「資金移動業者の口座への賃金支払の解禁に反対する幹事長声明」を出しました
2021/2/19
昨年7月の成長戦略フォローアップなどを受けて、いま、労政審労働条件分科会で賃金のデジタル払(現在、労基則で労働者同意の下で銀行や証券口座への賃金払が認められていますが、これに資金移動業者(いわゆる××payなど)を加えること)を認める方向で検討されています。
これに対して日本労働弁護団では、賃金のデジタル払の種々の問題や不安などが払拭されない中で解禁することに反対する声明を出しました。
是非、ご一読ください。
資金移動業者の口座への賃金支払の解禁に反対する幹事長声明
2021年2月19日
日本労働弁護団
幹事長 水野 英樹
政府は、「成長戦略フォローアップ」(2020年7月17日閣議決定)等で、「新たな生活様式」に対応した規制改革として、「デジタルマネーによる賃金支払い(資金移動業者への支払い)の解禁」を推進している。具体的には、労働者の賃金支払に関し、資金移動業者の口座への支払いを追加し、早期の制度化を目指すとしている。
しかしながら、かかる制度化は、労基法24条が定める賃金の支払い方法に関する「通貨払原則」の趣旨を損なうもので、解禁に反対である。「通貨払原則」の趣旨は、労働者にとって最も安全で便利な交換価値のある通貨での支払を確保して、労働者の経済生活の安定を図ることにある。かかる原則が損なわれると、労働者に賃金が支払われても食料品等の購入や住居の確保にも支障をきたす事態が生じかねず、労働者の生存すら脅かされるのであって、生存権保障(憲法25条)にも直結する問題が生じる。
現行制度上の「通貨払い原則」の例外としては、「厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法」(労基法24条1項ただし書)として労働者からの同意を得た場合で、本人名義の銀行口座と所定の要件を満たす証券総合口座による振込の方法を定めている(労基法施行規則第7条の2)。ここへ、新たに労働者の賃金を資金移動業者の口座へ支払う方法を追加することが議論されているのである。
しかし、本制度が解禁されると、資金移動業者が破綻した場合、供託による資金保全の義務が課されていても払戻に時間がかかったり、資金保全の額が不十分であったりすれば、労働者が生活基盤である賃金を受け取れなくなる可能性があり、問題がある。
また、資金移動業者において不正引き出しに対するセキュリティ体制を十分に備えるようにし、万が一の場合の十分且つ迅速な補償制度の整備がなされなければ、不正引き出し等が要因となって労働者が賃金を得られなくなる問題もある。
この点、政府は外国人労働者が日本で生活する際の利便性を制度解禁理由の一つとして掲げる。「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(令和2年度改訂)」は、《現状認識・課題》として、外国人が日本で生活していく際、家賃や公共料金、賃金の受領等様々な場面で金融機関の口座利用が必要となるため、外国人が円滑に銀行口座を利用することが必要になることを指摘し、これを踏まえ、口座開設が難しい外国人労働者に対しては、デジタルマネーによる賃金支払いのニーズがあるとする。
しかし、上記《現状認識・課題》の改善に必要なのは、「金融機関における外国人口座開設等の金融サービスの利便性向上」(前記対応策・施策番号85)や、特定技能外国人及び技能実習生に対して受け入れ企業が金融機関で円滑に口座を開設できるようサポートすること(同・施策番号86)であって、これで足りる。
この点、外国人労働者は仕送り等のため現金で母国に送金する必要がある場合が珍しくない。しかし、本制度が解禁されると、デジタルマネーによる賃金支払いを押しつけられた外国人労働者がデジタルマネーの現金化に手間取って母国への送金で不便を強いられかねず、かえって不都合である。
制度の建前上は労働者本人の同意が要件となっても、とりわけ外国人労働者は日本人以上に使用者と力関係が非対称となりがちで、歯止めとして機能し難い。
以上より、当弁護団は、このような問題点や懸念、とりわけ、資金保全と不正引き出し等への不安が払拭できない状況において、「通貨払い原則」の例外となる本制度を解禁することに反対である。
以上
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