「ニッポン一億総活躍プラン」に対する幹事長声明
2016/7/6
本日(2016年7月6日)、日本労働弁護団では現安倍政権が閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」に対し、以下の2つの幹事長声明を発表しました。
「非正規雇用の待遇改善」に対する幹事長声明160706.pdf
「長時間労働の是正」と「同一労働同一賃金(非正規雇用の待遇改善)」の問題、7月10日の参議院選挙において、大きな争点になっているとは言い難い状況ですが、いずれも労働者にとってはかなり重要な問題です。
皆さん、是非ご一読下さい。
「ニッポン一億総活躍プラン」における「長時間労働の是正」に対する幹事長声明
2016年7月6日
日本労働弁護団 幹事長 棗一郎
2016年6月2日に安倍政権が閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」では、「働き方改革の方向」として、「長時間労働の是正」を掲げている。しかしながら、現在の安倍政権に真に長時間労働を是正する意思があるとは到底考えられない。
なぜなら、安倍政権は労働基準法を改悪して、長時間労働を是正するどころか、逆に長時間労働を促進する政策を実現しようとしているからである。すなわち、昨年の通常国会で提出され、今年の通常国会でも継続審議となった、「労働基準法等の一部を改正する法律案(2015年4月3日提出)」
は、企画業務型裁量労働制度を大幅に拡大するとともに、新たな「高度プロフェッショナル制度」(ホワイトカラー・エグゼンプション)の導入によりあらゆる労働時間規制の適用排除を認めるなど、労働時間規制の大幅な緩和を内容とするものであり、「定額(固定給)で働かせ放題」の制度となっている。
安倍政権の政策は大きく矛盾しており、一方で労働基準法の規制緩和を推し進めながら、他方では「ニッポン一億総活躍プラン」において「長時間労働の是正」を掲げており、全く信用することはできない。真に安倍政権が長時間労働を是正しようとするのであれば、最初にやるべきことは、このような「労働基準法等の一部を改正する法律案」を直ちに撤回することである。
さらに、安倍政権が「ニッポン一億総活躍プラン」で示している、長時間労働の是正策の内容自体も実効性や実現可能性のないものばかりである。そもそも、同プランで言及されている「36協定における時間外労働規制の在り方」については、当初議論されていた「時間外労働が月100時間を超えた企業に対する労働基準監督署の立ち入り調査の基準を月80時間に引き下げる」といった数値目標が同プランの本文から消えて、単に「法規制の執行を強化する。」と記載されるだけになっており、大きく後退している。
また、「36協定における時間外労働規制の在り方について再検討」を終える時期は、1年半も先の2018年度中が目標とされている。長時間労働の是正の重要を真に理解していれば、36協定における時間外労働規制の「再検討」にこれほどの期間をかけることは許されないはずである。
本来、長時間労働を是正するために必要な政策は、労働時間の量的上限規制の導入や勤務間インターバルの導入、使用者の労働時間記録の義務化(罰則付)など、実効性のある「労働時間規制強化」の立法政策である(詳細は、既に当弁護団が2014年11月28日に発表した、あるべき労働時間法制の骨格[第一次試案]にて述べたとおりである)。このような法規制には敢えて踏み込もうとしない「ニッポン一億総活躍プラン」では、長時間労働の是正が実現出来るはずがない。
いうまでもなく、長時間労働の実害は労働者の命と健康を重大な危険にさらすことであるが、弊害はそれだけではない。長時間労働は、現実には女性を家庭に縛り付けて真の女性の活躍を阻害し、家事や育児に関わりたいと考える男性を職場に縛り付けて家庭での「生活時間」を奪い、さらには労働者が地域社会で活動する機会を奪うなど、労働者からあらゆる「生活時間」を奪う要因となっている。わが国で働く労働者の命と健康を守り、労働者の「生活時間」を取り戻すためには、安倍政権が国会に提出し継続審議となっている「労基法改正案」を白紙に戻し、労働時間の上限規制及びインターバル制度の導入など、真に長時間労働を是正するための法規制が必要である。日本労働弁護団は、わが国の全ての労働者と労働組合とともに、長時間労働を無くすための取り組みをいっそう強化していく決意である。
安倍政権の掲げる「非正規雇用の待遇改善」に対する幹事長声明
2016年7月6日
日本労働弁護団幹事長 棗一郎
安倍内閣は、本年6月2日閣議決定した「ニッポン一億総活躍プラン」において、「同一労働同一賃金の実現など非正規雇用の待遇改善」の実現を掲げ、その具体的な施策として、「労働契約法、パートタイム労働法、労働者派遣法の的確な運用を図るため、どのような待遇差が合理的であるかまたは不合理であるかを事例等で示すガイドラインを策定する」こと、「不合理な待遇差に関する司法判断の根拠規定の整備」、「待遇差に関する事業者の説明義務の整備など」を含めた上記三法の「一括改正等を検討し、関連法案を国会に提出する」としている。
しかし、現在、正規雇用労働者に比べて雇用が不安定で賃金などの待遇も著しく低い非正規雇用労働者が我が国の労働者の約4割を占めるようなったのは、歴代の自公政権が非正規雇用を拡大する労働政策を取り続けてきたからであり、実際、現安倍内閣は昨年9月の国会で、派遣労働を事実上無期限に使い続けることを可能にし、派遣労働者を増加させる労働者派遣法の大改悪を派遣労働者と労働組合の反対の声を無視して強行採決し成立させた。それに加えて、安倍政権は、野党から対案として提出されていた、いわゆる「同一労働・同一賃金推進法」を骨抜きにして成立させ、派遣労働者と正規雇用労働者との待遇格差をこれまでと同じように放置する立法政策を取った。
非正規雇用の問題を解決するには、大改悪された労働者派遣法を直ちに元に戻してさらに抜本的な見直しをすることにより派遣労働を減らし、さらに有期雇用労働者は合理的な理由がなければ雇うことができないとする「入り口規制」を定めて有期雇用を減らすとともに、実効性の期待できない「ガイドライン」を作成するだけに終わらせるのではなく、労働契約法20条やパートタイム労働法8条等を改正して、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との労働条件の相違に合理性があることについて使用者側への立証責任の転換、労働条件の相違に合理性が認められない場合の法的効果(損害賠償だけでなく正規雇用労働者と同じ労働条件を認める補充的効力の明文化)や救済内容、法を遵守するために他の労働者(特に正規雇用労働者)の労働条件を引き下げてはならないことなどを明記するべきである。
また、同一価値労働同一賃金原則は、日本も1967年に批准しているILO100号条約「同一価値の労働についての男女労働者に対する同一報酬に関する条約」1951年採択)で明記されているように、もともと男女賃金等の差別是正のための原則であり、雇用形態の違いによる不利益取り扱いの禁止とともに、性による賃金などの差別禁止を実効のあるものにするためには、労基法4条や男女雇用機会均等法を改正して、前記のような立証責任の転換、労働条件の相違に合理性が認められない場合の法的効果や救済内容などを明記する必要がある。
これまで非正規労働者の待遇改善とは真逆の態度をとってきた安倍政権の政策に鑑みれば、「ニッポン一億総活躍プラン」が真に非正規労働者の待遇改善を実現することを目指しているか極めて疑問である。「非正規労働者の待遇改善」は労働者にとって重要な課題であり、参議院選挙前の政治的パフォーマンスに終わらせてはならない。
日本労働弁護団は、非正規雇用労働者の待遇改善のため、また、女性労働者の雇用や賃金差別の是正のため、これまで各地の弁護士が裁判などの取り組みをしてきたが、今後、立法提言などを含めてさらに取り組みを強めていく決意である。
以上
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