基法32条違反の実行行為(犯罪行為)すなわち、「〇月〇日、法定の除外事由がないにもかかわらず、8時間を超えて労働することを命じたこと」が特定できないということになるから、立件できないことになる。そうなれば、使用者はお咎めなしということになる。
エ さらに、加藤厚労大臣の答弁で「たとえ労働時間の記録が残っていなくてもPCのログイン記録等で労働時間を認定することができる。」とされていることについては、そもそも始業から終業までの労働時間が、全て社内PCに表れているという実態などない。ほとんどの労働者は、パソコンの前だけで仕事をしているのではない。
例えば、①ある金融機関での過労自死の事件では、PCのログ記録が残っているのに、使用者側の「パソコンを開けていただけで仕事はできていなかったはず」との抗弁を労働基準監督署が丸呑みにして、労災補償の不支給決定が出された。また、②私が担当した専門業務型の裁量労働制で働いていた市場アナリストの男性の過労死事件では、使用者が死亡直後に自宅のPCを回収に来て証拠隠滅を図ったことがあった。さらに、③ある大企業の過労うつ病による自死未遂事件では、労働者各自専用の社内PCで残業をし続けていると残業時間が多いことが発覚してしまうため、一定の時間以降は社内の共用PCで残業をするよう命じられていたケースもある。また、④他の事件では、過労死発覚後、使用者が被災者の使用していたパソコンのすべてのデータを、専用のソフトを用いて消去していた。このように、PCのログ記録があるから労災被害の救済が十分であるなどという意見は、労災実務の実態を踏まえないものである。
オ 労基法の適用があり、使用者に労働時間把握義務が課せられている原則的な事案ですら、厚労省の統計上、過労死事件の労災認定率は3割程度であり、認定基準を超える労働時間の存在を立証できる事案は現在でも少数というのが実態である。
カ また、被災者から労災申請がなされた後、労基署は使用者に対し、労働時間記録の提出を書面で求めるが、「高プロである以上労働時間を把握していないので何も出せません。」と言われた場合、さらに突っ込んだ調査を行う制度的担保は何もなく、仮に監督官が労基法101条(労働基準監督官の権限~臨検、帳簿・書類の提出、尋問)に基づき臨検を行い、時間記録の提出を求めたとしても、「記録はありません」と拒否されれば同じことである。
このように、社内の記録に依拠して労災認定できない以上、結局、労災認定がされうる事案というのは、家族に毎日まめに帰宅、出勤メールを逐一送っているなど、自分のプライベートの記録により始業、終業時間が割り出せるケースのみである。しかし、そのような行動をとっている労働者などほとんどいない。高プロ対象労働者が過労で倒れて過労死しても、遺族は労災申請すら極めて困難となり、泣き寝入りするしかなくなる。こんなことを許していいのでしょうか。
(4) 高プロ対象者にも労働時間の管理・記録義務を課すべき
そもそも、労働時間の規制を除外することと労働時間を管理しないことは別問題である。高プロ対象者が労働時間規制から外れるからと言っても、使用者の労働契約法5条に基づく労働者に対する安全配慮義務としての健康配慮義務は免れるものではないから、高プロ対象者が長時間労働で過労死した場合には、使用者として法的責任を負うことは変わらない。むしろ、高プロ制度は労働時間の規制がないからこそ、労働時間の管理は厳格にしなければ、働く者の命と健康確保がおぼつかないと考えるべきではないか。今回の改正で新たに、「健康管理時間」などという概念を持ちだしてまで、なぜ労働時間の把握・記録を免除するのか、とても国民の納得は得られない。政府が過重労働をなくすというなら、労働時間の把握・記録はスタートラインの課題のはずである。 なぜなら、当該労働者がいったい何時間働いたのか、それが過労死認定基準に達するものなのか分からなければ、労災を予防することはできないからである。
(5) 市場アナリスト(専門業務型裁量労働制)の過労死事例
① 長時間労働の実態
国の過労死労災認定基準によれば、発症前1か月間に概ね100時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるところ、本件では133時間42分に達している。
また、認定基準によれば、発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月あたり概ね80時間を超える時間外労働が認められる場合には、業務と発症との関連性が強いと評価できる。本件の市場アナリストの男性(40歳代)では、発症前6か月間の平均時間外労働時間数は108時間56分に達している。
② 週休2日でも亡くなっている。
本件の場合、月100時間~130時間のオーバーワークだったが、土日(土曜日は2時間程度の労働)はほぼ休みで週休2日であった。それでも、1日5時間~6時間以上の残業になり、1日13時間~14時間働き、過労死した。週にほぼ2日休んでいても過労死するのである。
③ 実労働時間の記録が残らないので、労災申請すらできない!
高プロと同じで、裁量労働制も使用者が労働時間を把握する義務を免除するものだから、実際の労働時間の記録が残らない。したがって、被害者・遺族にとっては労働時間の立証が極めて困難であり、事実上労災の申請すらできないのが現状である。
しかも、過労死を発生させた使用者側は労災隠しをするために証拠隠滅を図ることがあり、本件も被災者が死亡した翌日に会社は自宅まで被災者が仕事に使っていたPCを回収しに来て、証拠隠滅を図っている。
本件は、複数の弁護士が代理人に就いて、会社とPCやメールの送受信記録、出退勤の記録など労働時間の証明につながるような記録を出してほしいと交渉したが、会社は拒否したので、裁判所に証拠保全の申立てをして決定をもらい、会社事業所に裁判官と書記官を連れて証拠保全に行ったが、結局会社は被災者が使っていたPCを最後まで提出しなかった。
3 労働安全衛生法改正案について
現在、働き方改革関連法案と同時に審議されている労働安全衛生法改正案、いわゆるパワハラ規制法案については、日本働弁護団も10年以上も前から職場のいじめ・嫌がらせを防止するために立法的措置が必要であると主張してきた。現在の労働相談でも職場のいじめ・嫌がらせの相談が5年連続でトップであり、訴訟や労働審判も多数提起されている。職場のいじめ・嫌がらせ、パワハラ対策が喫緊の課題であることは間違いなく、ガイドラインの策定だけでは到底、労働現場の相談事案には有効な対応をすることはできず、同法案の早期の成立を図るべきである。
おわりに~高プロ制度には立法事実がない
日本の労働時間制度は、現在でも十分に弾力的な時間制度になっており、原則形態である通常の労働時間規制(法定労働時間制)の下で働いている労働者は全体の40.8%に過ぎない(「法律案参考資料」345頁)。これ以上労働時間規制を緩和する必要はない。
高プロ制度には、日本の全ての労働組合と労働者が反対しており、労働政策審議会での建議の際にも労働側委員は全員「高プロ」法案に反対している。また、過労死を考える家族の会などの市民団体や日本弁護士連合会などの法律家団体も「高プロ」法案に反対している。最近の共同通信社の調査では、主要企業百社のうち、約7割が「今の国会で成立させる必要はない」と回答している。
このように、労働側だけでなく、使用者側や市民、法律家団体のほとんどが反対している「高プロ」が入っている働き方改革一括法案を強行採決などすべきではなく、法案から削除するべきである。国民の理解を得られるようにするためには、少なくとも徹底した審議を行い、長時間労働と過労死を助長しかねないような問題点を丁寧に除去していくべきである。
以上
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